イカれた切り札!?
三人目の仮面の男と対峙する俺。俺の二倍?いや三倍はある身体。力では全く敵いそうもない。
さて、どうするか?
男はゆっくりとこちらへ歩いてくる。一歩踏み出すたびに床が軋む。
「……デカいな」
思わず息を呑む。
そのまま男は距離を詰めてくる。
「よし!先手必勝!」
力では敵わなくとも、スピードは俺のが上だ!
チェーンを放つ。
ガシッ
男の腕に巻き付く。そのまま思い切りこちら側へ引く。
「……くっ」
男の身体は重すぎて微動だにしない。逆に俺の身体が引っ張られる。
「クソッ!」
慌ててチェーンを離すが、男が巨漢とは思えないスピードでこちらに向かってくる。男の拳が俺に向かってくる。ギリギリのところで床に転がって避けた。
ドゴォォンッ
男の拳で床が砕ける。
「……っ!」
まともに食らったら一巻の終わりだ。男と距離を取りながら、周囲を見回す。
鉄骨、コンテナ、天井、利用できるものは全部使う。
「力じゃ勝てねぇなら――」
チェーンを天井へ放つ。
ガキィンッ!!
勢いよく身体を持ち上げる。
「頭を使うまでだ!」
俺は天井に引っかかったチェーンをそのまま思い切り引いた。
ミシッ……
古びた鉄骨が悲鳴を上げる。
男が異変に気付いて顔を上げた。
「遅ぇよ」
バキバキバキッ!!
頭上の鉄骨が男の頭上に向けて崩れ落ち、轟音と共に男の身体が瓦礫に埋もれる。
辺りは砂煙が舞い、俺はマントで口を覆いながら呟いた。
「……やったか?」
バァァァン!
瓦礫の中から男が立つ。
「……化け物かよ。てか、アルジェントの奴、あいつをやっつけてからいけよ!……たくっ……ん?」
ポケットに入れた花札を思い出す。
「……運次第か」
「でも……」
「やるしかねぇ!」
銀のケースから札を取り出す。札が手元で淡く光る、
男は瓦礫を払いながらゆっくりこちらに向かってくる。
「……説明書はないのかよ!」
焦りながらケースを振る。何も出ない。
蓋には『効果は運次第。上手く使え』とだけ書かれているだけ。
「雑か!」
「使ってみるしかないのか、よくわからねぇけど……まあさすがに死ぬこととか、ないよな?多分……」
札を1枚取り出す。『猪』の札。
頭に音声が直接響く。
「札、猪適用。猪突猛進!対象めがけて一直進」
「は?」
理解する前に身体が勝手に仮面の男に向かって走り出す……いや、飛ばされてる?
「……なんじゃこりゃあぁぁぁ」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーーーー!!」半泣き状態になりながらチェーンを天井に投げ身体を浮かす。
男にぶつかる直前スレスレに避けた。
「はぁ……はぁ……」
「死ぬかと思った」
額から嫌な汗が流れ出てくる。
花札を見ながら呟く。
「……アンニャロ、覚えてろよ……アルジェント」
俺のことなんておかまいなしに、仮面の男はゆっくりとこちらを振り返る。俺が避けたことすら全く気にしていないみたいだ。
「……舐めやがって」
俺は再び花札へ視線を落とす。
猪の札は淡い光を保っている。
「……暴走だけはやめてくれよ」
男の足音がビル内に響き、少しずつこちらに近づいてくる。
「さて……次は何が出るんだ?」
銀のケースの中を見る。正直使いたくない。
使った結果、空を飛び始めたりしたら洒落にならねぇ。
けど――
男はもう目の前だ。
「運任せ……か。ここでやれなきゃ先はない。やるしかねぇ」
俺は再び札へ手を伸ばした。
〜ログチーside〜
紫音の部屋。
分身は布団の上で妙に固まった姿勢のまま、眉間にシワを寄せている。
「……なぁ紫音。今日のお前、ほんと変じゃね?」
大地が呆れたように言うと、分身はぎこちなく返す。
「べ、別に……」
(声が高い!もっと低く!)
背中でコソコソとログチーが必死に指示を出す。
「何か悩みあるとか?お前抱え込みそうだし、たまには吐き出せ。聞いてやるから、さ」
「大地くん……」
分身は目に涙を浮かべる。
「……やっぱ変だぞ?紫音」
大地が焦ったように言ってくる。
「べ、別に。ちょっとゴミが入っただけだ!」(キリッ)
大地がため息をつく。
「そっか……まあそう言うならまあ、いっか」
「じゃあ俺、風呂借りるわ」
と大地が立ち上がる。
分身とログチーは慌てて大地に隠れるようにして顔を見合わせた。
(やばい!大地くん一人にしたら…!)
ログチーが分身に耳打ちする。
「ニセシルバー、一緒に入るって言え!」
「えっ?一緒に入るの?
「それしかないじゃん!早く!」
分身は息を呑み、覚悟を決めた。そして出来る限り決めた表情で言った。
「大地……一緒に入ろ?」(きゅるん)
大地の背筋に悪寒が走る。
視線を逸らし、早口で大地が言う。
「紫音、俺はお前の気持ちには応えられん!」
そう言って大地は止める間もなく、慌てて廊下に出ていく。
残される分身。
「あっ!」
「もう!何やってるのさ!」
「……でも、まあシルバーの家だし……危険はないのかな?」
「ないよ!ログチー様!シルバー様のお母様もお父様もめちゃくちゃ優しかったもん」
「まあ、様子見よう」
◻︎◻︎◻︎
大地は少しため息をつきながら階段を降りていく。
「紫音、変なもんでも食べたんかな?」
風呂場に行くところで、縁側を通る。そこには玄斎が静かに佇んでいた。
玄斎に声をかける大地。
「こんばんは、お邪魔してま……」
「……あれ?」
大地は目を細める。
「紫音のじいちゃん……?」
大地は首を傾げる。
「ん?」
「紫音のじいちゃんって確か三年前に……」
言いかけた瞬間、頭の奥がズキッと痛む。
大地の意識がそのままゆっくりと沈んでいった。
目の前に立っていた玄斎は静かに言った。
「悪いのぅ、大地くん……まだ時期ではないんじゃ」
玄斎は大地の額にそっと手を当てた。その瞬間、空気がわずかに揺れる。
玄斎はなんとも言えない表情を浮かべ呟く。
「今のは夢じゃ。よくおやすみ…」




