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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮


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9/19

そこにあるはずのないもの

朝。


目覚ましの音が鳴り響いている。

身体が重い。

眠ったはずなのに、疲れが残っている。


うるさい、と思いながら手探りで止める。


時刻は6時55分


「全然寝れてねぇな……」


ベッドでそのまま横になりながら、

天井を見つめる。


昨夜のことが、鮮明に残っている。


黒いカード。

触れたときの熱。

鼓動のような感覚。


「……夢……じゃないよな?」

小さく呟く。


上体を起こしたとき、視線がベッドの下に落ちた。

黒いカードが、そこにあった。


「……っ!?」

一瞬、動きが止まる。


「……現実なのか……?」


そっと手を伸ばす。

触れる直前で、わずかにためらう。

それでも掴む。


冷たい。

何の変哲もない、ただのカード。

昨日のような熱は、ない。


「……だよな」

息を吐く。


机の上に置く。


――本当に、ただのカードなんだろうか。


考えを振り払うように立ち上がり、制服に着替えて部屋を出た。


「おはよう」


キッチンから母の声。


「……はよ」

席に座りながら、ふと違和感に気づく。

いつも聞こえるはずの湯飲みの音がない。


「あれ?……じいちゃんは?」


母が振り返る。


「珍しく寝てるのよ。いつも早いのにねー」

軽い調子だった。


「……まだ寝てるのか」

小さく呟く。


少し考えてから、立ち上がる。

廊下に出て、じいちゃんの部屋の前で足を止めた。


「……じいちゃん?」

返事はない。

ドアを少しだけ開ける。


布団の中で、じいちゃんは眠っていた。

静かな寝息。


「……寝てる、だけか」

ほっと息を吐く。

「……珍しいな」

いつもなら、とっくに起きている時間だ。

静かにドアを閉め、そのまま家を出た。


———


通学路。

朝の空気が冷たい。

歩きながら、ふとポケットに手を入れる。

何もない。


そう思った、その時——

指先に、何かが触れる。


「……は?」

取り出すと、黒いカード。

一瞬、思考が止まる。


「……なんでだよ」

足が止まる。


机に置いたはずだ。

確かに、置いた。

カードを見つめる。


何も変わらない。

ただのカードのはずなのに。


「……」


次の瞬間、苛立ちが込み上げる。


「クソッ、わけわかんねー!」


思わず吐き捨てる。


「ログチー、説明しろよ」


返事はない。


「……おい」


沈黙。


「……寝てんのかよ」

小さく舌打ちする。

ポケットに戻す。


———


教室。


「よ、紫音」

大地が手を上げる。


「……おう」

席に座る。


「紫音、お前大丈夫か?」

少し間を置いて、大地が言う。


「ん?」


「いや……昨日なんか暗かったしさ……」


「ははっ何もねぇよ、ちょい調子悪かっただけ」


「……そっか。無理すんなよ?」


「ああ……」


———


授業中。


黒板にチョークの音が響く。

教師の声が、一定のリズムで流れている。


ノートにペンを走らせる。

カリカリと、紙を擦る音。


手は動いている。


けれど——

頭に入ってこない。


意識が、どこかに引っ張られている。

ポケットの中。

触れていないのに、

そこに“ある”とわかる。


「……」


ペンが止まる。

(……なんなんだよ)

小さく息を吐く。


そのとき。

腕時計から、眠そうな声が聞こえてくる。


「おはよー……シルバー」


「……っ」


思わず立ち上がる。


「黒川、なんだ?質問か?」

視線が一斉に集まる。


「……何もないっす」


小声で呟く

「お前、いきなり喋んなよっ」


「大丈夫ー!シルバーにしか聞こえないからー」


頭を掻きながら、ぼそっと呟く


「頼むから授業中はやめてくれよな」


———


昼休み


教室のざわめきの中、ポケットに手を入れる。

カードは、まだそこにあった。

指先でなぞる。

冷たい。


けれど——

ほんのわずかに、違和感がある。


昨日の感覚がよみがえる。


熱。

鼓動。


「……気のせい……だよな」

小さく呟く。


指先に、力が入る。


「おいっ!」


声に反応して、我に返る。


大地が心配そうに顔を覗き込んでいる。

「紫音、どうした?また弁当忘れたのか?」


「……そんな毎日忘れねーよ!金がない」

少し強めに返す。


大地が、思わず吹き出す。

「だよなー?」


佐藤、山田、いつものメンバーで昼飯を食べる。


心ここにあらずなのか、紫音はただポケットの

違和感を気にしていた。


「わりぃ、ちょっと出るわ」


大地達の反応を確認することもなく、

紫音は、そのまま教室を出た。


背後で閉まったドアの音。


その瞬間——

ポケットの中のカードが、わずかに熱を帯び始めていた。

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