表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/84

誤解と葛藤

「久我が何でうちの学校に……?」

 空を抱きかかえたまま、小さく呟く。

「まさか……俺を探しに?」

「……いや、それはないだろ」

 首を小さく振る。

「じゃあ、なんで……?」

 考えても答えは出ない。頭の中は久我のことでいっぱいだった。


「し、紫音くん……?」

 腕の中から小さな声が聞こえる。

「あ?……起きたのか?」

 ぼんやり返事をする。

「紫音くん、その……」

「なんだよ?」

 ようやく腕の中に空がいることに気付く。


「は?お前何してんだよっ!」

「えっ?し、紫音くんが抱きしめるから……」

 空は耳まで真っ赤になっている。

「いやいや、してねーし、さっさと降りろ」

「う、うん」

 顔は相変わらず赤い。


「……お前、熱でもあるのか?」

 そう言って額に手を当てた瞬間――


 ガラッ!

「紫音! 大丈夫かぁ?」

 大地を先頭に、ノブとナオが保健室へ入ってくる。

 三人の動きがピタリと止まった。

「…………」

「…………」

「…………」

 しばらく沈黙が流れた後、

「あ……邪魔だったか?」と大地。

「大人の階段かよ?」とノブ。

「保健室で何してんだよ?」とナオが呆れたようにため息をつく。


「は? 何がだよ?」

 自分の状況を見る。


 ベッドの上。

 俺の腕の中には空。

 空は顔を真っ赤にしている。


「……!?」

「ち、違う!これはだな……」


 ナオが空へ声をかける。

「蒼乃、大丈夫か?」

「し、紫音くんがいきなりベッドに私を……」

「あっ!蒼乃っ!誤解を招く言い方すんじゃねぇ!」

「お前ら、誤解だからな!? 不可抗力つーか、なんつーか、緊急事態で……」


 三人はニヤニヤしている。

「紫音ー、往生際が悪いぞ?」

「だから違うって!!」

「紫音くんは何もしてないよ?」

 空は慌てて首を横に振る。

「ただ私の口を塞いだだけ……」

「ちょっ!蒼乃!その言い方やめろ!」


 三人が一歩後ずさる。


「紫音……お前……」

「だから、違う!」

「俺、お前のこと信じてたのに……」

「勝手に失望すんな!」

「でも蒼乃が泣いてるぞ?」

「えっ?」

 空はさらに慌てる。

「ち、違うの!紫音くんはそんなつもりなくて」

「ほら見ろ!」

「でも急にあんなことされたから、びっくりしちゃって……」

「だから誤解を招く言い方やめろ!」


 大地は腕を組み、真剣な顔で頷く。

「……なるほど」

「分かったか?」

「青春だな」

「何一つ分かってねぇじゃねーか!」

 保健室に俺のツッコミが響き渡る。


 ナオが小さく呟いた。

「……紫音にそんな度胸はないよな」

「おい!フォローしてるようでお前が一番失礼だからな!」

 三人は吹き出し、保健室は笑い声に包まれた。


 だけど――

 その中で俺だけは笑えなかった。

 頭から離れない、あの関西弁。

 ……久我が、学校に来る。


 笑い声が遠く聞こえる中、俺の胸の奥には拭いきれない不安だけが静かに残っていた。


◻︎◻︎◻︎


「はぁ……」

 ため息が漏れる。

「紫音くん、大丈夫?」

 空が嬉しそうに微笑む。

「うるせぇ、さっさと歩け」

 何故か空を送るはめになった。


 というのもアイツらがうるさいからだ。

「紫音、蒼乃なんか熱っぽいし送ってやれよ?」

 ナオが言う。

「なんでだよ!面倒くせぇよ」

「いやいや、お前、か弱い女子を心配してやれよ?」ノブが笑いながら言う。

「どうせ暇だろ?」大地が笑う。


 俺の意思は無視かよ!横にいる蒼乃を見ると、もう熱はないのか元気そうだ。


「なあ蒼乃」

「ん?なあに?」

「アイツらの誤解は解いてるから気にすんなよ?」

「えっ?何のこと?」

(何のことじゃねぇよ……大地に誤解されたら嫌なくせに……)


「まあ、別に。俺が知ったこっちゃないけどな」

「ん?変な紫音くん」

 空がクスクスと笑う。

 ほんとこいつといると調子が狂う。


 空の自宅前に着く。

「紫音くん、ありがとう」

「いや、別に」

「あと……ごめんね」

「ん?何が?」

「あの……お弁当」

「あ、ああ……あれな」

「次はもっと上手に作るから……」

(……俺を実験台にしたいってことだな?)

