03.
元日。初詣に行く日になった。
さすがに二年参りは許されなかったので、早朝から出かけることにした。
秋祭り開催場所でもあった、西村地区の神社。毎年、小規模ながら数軒の出店が並び、近所の人でにぎわっている。
神社の駐車場で待ち合わせをしていた。僕は一番に到着し、二人を待つ。
「おはよう、航」
「あ、澪。おはよう」
次に来たのは、澪だった。軽くふつうの挨拶をしてから、改めて新年の挨拶をする。
「昨年はお世話になりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。今年もよろしくお願いします~」
深々~と頭を下げあう。慇懃無礼というか。ご丁寧に挨拶されるとおもしろかった。澪が声をあげて笑った。
「おっかし~! あ、水斗はまだなんだ?」
「うん。てっきり澪と一緒に来るかと思ってたのに」
「それはない」すぱっと真顔で返された。あまりの即答にビクッとしてしまう。
「そ、そうなんだ」
お正月早々、面倒を見るのは嫌だということだろうか。待ち合わせの時間は家を出る時間だ、くらいの感覚で生きている水斗と、真面目な澪はこういうところで相性が悪かった。
「ごめぇん…。お待たせ…」
「え…」
待つこと十分弱。水斗は疲れ切った様子で、現れた。
まさかの着物。かっちりと袴を履いて登場した。僕と澪はぎょっとして目を見開く。
「なんで着物…」
「ばあちゃんにみんなと行くって言ったら、せっかくだしって。無理やり…」
さめざめと惨めな泣き真似をする水斗。話を聞いて、おばあさんは祝い事というか、行事を大切にする人なんだなと苦笑する。
「いいじゃん。似合うよ、水斗」
「ありがとう…。父ちゃんの着物らしいんだけど、最近背丈似てきたからって大張り切りだったよ…」
「着てもらいたくて仕方なかったんだね」
多分、親父さんの成人式で拵えた着物だろうなと思った。水斗は親父さん似だから、特に着てほしかったかもしれない。水斗の成人式まで待てなかったのだろう。吉田家、かわいいな。
考えれば考えるほど、微笑ましさが面白さにまで昇華されて、顔面筋がぷるぷるした。
「すごい高そうな着物じゃん…。水斗、汚さないように気を付けなよ?」
澪だけは真っ当に、大切なことを指摘する。本当にいい子だなと感心した。
「はぁい…」水斗はよわよわしく返答していた。
カランカラン。鈴を鳴らし、二礼二拍手をする。願いは簡潔に、無病息災だった。頭のなかで唱えると、目を開けて一礼で締める。
さて、と横の二人を見ると、まだ拝んでいた。願いが長そうだなと二人のなかなかの欲深さに呆れる。ここは受験のことだけをさくっと願っていればいいのに。
僕は一歩下がって、二人が念じ終わるのを待つ。水斗は慣れない着物で動くのが大変なのか、がにまただった。
念じ終わるのは水斗が先、澪が後だった。逆かなと予想していたので、意外な結果だった。
二人は一礼し終わると、こちらに寄ってきた。
「願いが長すぎるよ」
「航が短すぎるんじゃないの? 結構絞ったつもりなんだけど」
「何個お願いしたんだよ…」
「とりあえず5個」
うわぁ、と声が出た。そのまま授与所へ向かう。
「お守りはやっぱり合格祈願だよね。買ってあげるよ」
「うわー! もう終わってるからって余裕な顔して!」
「嫌みだ~!」
ふふんと鼻を鳴らすと、二人からきゃいきゃいとした非難が飛んでくる。
三年間、優秀な成績を保っていたからこそ取れた推薦と合格なので、なんの後ろめたさもなかった。
「あと1か月、励みたまえ諸君」購入したお守りを、上から目線で渡した。
「ありがとう!」
「航からもらえると本当にご利益ありそうだね」
素直に受け取って喜んでくれる幼なじみたち。きゅんっと胸が締め付けられた。この世の純粋を形にしたら、この子たちになるんじゃないだろうかという清らかさだった。
まあ実際は、ちょっと高いお菓子を変えるくらいの値段がするお守りを、無償でもらえたからだろうけれど。お年玉を使わずに済んで嬉しかっただけだろうけれど。
その点に関しては、浮いたお金で息抜きのおやつでも買いなさいよ、と思っておいた。
楽しい、卒業までにわずかなにある、三人での休息だった。




