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さよなら、オリーブビーチ  作者: 花守郁
第三章:内海の残響
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03.

 秋祭りの日が近づくにつれ、西村地区の空気は熱を帯びていった。

 毎日、学校が終わると同時に、水斗と航の二人は競争するように全力で帰宅する。そして家の玄関先につくと、小学生のようにカバンを放り出し、集会所へと駆けていくのだ。

小豆島の秋祭りで担がれる巨大な太鼓台の組み立てや、装飾の手伝いをするためだった。

 

 ある日の放課後、私は二人に頼まれた差し入れのドリンクとお菓子を持って、集会所へと足を運んだ。

 集会場のなかは剣道場のような作りで、室内はかなり広かった。中にはすでに真っ赤な屋根を取り付けられた太鼓台が、堂々と鎮座していた。周りには、青年団のお兄さんたちや進行役の人たちが集まっていた。太いロープを締め直したり、金の刺繍が施された豪華な幕の状態を確認したりと、慌ただしく動き回っていた。

「おーい、澪! こっちこっち!」

 こちらに気付いたらしい水斗が、太鼓台の台座の上から大きく手を振ってきた。

 見上げると、そこにいたのは水斗だけではなかった。普段はあんなに大人びて冷静な航までが、煤やほこりだらけになりながら、太鼓台の親棒に跨がって縄に緩みがないか確認していた。

「二人とも、危ないから気をつけてよ」

「大丈夫だって! ほら、航、もっと強く引っ張って」

「分かってる。お前がまずそっちを固定しないと締まらないだろ」

 二人はあーだこーだと言い合いながら、お互いに指示を出し合って、慣れた手つきで器用に進めていく。

 本当に楽しそうに、目をきらきらと輝かせていた。こういう大きなものを組み立てる作業は、楽しくて仕方ないのかもしれない。

 しばらく見守っていると、作業が完了したらしい。二人が台座から降りてきた。

 その後ろで青年団の人が、周囲に声をかける。

「よし、みんな! バランスを見るために、少し揺らしてみるぞ!」

すると、水斗と航は「よっし!」と声を揃えて、我先にと太鼓台の親棒にがっしりとしがみついた。

「せぇーの!」

 大人たちの掛け声とともに、太鼓台が持ち上げられる。まだついたままの車輪が、ガタガタと大きな音を立てて前後に激しく揺れた。

 その瞬間、水斗は野獣のような声を上げて大はしゃぎし、航も構わずにと声を立てて笑っていた。

「すごい! めっちゃ揺れる!」

 派手に揺れる太鼓台にしがみつきながら、顔を合わせて子どもみたいに笑い合っている二人。その姿を見守りながら、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

やっぱり男の子なんだなぁ、と感想を抱く。

 中学生になってから身長がぐんぐんと伸びて、骨格や顔つきがやたら大人びた二人ではあったが、こうしているとやはりまだまだ子どもで、陽気な男子だと思った。

 この巨大な乗り物とお祭りの前では、ただの無邪気な十四歳の少年になる。その単純といえるくらいの素直さと、こぼれる笑顔から伝わってくる純粋で大きなワクワク感が、たまらなく愛おしかった。

「澪! お前もこっち来いよ」

 水斗が、汗まみれの顔を輝かせて手招きしてくる。

「馬鹿。服が汚れるからダメに決まってるだろ。澪、差し入れありがとう。そこに置いといて」

 航が呆れたように、水斗の頭を軽く小突いた。そして、荷物がまとめてある場所に差し入れを置いていくように進言してくれた。

「水斗は本当にデリカシーがないよね…」

 私はわざと膨れてみせながら、二人のために持ってきた冷たい飲み物と摘まみやすいお菓子を並べる。

「ごめんごめん」

「謝罪はいいから改善を要求します」

「精進します」

 ちぇと水斗がむくれて、私と航はくすりと笑った。

 春になれば、私たちはそれぞれの進路へ向かって、この島を離れていく。私と航は海の向こうの学校へ行き、水斗だけこの島に残る。

 だけど、お祭りの準備に汗を流して笑い合っている二人の横顔を見ていると、私たちの今はずっと続いていくんじゃないかと錯覚してしまいそうだった。

 呼べばすぐに来てくれて、呼ばれてすぐに行けるこの距離で、ずっと居続けられる気がした。

「よーし、じゃあ本番通り、一回本気で担ぎ上げてみるか!」

 大人たちの合図とともに、二人は再び、真剣な担ぎ手の目つきへと変わった。

 オリーブビーチに響き渡る太鼓の足音が、私たちの最後の秋を、ひときわ熱く震わせていた。

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