↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/89

気を許せる相手

 家に帰宅した俺は、いつものスウェットに着替えてベッドに寝転んだ。

 左手を見るとまだ赤くなっている。

「ふぅ……」

 小さく息を吐く。


 ふとベッド脇に置いてある割れたスマホが目に入った。

「……スマホ、何とかしないとな」

 誰に言うわけでもなく、ボソッと一人呟いた。


◻︎◻︎◻︎


 夕飯を食べた後、縁側に向かった。

 じいちゃんがいつものように縁側に座って、空を見上げていた。


「じいちゃん、風邪引くぞ?」

 声をかけると、じいちゃんがゆっくりと振り返った。

「紫音か」

 俺はそのままじいちゃんの横に座った。


「じいちゃん、あのさ」

「ん?」

「これ見て」

 ポケットから割れたスマホを取り出して見せる。

「……ばあちゃんにずっと大事にするって言ってたのに、壊してしまった」

 ヒビだらけになった画面をじっと見つめる。


「ばあちゃん、怒ってるかな?」

 そう言って、空を見上げる。


 じいちゃんはしばらく何も言わず、そっと俺の肩に手を置いた。


「……わざとではないんじゃろ?」

「あ、当たり前じゃん!」

 じいちゃんはフッと微笑む。

「形あるものはいつかは壊れる。清乃はわかっとるよ」


 手の中のスマホを見つめる。

「……そっか、そう、だよな……」

 じいちゃんの言葉に、胸に引っかかってたものがスッと流れていった。


◻︎◻︎◻︎


——docoda店舗前。

 父さんに委任状書いてもらったし、印鑑も借りた。店頭予約もした。抜け漏れはねぇ!


 少し緊張しながら、店頭のドアをくぐる。

 準備万全だったこともあり、スムーズに手続きが進んだ。


「黒川様、お待たせいたしました。こちらの新しい機種に全て移行済です」

「あざす!」

 スマホをポケットにしまい、立ち上がろうとすると、店員が俺を呼び止めた。

「黒川様、最後に一点だけよろしいでしょうか」

「はい?」


◻︎◻︎◻︎


 スマホを交換し、店を出ると、時刻は昼の12時を過ぎていた。

「あー、腹減ったなー、さっさと帰るか……」

 帰り道を足早に歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「し、紫音くん!」

 ゆっくり振り向くと、蒼乃が立っている。

「蒼乃……、またお前かよ!」

「えっ?ち、違う!今日はほんとに偶然だよ?」

 動揺しているのか、顔が赤い。


「プッ……」

 おかしくて思わず笑ってしまう。


「紫音くんが笑った……」

「……よく会うよな、ほんと」

 半分呆れたように俺は呟く。


「私服の紫音くん、新鮮……」

「……」

 なんとなく、照れ臭い。

 気まずくて、その場を去ろうと蒼乃に背中を向ける。

「じゃ!俺、もう行くから!」


「し、紫音くん!待って!!」

「ん?」

「あの……」

「?」

「せ、せっかくだし……」

「せっかく?」

「あのっ!」


「デ、デー……じゃなくて、い、一緒に遊ばない?」


「……は?無理。帰るし」

 反射的に言葉が出た。


「そ、そっか……」

 蒼乃を見ると、なんかめちゃくちゃガッカリしてるように見える。

 てかなんでそんな被害者ヅラみたいな顔すんだよ、俺が悪いみたいじゃねぇか。

んー?言い方か?俺が……悪いのか?てか、腹減ってるし、もう帰りたいだけなんだけども。

 頭をガシガシと掻く。


「……少しだけなら付き合ってやる」


 蒼乃の顔が一瞬で明るくなる。

「ほ、ほんと?」

「ありがとう!紫音くん!」

 そう言ってなぜか腕を絡めてくる。

 近いんだよ、いちいち。

「ちょ、調子に乗んな!離れろ!」


——Cafe アンドリーチェ内。


 目の前に、超デカい大盛りのオムライスが置かれる。


「な、なんだよ、これ……」

「オムライスだよ?」

「んなもん、わかってるっつーの!なんだよ、このデカさ」

「紫音くん、お腹空いてるって言ってたし」

 蒼乃が何故か得意げに説明してくる。


「いやいやいやいや、デカすぎだし」

「だから……」

「だから?」

「一緒にたべよ♡」

「は?」

「お前と……?」

「うん!」

 目の前のオムライスをじっと見る。うーん、半分ならまあいけるのか?てか、これは一体いくらするんだ?


