頭の中に響く声
放課後。
笑い声が、遠く感じる。
大地も、佐藤も、山田も——
さっきの話で、まだ盛り上がっている。
「紫音、どうした?」
大地が、少しだけ首を傾げる。
「さっきから黙ってるけど」
山田も様子をうかがうように言う。
「……別に」
短く返す。
少しだけ間。
佐藤が顔を覗き込む。
「てかお前、顔色悪くね?」
「ほんとだ、なんかぼーっとしてるし」
山田が続ける。
「イケメンのくせに台無しだな」
「そこフォローしろよ」
佐藤が軽く笑う。
「てかさ——」
佐藤がニヤっとする。
「帰りマック行かね?」
「マックー!」
山田が乗る。
「……わりぃ」
少しだけ間。
「今日は帰るわ」
席を立つ。
「あれ?もう帰んのか?」
大地が、少しだけ意外そうに眉を上げる。
「まあ……ちょっと用事」
「そっか」
大地は軽く頷く。
「俺、これから部活だからさ」
「ああ」
「また明日な!」
「ん…」
大地はそのまま体育館へ向かって行く。
佐藤と山田も、それぞれ帰る準備を始めた。
教室を出る。
廊下を歩く。
人の声が、少しずつ遠ざかっていく。
「……」
胸の奥に、引っかかる感覚が残る。
(……なんで、こんなに気になるんだよ)
足を止める。
考えようとして——やめる。
考えても、答えは出ない。
———
夕方、自宅。
リビングに入る。
「おかえり」
母の声。
「……ただいま」
短く返す。
母が、少しだけ首を傾げる。
「どうしたの?元気ないわね」
「……?」
「大地くんと喧嘩でもしたの?」
「……してねぇよ」
ほんの少しだけ、声が強くなる。
母が、はっとしたように口を閉じる。
それ以上、何も聞かなかった。
そのまま、キッチンへ戻っていく。
「……」
紫音は、何も言わず、ただそこに座っていた。
———
夜。
風呂を出る。
タオルで髪を拭きながら、自分の部屋に戻る。
ドアを閉める。
「……」
今日の出来事が、頭から離れない。
会話のズレ。
抜け落ちた記憶。
あの違和感。
「……」
机の上を見る。
時計。
カチ、カチ……
何事もなかったように、規則正しく動いている。
視線が、時計に引き寄せられていく。
時計を手に取る。
冷たい。
「……ただの時計……だよな?」
少しだけ間。
「……そういえば」
視線を落とす。
「……つけ始めてからだ」
ゆっくりと息を吐く。
「……いや」
小さく首を振る。
「……まさかな」
無意識に、時計を裏返すと、うっすらと
文字が刻まれている。
英語でも、日本語でもない。
ただの模様のはずなのに——
目が、離れない。
次の瞬間。
頭の奥に、強引に“意味”が流れ込んできた。
——真の持ち主よ。
——その名を呼べ。
(真の持ち主……?)
その言葉が、頭の中に広がっていく。
拒もうとしても、消えない。
「……やめろ……」
口が、勝手に動く。
止めようとしても、声が止まらない。
「……シ……ル……バ……ー……」
時計から、銀の光が溢れ出す。
視界が、一瞬で白に染まる。
その中に——
白い影が立っていた。
「なんだよ……これ……っ」
頭が、割れるように痛む。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
息が乱れる。
銀の光が、ゆっくりと消える。
ゆっくりと目を開ける。
「……」
見慣れたはずの部屋。
でも、違う。
空気が、違う。
鏡が目に入る。
「……っ!」
白銀の髪。
青い瞳。
黒い仮面。
白いジャケットに、黒のインナー。
「……は?」
自分の姿を見下ろす。
指先まで、確かに“自分”なのに——
「……は?なんだよ、この格好」
少し間。
「……コスプレかよ」
声が、ほんの少しだけ低くなっていた。
時計を見ると——消えている……?
妙な気配がして、振り向く。
そこに——
変な生き物が、いた。
ニヤリと笑いながら、言った。
「ご主人!シルバー!」




