10.
三月上旬。ついに合格発表当日になった。私は自分の肩を抱きしめて、がたがたと震えていた。
合否は卒業式の数日前に公示される。もう週末には卒業式が控えているのに、それどころではない心境なのはこのせいだ。結果はインターネットの専用ページで確認できる。時間になるとアクセスが集中するので、十分は置くことにした。
後ろにはお母さんと、お姉ちゃん。姉は春休みで帰省中だった。
「大丈夫でしょ」なんて、軽く言ってくれる姉。
「あんまり心配してないのよね」と、便乗する母。
母曰く、近年の少子化の背景から、地方の学校だとよほど成績と内申に問題がない限り、足切りにすらあわないのではないかと予想しているとのこと。そんなもっともらしいことを言われるとすごく期待してしまうが、油断は禁物だ。
時計を確認すると、自分で決めた時間の一分前だった。
五十秒前。
四十秒前。
三十秒前。
ドッドッド。心臓の音が、秒針とともに進んでいく。
三秒前。
二秒前。
一秒前。
ゼロ。
ピピピピピ。セットしておいたアラーム音が鳴り響く。
私は、深呼吸をして、発表ページへとアクセスした。
受験番号は、上から数えてすぐの、若い番号。自分が受けた学科の欄を確認する。
「…あっ、た…」
表示されている番号の中に、私の番号が、あった。
「あったー!!」
わっと、私の中で歓喜が爆発した。後ろに振り返り、母と姉に向かって、叫んだ。
「受かった! 私、受かってるよ!!」
「おめでとう!」
姉が強く抱きしめてくれた。ぬくもりに安心する。ぶわっと涙が溢れてきた。
やった。来月からあの学校に行けると思うと、信じられない心地だった。
頭を撫でてくれる姉の腕の中で泣きながら、母がパソコンの画面を注視しているのが気になった。
「あー、うん。ちゃんと受かってるね。よしよし、お疲れ様」
ぼそぼそとつぶやきながら確認作業をして、力強く頷いていた。そして姉と一緒に、頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、私は手続きしてくるから。夕方には帰るかな」
よっこいしょ、と母が立ち上がった。書類と通帳などを手に持って、入学の用意をしてきてくれるらしい。
はっとした。これから一番忙しいのは親なのか、と。
「いってらっしゃーい」姉が、母の背中に向かって言った。
「お、お姉ちゃん。私も行かなくていいのかな…」
そう心配を口にすると、姉はきょとんとした顔を見せた。
「え、いいでしょ。あれは親の仕事だし。お金とか触るから子どもがついていくものじゃないよ」
「…そうなんだ…」
姉はよしよし、と追加なでなでをくれる。
「澪はいい子だね。本当にあたしの妹…?」
「え?」
「あたし、気にもしなかったわ…。専門だって入学金のこと話すの忘れてて、期限当日になって振込いるんじゃね?ってお母さんに聞いてさ。かなり怒らせたんだよ」
「えっ?!」
「マンションも本当ギリギリになって見つけたし、大変だったよ~」
「そ…そうだったの…」
そんな事件があったとは知らなかった。母が受験や手続きに対して迅速に行動するのは、その経験があったからかもしれない。
というより、合格は秋ごろにもらってなかったっけと記憶をたどる。一人暮らしのマンションを見つけてなかったとは、どういうことだろう…。怖くて聞けなさそうだった。
「お姉ちゃん…」
「ん?」
「私、お姉ちゃんの妹で本当に良かったと思う…」
「えー? なになに、嬉しいんだけど?」
上の子がやらかしてくれたおかげで、下の子が楽出来ることって、あるのかもしれないなと思った。
母の支援が的確すぎて、助かった思い出がたくさん、あった。




