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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
覚醒

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頭の中に響く声

 みんなの笑い声が、遠く感じる。

 大地も、ノブも、ナオも、さっきの話で、まだ盛り上がっている。


「紫音?」

 大地が首を傾げながら俺を見る。

「ん?」

「お前、さっきからあんま会話に入ってこないよなぁ?」

「……そんなことねぇよ」

 図星をつかれ、視線を逸らす。


 ナオが続けて話しかけてくる。

「授業中、お前やっぱり寝てたよな?」


 ノブが俺の顔を覗き込む。

「てか紫音、顔色悪くね?」

 大地が心配そうに尋ねてくる。

「お前、腹でも壊したのか? まさか下痢とか?」


 ノブが続ける。

「イケメンが下痢とか台無しだぞ」


「そこフォローしてやれよ」

 ナオが少し笑いながらも、心配そうに俺を見る。

「腹なんか壊してねぇし!」

 そっぽを向きながら返す。

「だよなー? お前意外と食うのに腹壊さねぇしなぁ」

 大地が笑う。


「てかさ——」

 ノブがニヤっとしながら言う。

「帰りゲーセン行かね?」

「いいねぇ、あ、でも塾行くまでな?」

 ナオが乗る。

「俺は部活だしなぁ……紫音は?」


 三人が俺を見る。


「……わりぃ、俺今日は帰るわ」

 席を立つ。


「えっ? 帰んのか?」

 大地が、意外そうに尋ねてくる。


「ああ……ちょっと今日は用あってさ」


「下痢がヤバいんだとさ」

 ノブが茶化す。

「ちげぇから!」


 大地は笑いながら、

「送ってやれねぇけど、気をつけて帰れよ?」

「お前は俺の恋人か!」

「ははっ! また明日な!」

「ん……」

 三人に手を振り、俺は教室を後にした。


 教室を出て、廊下を歩く。人の声が少しずつ遠ざかっていく。


◇◇◇


自宅——

 靴を脱ぎ、リビングに入る。


「おかえり」

 母さんがいつもと同じように迎えてくる。


「……ただいま」

 短く返す。


 母さんが、首を傾げながら、俺に尋ねてくる。

「どうしたの? なんか元気ないわね」

「……別に」

 俯きながら返事をする。


 母さんは心配そうな様子で聞いてくる。

「もしかして、大地くんと喧嘩でもしたの?」


「は? してねぇし!」

 咄嗟に言葉を返す。苛立ちがそのまま言葉に出てしまった。


「そう……」

 母さんは少しだけ驚いた顔をして小さく返事をした。そして、それ以上何も言わず、少し俺の顔を見てキッチンに戻っていった。


「母さんに当たるとか最低だな……」


◇◇◇


夜――

 風呂上がり。タオルで髪を拭きながら、自分の部屋に戻り、そのままドアを閉めた。


 ドアにもたれかかったまま、目を閉じる。どうしても今日の出来事が、頭から離れない。


 抜け落ちた記憶、そして朝から感じた違和感。


 視線を机に向ける。

 腕時計が、カチ、カチ、カチ……と、何事もなかったように、規則正しく動いている。


 時計を手に取る。時計はひんやりと冷たい。

 俺はマジマジと時計を見る。


「どう見ても、ただの時計……だよな?」

 誰に尋ねるわけでもなく、一人ポツリと呟く。


「待てよ……?」

 無意識に顎に手をやり、視線を時計に向ける。


「おかしくなったのって、この時計をつけてからだ……」

 眉間に皺を寄せながら、軽く息を吐く。

「うーん」


「いや、まさかな」

 小さく首を振る。


 時計を裏返すと、うっすらと文字が刻まれているのが目につく。

 英語でも、日本語でもない。ただの模様のような文字。

「なんだこれ? アラビア語?」


 なんとなく文字を指でなぞると、その瞬間、頭の中に直接声が響き渡る。


 ——真の持ち主よ。その名を呼べ。


「は? 誰だ!?」


 周りを見渡すと、自分の部屋にいたはずなのに、明らかに違う場所にいる。

 

 ぐにゃりと歪んだ空間の中で、大小様々な時計が浮かんでいる。


「は? どこだよここ!?」

「え? 俺なんか浮いてんじゃん!」


『真の持ち主よ、その名を呼べ』


「なんなんだよっ! お前! 一体誰なんだよっ!」

 頭の中に直接入ってくる言葉が妙に生々しくて気持ちが悪い。


「……やめろ!!」

 自分の意思とは関係なく、口が勝手に動こうとする。口を塞ごうとしても、手が、身体が言うことをきかない。


「くっ……」

 必死で抗うように唇を噛む。口の中に鉄の味が滲んでくる。


(嫌だ……やめろ)

 泣きたくないのに、目から涙が流れてくる。

(苦しい……息が上手く吸えない……)


 抵抗も虚しく声が無理やり発せられる。


「俺は……シルバー……」

 

 時計から銀の光が溢れ出し、目の前の視界が、一瞬で白に染まっていく。


 ふと気づくと自分の部屋。周りを見渡そうとした瞬間、身体がふらつきそのまま膝をついた。


「……ぐっ」

 頭が割れるように痛い。

「身体が……熱い……」

 息が激しく乱れ、そのまま倒れ込む。

 銀の光が、自分の身体を包んでいった。


◇◇◇


 それからどれくらい時間が経ったのだろうか。


「また夢……?」

 目を覚ますとベッドにもたれかかっていた。

 ゆっくりと立ち上がる。

 

 すると目の前で白い影が揺れた。

「鏡……?」

 前を見ると、鏡の向こうで誰かが一瞬笑った気がした。


「……っ?」

 瞬きをする。

 そこに映っていたのは——

 銀の髪に青い瞳、そして黒い仮面。

 白いジャケットに、黒のインナー。


「……は?」

 自分の姿を見下ろす。


「なんだ? この格好……コスプレかよ!」

 俺の声が、いや、ツッコミが部屋中に響いた。


「……っ、声低っ!」

 思わず喉元を押さえる。


 手を見ると、持ってた時計も見当たらない。

「どこいった?」


 周りを見渡すと妙な気配を感じた。

「誰だ!?」


 振り向いた先には、変な生き物がいた。


 そいつはニヤリと笑いながら、言った。

「やっと起きたね!シルバー」

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