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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮


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目の前の、変な奴

「また夢……?」

小さく呟く。


妙にリアルだ。

夢にしては、妙に感覚が残っている。


目の前に、“それ”がいる。


手のひらサイズの、小さな体。

丸い目が、こちらをじっと見ていた。


気づけば、無意識に手を伸ばしていた。

指先で触れる。

(やわらかい……)

そのまま、なぞる。


小さな体が、ぴくっと揺れた。


「ちょ、くすぐったいって!」


「……っ!?」

反射的に手を離す。


ぽとっ、と落ちる。


「きゅー……」


足元で、小さく丸まる。


紫音は、少しだけ眉をひそめた。

「……本物だったのか……」

しゃがみ込む。

「……わりぃ」


手を差し出すと、そいつはもぞもぞと登ってくる。

紫音は、訝しげにそいつを見つめる。


「……問題なさそうだな」


「落とすなんてひどいよ、ご主人!」

そいつは、頬を膨らませてバタバタと手足を動かす。


紫音は、ぽかんとそいつを見る。


「……はぁ?」


少しだけ、ため息混じりに紫音は言った。

「落としたのは悪かったけど、ご主人って何だよ?」


そいつが、肩をすくめる。


「キミに決まってるじゃないか!」


「……は?」

紫音は、軽く眉をひそめる。

「てか、何なんだよお前は……」


そいつが、目をきらきらさせて言う。


「オレは、ログチー!キミの相棒さ!」


紫音は、すっと表情を消す。


「……帰れ」


「それはないよーご主人!」

少しだけ拗ねたように言う。

ぴょんと跳ねる。


「呼んだのはご主人だろ!」


「呼んでねぇし!」


「呼んだって!」

「シルバーって言っただろ!ご主人の呼び名!」


「……っ!?」

言葉が詰まる。

確かに——言った覚えがある。

でも、それは勝手に——


そいつが、得意げに言う。


「ついに……覚醒したね」


「覚醒ってなんだよ」


少し間。


「まーそれは、おいおいわかるよ」


「そういえば、さっきの時計はどこ行ったんだ?」


あたりを見渡す。


——ない。


「……どこ行った……」


「ここ」


ログチーが、自分の体を叩く。


よく見ると——

その体の中心に、あの時計が埋まっている。


「……は?」


理解が追いつかない。


「それ、お前の体か?」


「そうとも言うし、違うとも言う!」


「どっちだよ」


「細けぇことは気にすんな!」

手をひらひらさせる。


「それよりさ」

ぐっと顔を近づけてくる。


「昨日、水に落としたでしょ?時計」


「……は?」


「……」


昨日の風呂場の光景が、よぎる。


ログチーが、くすっと笑う。


「変なこと起きたでしょ?」


「は?」


言葉が出ない。

でも——思い当たる。


「じゃあ……今日おかしかったのは全部——」


「水による誤作動」


軽く言い切る。


「……待て」


顔を上げる。


「それ、日常生活無理だろ」


「慣れろ」


「無理だろ」


「あははっ」

ログチーが楽しそうに笑う。


「まあ、そのうちどうにかなるって」


「……」

紫音は小さく息を吐く。


「……てか」

自分の服をつまむ。

「これ何なんだよ……コスプレかよ!」


「コスプレ?」

ログチーが首をかしげる。


「この格好見りゃわかんだろ?」


ログチーがクスッと笑う。


「それは、ご主人の正装」


「……は?」


「能力使うと切り替わる」


「勝手に!?」

立ち上がる。


「戻せんのか!?」

焦りながら、紫音が問い詰める。


やれやれと言わんばかりに、ログチーが呟く。


「“Revert”って言ってみて」


「……リバート?」


「元に戻るって意味」


「……」


「言ってみなよ」


紫音は、そっと目を閉じる。


「……Revert」


ふっと、体の感覚が変わる。

光がほどける。

服が戻る。


「……戻った……?」

手を見る。

違和感はない。


「……あれ?」


さっきまでいたはずのログチーの姿が、ない。


「……どこ行った?」


「ここだよー!」


すぐ近くから声がした。

紫音は視線を動かす。


机の上。

そこにある——時計。


「……お前も戻るのかよ!」


「普段はこっち」

ログチーの声が、時計の中から聞こえる。


「……」


紫音は、時計を見つめる。


「……変なやつだな」


「ひどっ!」


「水、気をつけなよ?」


「……無理だろ」


ログチーが、くすっと笑う。


少しだけ間。


「ご主人さ」


声が、ほんの少しだけ落ちる。


「ちょっとワクワクしただろ?」


「……」


答えない。

でも——否定も、できなかった。


紫音は、ベッドに倒れ込む。

天井を見上げる。


なんとなく、心臓が鳴っていた。

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