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さよなら、オリーブビーチ  作者: 花守郁
第四章:旅立ちの汽笛
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03.

 元日。初詣に行く日になった。

 さすがに二年参りは許されなかったので、早朝から出かけることにした。

 秋祭り開催場所でもあった、西村地区の神社。毎年、小規模ながら数軒の出店が並び、近所の人でにぎわっている。

 神社の駐車場で待ち合わせをしていた。僕は一番に到着し、二人を待つ。

「おはよう、航」

「あ、澪。おはよう」

 次に来たのは、澪だった。軽くふつうの挨拶をしてから、改めて新年の挨拶をする。

「昨年はお世話になりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそお世話になりました。今年もよろしくお願いします~」

 深々~と頭を下げあう。慇懃無礼というか。ご丁寧に挨拶されるとおもしろかった。澪が声をあげて笑った。

「おっかし~! あ、水斗はまだなんだ?」

「うん。てっきり澪と一緒に来るかと思ってたのに」

「それはない」すぱっと真顔で返された。あまりの即答にビクッとしてしまう。

「そ、そうなんだ」

 お正月早々、面倒を見るのは嫌だということだろうか。待ち合わせの時間は家を出る時間だ、くらいの感覚で生きている水斗と、真面目な澪はこういうところで相性が悪かった。


「ごめぇん…。お待たせ…」

「え…」

 待つこと十分弱。水斗は疲れ切った様子で、現れた。

 まさかの着物。かっちりと袴を履いて登場した。僕と澪はぎょっとして目を見開く。

「なんで着物…」

「ばあちゃんにみんなと行くって言ったら、せっかくだしって。無理やり…」

 さめざめと惨めな泣き真似をする水斗。話を聞いて、おばあさんは祝い事というか、行事を大切にする人なんだなと苦笑する。

「いいじゃん。似合うよ、水斗」

「ありがとう…。父ちゃんの着物らしいんだけど、最近背丈似てきたからって大張り切りだったよ…」

「着てもらいたくて仕方なかったんだね」

 多分、親父さんの成人式で拵えた着物だろうなと思った。水斗は親父さん似だから、特に着てほしかったかもしれない。水斗の成人式まで待てなかったのだろう。吉田家、かわいいな。

 考えれば考えるほど、微笑ましさが面白さにまで昇華されて、顔面筋がぷるぷるした。

「すごい高そうな着物じゃん…。水斗、汚さないように気を付けなよ?」

 澪だけは真っ当に、大切なことを指摘する。本当にいい子だなと感心した。

「はぁい…」水斗はよわよわしく返答していた。


 カランカラン。鈴を鳴らし、二礼二拍手をする。願いは簡潔に、無病息災だった。頭のなかで唱えると、目を開けて一礼で締める。

 さて、と横の二人を見ると、まだ拝んでいた。願いが長そうだなと二人のなかなかの欲深さに呆れる。ここは受験のことだけをさくっと願っていればいいのに。

 僕は一歩下がって、二人が念じ終わるのを待つ。水斗は慣れない着物で動くのが大変なのか、がにまただった。


 念じ終わるのは水斗が先、澪が後だった。逆かなと予想していたので、意外な結果だった。

 二人は一礼し終わると、こちらに寄ってきた。

「願いが長すぎるよ」

「航が短すぎるんじゃないの? 結構絞ったつもりなんだけど」

「何個お願いしたんだよ…」

「とりあえず5個」

 うわぁ、と声が出た。そのまま授与所へ向かう。

「お守りはやっぱり合格祈願だよね。買ってあげるよ」

「うわー! もう終わってるからって余裕な顔して!」

「嫌みだ~!」

 ふふんと鼻を鳴らすと、二人からきゃいきゃいとした非難が飛んでくる。

 三年間、優秀な成績を保っていたからこそ取れた推薦と合格なので、なんの後ろめたさもなかった。

「あと1か月、励みたまえ諸君」購入したお守りを、上から目線で渡した。

「ありがとう!」

「航からもらえると本当にご利益ありそうだね」

 素直に受け取って喜んでくれる幼なじみたち。きゅんっと胸が締め付けられた。この世の純粋を形にしたら、この子たちになるんじゃないだろうかという清らかさだった。

 まあ実際は、ちょっと高いお菓子を変えるくらいの値段がするお守りを、無償でもらえたからだろうけれど。お年玉を使わずに済んで嬉しかっただけだろうけれど。

 その点に関しては、浮いたお金で息抜きのおやつでも買いなさいよ、と思っておいた。

 楽しい、卒業までにわずかなにある、三人での休息だった。

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