「まあ、食ってやらなくもないけど?」

 空は満面の笑顔で「うん!」と呟いた。

(呑気に笑いやがって、何か腹立つ)


「じゃあな!」

 その場をそそくさと去る。

 後ろから空の視線が熱く注がれていることに全く気づかないまま俺は家路についた。


◻︎◻︎◻︎


 夕飯の後、いてもたってもいられず、外に飛び出す。

 来週、久我が学校にくる——

 力の差、死への恐怖、そしてあの会社の謎。深入りしたらもう戻れない。それに俺には立ち向かう力量がまだ足りない。どうしたらこの不安が消せるんだ……


 時計からログチーの声がする。

「シルバー大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇよ」

 ついログチーの前では弱音が出てしまう。

「何か特訓とかしたらシルバー強くなるのかな?」

「特訓てスポ根かよ?」

 そんな短時間で強くはなれねぇしな。考えても考えても答えは出ない。

 ポケットの中の花札を見る。

「運ゲーでは無理だしな……」


 学校に久我が来たら、大地達にまで危険が及ぶかもしれない。そう思っただけで、胸の奥に嫌な予感が広がる。アイツらを守る力が欲しい……

「誰かが、泣くのは嫌だ」

 無意識にポツリと呟く。


 その時、ふと背後に人の気配を感じた。

 振り向くとアルジェントが立っている。


「困ってるのか?」ニヤリと口角を上げながらアルジェントは尋ねてくる。


「うるせぇ!どっか行け!雑怪盗」

「ひどい言い草だな」

「手合わせしてやろうと思ったのに」

「……は?」

「では、私は帰るかな」アルジェントはそう言って、俺に背を向ける。


「オイ!ちょっと待て!」

 振り向いたアルジェントは不敵に笑う。

 その顔を見て、なんとなく嫌な予感が頭をよぎる。

「仕方ないからお前を強くしてやろう」

「……何勝手に決めてんだよっ!」

「やらないのか?」

「お前がそこまで言うならやってやらなくもない」

「相変わらず素直じゃないな」


◻︎◻︎◻︎


 アルジェントに半ば強引に連れてこられたのはアルカだった。クロノスから何かの鍵を受け取るアルジェント。

 鍵のある部屋の扉を開けると、そこは無機質な空間。風も、音も、色もない、ただ真っ白な空間。


「ここは……?」

「ここは時の部屋。時間がゆっくり流れている部屋だ」

「修行にはピッタリの部屋だ」

 アルジェントはニヤリと笑う。

「は?」


「まずお前にはまだまだスピードが足りない。怪盗としての優雅さもな?」

「優雅さって大事なんか?」

「怪盗はスタイリッシュなものだ」

「なんなんだよ、そのこだわり」

 はははと笑うアルジェント。


「では、最初の試練だ」

「は?いきなりかよ!」

「私が投げるボールを全て避けるか受け止めろ」

「ボール?はぁ?そんな子供騙し……」

 言い終わる前にテニスボールがいきなり顔を擦る。

「は?」

「まあ、一個ぐらいはさすがに避けられるか」

「じゃあこれはどうだ?」

 三つのボールが同時に飛んでくる。二つをかわし、残りの一つを掴んでアルジェントへ投げ返す。

「序の口だな」

「こんなの余裕だろ」

 呆れ気味にアルジェントを見ると、アルジェントがいきなり四方八方に分かれた。


「は?」

 驚いたと同時に四方八方からテニスボールが飛んでくる。避けることもままならず、身体にテニスボールが勢いよく当たってくる。


「これが久我のナイフと思え!下手したら死ぬぞ?」

「くっ!」

 ボールの軌道を読みながら身体をくねらせ避けていく。

「ほぉ、なかなかやるな。でもリズム感が悪いな」

「リズム感関係ねーだろ!」

「いやいや、スタイリッシュさが必要と言っただろう?」

 アルジェントはどこからともなく携帯音楽プレーヤーを取り出し、音楽を流し始めた。


「このリズムで避けろ」


 運動会でよく耳にする音楽、「天国と地獄」。

この特訓がまさに地獄だと気づくのに、そう時間はかからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