「紫音くんっ!」

 蒼乃の呼びかけにハッとなる。

 目の前に、スプーンに盛られた一口大のオムライスを蒼乃が突き出してくる。


「……自分で食えるから」

 スプーンでオムライスをすくって一口食べる。

「……うまっ!」

「でしょ?」 

「てか、何でお前が自慢げなんだよ」

「えへへ。何となく」

「ったく!」

 もう一口食べる。

 ふわふわの玉子にちょっと濃いめのデミグラスソース。腹が減ってたってのもあるけど、思ってた以上に美味い。

 蒼乃と二人で夢中になって食べた。


「よし、あとは本丸だけだな」

「本丸?」

「まあ、例えっつーか、その、ここ食ったら制覇的な……」

 やべ、つい大地といるみたいに話しちまった。城攻めみたいな話したってわかんねぇよな。


「ほんとだ!すごい!」

「えっ?」

「ん?」

「いや……別に」

「よぉーし!本丸を食べちゃうぞー!」

 変な奴。知らないうちに俺は口元が緩んでいた。


◻︎◻︎◻︎


 店を出た後、俺はなんだか機嫌が良かった。

 あのオムライス、1000円って破格じゃん?なんかめちゃくちゃ得した気分だ。顔が緩む。


「紫音くん、お金っ」

「あ、あー、いい。ほとんど俺が食ったし」

(安かったしな、うん!余裕)


「あ、ありがとう」

「じゃあ、帰るか!」

「えっ?まだだよ?」

「ん?まだなんかあるのかよ?」


「えっとね、プリクラ撮りたい……今日の記念に……」

「記念?」

(オムライス記念日……とか?)

「うーん、無理!」

「えっ、なんで?」

「なんでって……」


 少しため息をつき、蒼乃を横目に見る。

「俺、写真嫌いなんだよ……」

 首の後ろを掻く。

「目つき悪いし、写真映り悪いしさ……」

「だから……」


「紫音くんと、撮りたい!」

「……お前、人の話聞いてた?」

「ダメ、かな?」

 

 ああ……クソッ!


「一回だけだからな!」


 蒼乃の顔がみるみる明るくなる。

「あ、ありがとう!」


 初めて撮ったプリクラは、いつもの写真と同じぐらいめちゃくちゃ映りが悪かった。

 でも、蒼乃はそんなプリクラを大事そうにカバンに入れてたんだ。


 ブブッとポケットの中のスマホが震える。

 スマホを確認すると母さんからのLINE。

『スマホ直った?帰りにゴマドレ買ってきてね!』

(直ってなかったらLINE見れねーっつーの!)


「あっ!紫音くんのスマホが新しくなってる!」

「あ、ああ……今日変えた」

「あの、私の連絡先は?」

「は?別になんもしてねぇ」

「えーっ?」

「……持ってるだけだって言っただろ」


「意味ないじゃん!登録しよ?」

「面倒くせぇ……」

「貸してくれたら私がやるからー!ね?お願い!」

「……あー!もう!うっせぇな!ほら!勝手にしろ」

 蒼乃がスマホを受け取り、操作している。


「出来た!出来たよ?紫音くん」

「そりゃ、出来んだろ」


「ねぇ、紫音くん?」

「なんだよ。俺は返信はしねぇからな。読むだけだ」

「えっ?スタンプぐらい返して!……って、そうじゃなくってぇー」


「なんだよ?」

「えっと……他に女の子の連絡先って登録してたり、する?」


「……は?」

 思わず蒼乃を睨む。


「お前さ?人をチャラ男扱いすんじゃねーよ」

「し、してないよ」


「つーか、お前が初めてだよ。女の子で登録したのは」

「えっ?」

「えっ?じゃねーよ!お前が勝手に登録したんだろ!」

「あ、うん!そうなんだけど……」


「……ん?なんかお前、顔がニヤけてないか?」

「に、にやけてないもん!普通だもん!」

「ふーん」


 早く帰りたいと思っていたのに、蒼乃と過ごした時間は、思いの外、気が楽で——。

 いつの間にか、時間が経つのを忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。