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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

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帰還の余韻

 廃ビルの外に出た。夜風が頬の傷に染みる。

 激戦があったとは思えないほど静まり返っている。でも頬や脇腹、下腹部に残る痛みが、あの戦いが現実だったことを実感させる。

 

 俺は身体の痛みを我慢しながら、ビルからビルへ飛び、暗い闇の中を走り抜け家路に着いた。


 自宅前——

 静まり返った住宅地。既に自宅の明かりも消えていた。

「今、一体何時なんだ……?」

 一人ポツリと呟き、二階の屋根に登った。

 

 窓から中をそっと覗くと大地と分身が布団に入っているのが見えた。

「……無事みたいだな」

 そう口にした瞬間、安心したのか全身の力が抜けた。倒れ込むように屋根に仰向けで寝転がると、夜空いっぱいに星が広がっていた。


 「……力の差、か」

 誰に聞かせるでもなく思わず口から出る。

 起きたことを思い出すと手が自然と震える。震える手を抑えながら、俺は小さく

「……revert」と呟く。

 銀色の光が静かに身体を包み、俺はシルバーからいつもの制服姿へ戻った。


「……寒っ」

 制服に戻ると夜風がさっきより冷たく感じた。

 そっと窓を開けて自室に入る。窓のそばにいつもの黒い腕時計が目に入る。時計を手に取り腕にはめる。そして小さく「ただいま」と呟いた。


 二人を起こさないよう、そっと制服を脱ぎ、替えのスウェットに袖を通す。その瞬間、下腹部の傷がズキリと痛む。


「……風呂入ったら沁みそうだな」

 俺はそっと自室のドアを開け風呂場に向かった。風呂場の鏡に映る自分を見る。頬の傷、身体中の痣、下腹部の傷——改めて見ると思っていた以上に酷かった。

 痛みを我慢しながら少し冷たくなった湯船に浸かった。傷口に湯が触れると痛みが走り、思わず歯を食いしばった。

 風呂を出てから、身体と顔に傷バンを貼り部屋に戻った。

 大地と分身が寝ている狭い布団にそっと潜り込み、そのまま深い眠りについた。


◻︎◻︎◻︎


ログチー、分身side

(紫音が戻る少し前の時間枠)


「大地が戻ってこないな」

「大地くん、長風呂なんだね」

「乙女かよ!シルバーなんて烏の行水だよ?」

「シルバー様は面倒くさがりだから」

「気になるなぁ……やっぱり見に行くぞ!偽シルバー!」


 階段を降り、風呂場に向かうが、風呂場に人の気配はない。


「いないね」

「トイレかなぁ?」

 トイレにも明かりは灯っていない。


「まさか……攫われた?」

「シルバーの家なのに?ないない!」

「道に迷ってるんでしょうか?」

「家の中で迷うかな?確かに広い家だけどさ」


 廊下の角を曲がると、人が倒れてるのが見えた。

「……!?」

「大地くん!!」

 慌てて駆け寄る。

 大地は静かに寝息を立てていた。


「風呂上がりに寝ちゃったのかな?」

「いや、それにしてもここで寝る?」


 疑問を感じながらも孝之を呼び、紫音の部屋に運んでもらった。

「お父さん、ありがと」

「……!?」

「紫音……」

 孝之は目を輝かせて分身の肩を掴む。

「ついに第三形態か?」

「ん???」

 ログチーが背中をツンツンと突き、シルバーらしく!と小さく呟く。

 分身はコクコクと頷き、眉間を寄せた。

「何だよそれ、ウゼェ!」(キリッ)

「違うかー」と孝之は笑った。


 孝之が部屋から出て行った後、ログチーは分身と顔を見合わせる。

「よし、大地くんは寝てるみたいだしオレたちも寝よう!」

「てか偽シルバーは朝までいるのか?」

「お前がいたらシルバーと入れ替われないじゃん?」

「今回は朝になったら僕は消えちゃいます。ログチー様」

 なぜか泣き出す分身。

「なに泣いてんのさっ!」

「だって……シルバー様がこのまま戻らなかったら僕はもう二度と呼ばれません」

「縁起でもないこと言うな!シルバーは強い!絶対に戻ってくる!」

「だから、もう早く寝ろ!」

 ログチーは小さな身体で窓に張り付き、祈るように呟く。

「……シルバー、早く戻ってきてよ」

 夜空を見上げた後、そのまま丸くなった。


◻︎◻︎◻︎


 ???

「久我、帰ったのか?奴らの回収作業は?」

「……成果なしですわ」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味やん」

 久我は笑って答える。


「不良品やし、別に良かったんちゃいますの」

「……!?」

「自分らに扱えへん力はあまり持たんほうがええで?隊長」

「久我……お前、その口の聞き方は何だ?」

「拾ってやった恩を忘れたのか?」

「恩?ああ……恩なぁ?」

 苛つくように小さく返す。

「そんなんで、ずっと俺を縛り付けられると思ってるんは間違いやで?近藤さん」


 近藤はふっと深く息を吐きながら呟く。

「食えない奴だな、相変わらず」

「あと、高校潜入の件はどうなった?」


 久我の動きが一瞬止まる。


「高校……?」

「ああ、そないなミッションあるの忘れとったわ」

「例のガールズバーLUNAの件だ。例の女生徒が何か勘づいてるかもしれない」

「事件後の聞き込みで、何も知らないの一点張りだったそうだ」

「岡森が気に入ってた女だし、何か勘づいていてもおかしくはない」

「その女が何か隠してるって訳か?」

「……分からん。だが怪盗シルバーを見た人間はその女しか確認できていない」

「その女が鍵になるかもしれへん、っちゅうことか」

「まあな。ただし騒ぎは起こすな」

「高校生相手か。気ぃ使う仕事は苦手やねんけどな」

「共学だ。女生徒には手をだすなよ?」

「安心しぃ、牛乳臭いガキは嫌いや」


(ちょうどええやん。怪盗シルバーを知ってる女か)

 久我は心の中で笑う。

(まあ、おもろいことになりそうや)


「岡森にもまた接触してこい」

 その名前を聞いて、久我の表情が少し変わる。

「あぁ、怪盗シルバーに潰されたクズの件か」

「学習せんなぁ」

 一瞬だけ眼光が鋭くなる。その後、久我は不敵な笑いを浮かべ答えた。


「ええよ」 

「今日は機嫌がええねん」

 口角を吊り上げながら

「隊長さんの依頼、引き受けたるわ」


 久我は近藤に背中を向け、部屋を出ていく。廊下を歩きながら、閉じていた糸目をそっと開ける。

「勘やけど……なんか、もっとおもろいもんが待っとる気ぃするな」

 誰に聞かせるわけもなく呟いたその声だけが、静かな廊下に響いていた。

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