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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
覚醒

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7/89

白い影の正体

 時刻は午前二時。いわゆる丑三時《うしみつどき》だ。

 ベッドから起き上がり、そっと一階に降りた。もちろん家族は既に寝ている。静かなキッチンで冷蔵庫を開ける音が妙に響く。

 コップに水を注ぎ、それを一気に飲み干した。

「うっ……冷て」

 一気飲みしたせいか、下腹部からギュルッと音が鳴る。


「……さて、寝るか」

 音を極力立てないよう階段を登り、部屋に戻った。


 ベッドに横になる。目を閉じても眠気が全く来ない。腹もなんだか落ち着かない。

 さっきの出来事を思い出す。

 心臓がドクンと弾む。余計に目が冴えてきた。


「……はぁ」

 小さく息を吐き、天井を見つめる。身体を横に向けると腕時計が目に止まる。

 ベッドから起き上がり、腕時計を掴む。

「ったく、わけわかんねぇ」

 苛立ちを抑えるように首の後ろを掻く。


「ご主人、眠れないの?」

 時計からログチーの声が聞こえたけど、俺は無言のまま、時計を戻した。


「ねぇ、聞いてる? ご主人?」


 少し苛立ちながら、言葉を返す。

「……いい加減、その呼び方やめてくんね?」

「ん?」

「ご主人ってやつ」

「なんでー?」

「なんか、むず痒い」

「ふうん」

「じゃあ、シルバー?」

「なんでそうなる?」

 呆れ顔でツッコむ。


「じゃあ、どうしたらいいのさー?」

 拗ねた様子でログチーが尋ねてくる。


 俺は少し考えた後、ため息をついた。

「……もう、好きに呼べよ」


「うん! シルバー! やっぱりこっちのがしっくりくるよね」

 嬉しそうな声が返ってくる。


 ベッドに寝転び、天井を見つめたまま、俺はログチーに尋ねた。


「……で?」

「ん?」

「さっきの話の続きだよ、一体覚醒ってなんなんだよ!」

「んー? やっぱり気になる?」

 ログチーが冷やかすように聞いてくる。


「は? 当たり前だろ?」

「映画でもあるまいし! 覚醒しましたよーって雑な説明されて、『はい、納得』って言う奴がどこにいる?」

「シルバー、落ち着きなよ、夜中だよ?」

「うるせぇ!!」


 ドスドスドス……。

「ん? なんだ?」


 部屋の外から足音が近づいてくる。部屋の前で音が止まったと思うといきなり部屋のドアが開いた。


「えっ? 母さん……?」

 母さんの目が鋭くすわっている。

「何時だと思ってるの!! 近所迷惑でしょ!」

「あ、いや、その……」

「いい加減早く寝なさいっ!!」

「お、おう」

 扉が閉まり、母さんの足音が遠ざかっていく。


 時計からログチーが呆れたような声で呟く。

「あーあ、ママさん怒らせちゃって……。キミは相変わらず短気だなぁ」

「相変わらず?」

「まだ記憶が気になるけど……」

「記憶……?」

 俺が首を傾げてると、ログチーが意気揚々と話し出す。

「うん、やっぱり、体感した方が早いよね?」

「体感?」

 意味がわからず、眉をしかめた。

「やりすぎちゃうと代償が怖いけど……ま、いっか!」

「代償?」

(腹壊すとか?)


「シルバー、ちょっと目を閉じて!」

「……なんだよ、突然」

 ジト目をしながら時計を見つめる。


「いいから! 頭にイメージしてみて」

「戻りたい時間とか、その日のイメージ思い出して!」

「雑な説明だな」

「もー! 早くしなよ」


「うるさい奴だな」

 渋々目を閉じた。

(えーっと、イメージを浮かべるって言ったよな)

 頭の奥にある記憶……あの違和感を辿ってみる。うまく言葉にはできない。

 でも、あの『ズレた感じ』をゆっくりとなぞっていく。


 その瞬間——

 視界が、ぐらりと揺れた。

 足元がふわっと浮くような感覚。身体も一緒に軽くなっていくような感じがした。目の前が白く染まり音が消えた。


◇◇◇


「……?」

 ゆっくりと目を開ける。

「なんだ?」

 あたりは暗くて、何も見えない。

 ポケットからスマホを取り出し、画面の光で、周りを照らす。


 見覚えのある廊下。

「なんだよ、俺ん家じゃん……」

「でも、なんでこんな静かなんだ?」

 夜中とはいえ、風の音も、家鳴りすらしない。


 わけがわからないのに背筋に寒気が走る。

 スマホに目をやると時刻は、夜中の三時。

「もう一時間経ったのかよ……」

 そう呟きながら、ふと画面の端に表示された日付が目に入る。


「……えっ?」

(昨日の日付……!?)


 スマホから目を離すと、いつの間にか自室の前に立っていた。

 昨日、白い影が立っていた場所?


 無意識に息をゴクリと呑む。

 ドアに視線を向け、ゆっくりと、手を伸ばす。


「シルバー!! それ以上はダメ!!」


 ドアノブに触れた瞬間、視界が引き戻される。

 身体がぐらりと揺れ、足元の感覚が消えていく……。


 気がつくと自分の部屋。

「……がはっ」

 息がうまく吸えない。

「うっ……」


「ちょっと、ちょっとちょっと!」

 耳元でログチーの声が響く。


「シルバー! 近づきすぎ!」

 呼吸を整えながら、肩にいるログチーを涙目で見る。

「過去の自分に干渉したらダメ! 絶対ダメだから! 下手したら……」

 ログチーが小さな身体で俺の肩を揺らす。


 言葉に出来ないまま昨日の出来事が頭に浮かぶ。あの白い影。

(あれは俺、だったんだな)


「シルバー、聞いてる?」

 ログチーが心配そうに顔を覗きこむ。


 俺は無言のまま呆然としていた。

 わけがわからないのに、心臓がドクンと弾む。正直ちょっとビビってたくせに、気づくと俺の口角がわずかに上がっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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