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さよなら、オリーブビーチ  作者: 花守郁
第四章:旅立ちの汽笛
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02.

 なんで黙ってた、とかなり怒られて詰められた。

 僕は冷静にいやいや、と抗議する。

「確定したのほんと最近だから。業者の手配とかフェリーの予約とか調整してたんだよ」

「それにしてもこのタイミングで言うのはなしだろ?! さっき受験生同士で初詣行こうって話なんなの?!」

「冬休み中に言えばいいかなと思ってたし、引っ越しのこととかで忙しくてそもそも受かったのを忘れてた」

「なにそれ…。私もお見送りとかしたいのにどうするの…」

「あ、ありがとう。してくれるんだ、うれしい」

 正直、ずっと前から引っ越しすることは決まっていたので、やっと日程も決まって動けるなと。その程度の認識でいた。そういえば、島での生活が終わるということは、二人との生活も、だった。そのことをあっさり受け入れているように見えて怒っているのかもしれない。別にないがしろにしているつもりはなかった。

「いまさらかなって。あ、ちなみに両親は離婚やめたそうですので、僕は大西性のままです」

「「航?!」」

 追加で重要情報を出したので処理しきれなかった澪たちは、僕の名前を叫ぶ形で、糾弾した。面白い。

 あの二年の三者面談のあと、離婚の話はいったん保留になっていた。夫婦仲は僕から見ても嫌悪しあっているとかではなく、お互いが気まずくて対話ができないというか、さらなる事態の悪化を恐れて避けているというか。すこしずつ悪化していくのは分かっているけれど、双方で歩み寄るきっかけをすでに見失っている状態だった。

 そこで母が現状を打破するために、前向きに話がしたいと言い出したのだから、父からしたら渡りに船だったんじゃないだろうかと、心境を予想した。実際は、離婚したいんじゃなくて、それしか解決の手段が見えていなかっただろうなと親の器の小ささというか、頭の硬さを垣間見た気がする。

 そして話し合いの結果、お互い離婚は避けたいという結論になり、僕の意向も汲んで、別居ということになったそうだった。口実に使われている気も否めなかったが、家庭の崩壊という最悪な結末を防げるなら、この程度のもやもやを飲み込むのは仕方ないなと思う。落としどころとしては、外聞的にも納得してもらえるものだったから。

「母さんは僕の高校進学と一緒に神戸に戻って、とりあえず三年間は島から離れてみるんだって」

「そうなんだ…。それで落ち着いたなら、よかったけど…」

「ありがとう。父さんは島に残るから、単身赴任みたいなことになるのかな。あの人家事能力ないけど、近くにお祖母ちゃんたちいるし大丈夫でしょ。お祖母ちゃんには悪いけど、息子のことなんだし、なんとかしてもらわないと」

 僕がからっとした口調で、はははと笑うと、澪と水斗は呆気にとられていた。僕としては、非常に円満にいったと満足感があるくらいなのだが、空元気にでも見えたのだろうか。

「どうしたの?」

「…いや、ちょっと意外で…」

「航がふわふわしてるの、めずらしいから」

「え?」

 いつもより落ち着きがない、と言われた。そうかもしれない。一年近く、肩に重く圧し掛かっていた不安が消えて、気分がすっきりしていた。今回のことで、僕はなかなか物事を深刻に悩むきらいがあると思い知った。二人に見せてしまった荒れた姿で、かなり心配させてしまったのかと、すこし恥ずかしくなる。

「ま、まぁ、そんなとこで。大西家はとりあえずの平穏を取り戻しています」

 だから、もう心配いらないよと笑顔を見せた。

「島と完全に縁が切れるわけじゃないし。父さんの生存確認もあるし、休みには家に帰ってくるよ」

「おう、待ってる!」

 水斗が目をキラキラさせて、大歓迎だと喜んだ。かわいいな、こいつ。

「あれ? でも引っ越しが決まってるって…。航、受験は向こう行ってからするの?」

 受験より先に新生活の準備は、負担が大きいのではないかと心配してくれているのだろう。

あれ、と疑問が生まれた。まだ伝え漏れている情報があるらしい。

「もう推薦入試で、学校決まってるよ?」

 先週、合格通知が届いていた。私立の特進に決まったので、受験は早々に一抜けした状態だった。

 てっきり親ネットワークで伝わっているものと思っていたのだが、二人のぽかんとした様子から、そうではなかったと察する。確かに、どんなに仲が良くとも、こんな序盤の受験終了なんて、言わないか。どう思われるか分からない。

「私立だから早かったんだ。それで決まったから、引っ越しも確定したって流れだね…」

「えっ、なんていうか……。とりあえず、おめでとう!」

「おめでとう水斗! 私立ってなんかすごそうだな!」

 慎重な取り扱いが必要な話題ではあるが、幼なじみ二人は屈託なく、祝いの言葉を贈ってくれる。ほっと胸をなでおろした。

 そして、少し、寂しくなった。こんなに気が抜けたコミュニケーションをして、簡単に許してくれる相手と、あと少ししかいられないのかと残念だ。島の人は距離感がゆるすぎて、戸惑うこともあったけど、心地よかったなと思い返した。すこしの失言も笑って許してくれる寛容さのなかで育つことが出来たのは、とてもありがたいことだったのだなと身に染みた。

久しぶりの都会暮らし。うまくやっていけるだろうかと、一抹の不安が頭を過ぎった。

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