自分の力で立つ
パァンッ!!
三方向から銃声が鳴り響く。
終わった……そう思った瞬間──
銃弾は俺の頭を打ち抜くこともなく、背後の壁へ突き刺さった。
「……え?」
思わず声が漏れる。さっき見た映像では確かに俺は打たれてたはずなのに……。未来が変わったのか!?
──ガンッ!!
突然、ビル全体を揺らすような衝撃音。仮面の男たちが一斉に振り向く。
「……何だ?」
暗闇の奥に一人の男が立っていた。銀色の長髪、夜風に揺れる白いマント。
仮面の男たちが銀髪の男に向かって一斉に銃口を向ける。
「新たな対象を確認」
「危険度を再評価──」
打とうとした瞬間、銃声は鳴らなかった。引き金を引こうとした仮面の男が固まる。
「……あぁ?」
手にあったはずの銃が消えている。
「な、何をした!?」
銀髪の男は肩を竦める。
「ちょっと借りただけだ」
口角を上げ、余裕の表情。まるでゲームでも楽しんでいるように見える。
別の仮面の男が銀髪の男に向かっていこうと踏み出すが、
ガクンッ
突然足がもつれたように前のめりに倒れ込んだ。
さらに三人目の仮面の男は、銀髪の男と距離を詰めてこようとするがいつまでたっても目の前にいるはずの銀髪の男に全く近づけない。
「なぜだ……」
「なぜ届かない……!」
仮面の男達が明らかに戸惑っている。
銀髪の男が静かに笑う。
「つまらんな……」
攻撃も当たらず、近付けず、さらに武器が消えているのに銀髪の男は一歩も動いていない。
「……すげぇ」
銀髪の男が振り返り、俺を真っ直ぐに見る。
「助けるのは前回だけだと言ったはずだが?」
不敵に笑う。
「……アルジェント、俺……」
「話は後だ……。体勢を整えろシルバー」
「はは……。でも俺、身体が動かね……あれ?さっきより身体が軽い」
アルジェントが、フッと笑う。
「とりあえずそこの若者を逃してやれ」
指差す方向には樹が倒れている。俺はアルジェントを見てコクンと頷いた。
◻︎◻︎◻︎
気絶している樹さんに声をかける。
「……樹さん、おい!大丈夫か?」
樹が目を覚ます。
「……あ、ああ……すまない。足手まといになってしまって……」
弱々しく答える樹。
「……いや、俺の暴走を止めたのは樹さんだ」
「ありがとな」
俺の言葉を聞いて樹さんは少し照れ臭そうに笑った。
「とにかく、樹さんは今すぐ逃げろ!」
「俺は大丈夫だ!仲間もいるしな」
後ろにいるアルジェントを指で差す。
「それに……」
「ん?」
樹が俺を見る。
「もう命も粗末にしねぇ。……だから、安心してくれよ」俺は静かに微笑む。
樹さんは少し息を吐き、俺に向かって言った。
「……わかった。じゃあ俺の名刺を預けておくから必ず連絡をくれ」
「ああ、必ず」
「生きろよ、シルバー」
樹さんは仮面の男の隙をつき、ビルから飛び出した。
まだ万全じゃない。身体も上手く動くかわからねぇ。けど……背中にアイツ(アルジェント)がいる!
「さっさと片付けるか!」
言ったそばから少しふらつく。
「おっと」
アルジェントが俺の肩を掴んで言う。
「格好はつけたが、立つのもやっとだろう?」
「……うるせぇ」
少し気まずくて悪態をつく。
「その憎まれ口を叩く元気があるなら大丈夫だな」
アルジェントが笑う。
仮面の男達も体勢を整え、タイミングを狙っている。
「対象を再評価」
「危険レベルを上方修正」
「排除を開始する」
仮面の男がまた機械的に同じ内容を繰り返す。
男達を警戒しながら、アルジェントに尋ねる。
「アンタの能力ってなんなんだよ?」
でもアルジェントは答えない。
「無視かよ……」
俺たちは背中合わせで仮面の男達の出方を見ていた。
アルジェントが呟く。
「お前と私の能力は全く別物じゃ……いや、別物だ。お前はお前の戦い方をしろ」
「それに」
「それに?」
「助けるのは前回だけだと言ったはずだ」
「あとはお前の力を見せてみろ」
そう言ってアルジェントは微笑み、そのまま俺の前から姿を消した。
「は?」
「はあああああ?」
一瞬の静寂。次の瞬間、
パァンッ!!と銃声が鳴り響く。
反射的に身体を捻ったが弾丸は髪を掠めた。背筋から嫌な汗が流れてくる。
「クッ……」
もうアルジェントはいない。本当にいない。
「……アイツ、マジで帰りやがった」
イラつきながら、ふと足元を見ると何かが落ちていた。それをさっと拾いあげ死角になるところへ移動する。
柱の陰でさっき拾ったものを見てみる。銀色のケース。中を開けると花札が入っていた。
「何だよ、これ」
蓋には効果は運次第。上手く使え。アルジェント。
「……アルジェント」
「てか、普通に渡せよ……」
思わずため息が出た。
◻︎◻︎◻︎
柱から様子を伺う。仮面の男が三人。武器を持っているのは二人だけ。残りの一人は二人に比べてガタイがいい。
一発もらったらさすがにきつい……。
「まずはあの二人から倒す!」
勢いよくチェーンを天井の柱へ投げる。
ガキィンッ!!
チェーンの先端が鉄骨へ巻き付き、強く固定された。地面を思い切り蹴って身体を宙へ浮き上がらせる。
「っ!?」
銃を持っていない仮面の男が顔を上げた。
振り子の勢いに乗った俺の身体が、男の頭上を高速で通過する。
ドゴォッ!!
両足で男の上半身に向かって蹴りを入れる。
「ガハッ!!」
男がバランスを崩して倒れる。
「寝てろ!」
振り子の反動を使い今度は倒れた男の背中に向かって全体重をかけて飛び乗る。
「ガハァッ」
男の動きは完全に停止した。
「一人!」
着地と同時にチェーンを引く。巻き付いていたチェーンが外れ、再び手元へ戻ってくる。
残る銃を持った男がこちらへ銃口を向け、構わず発砲してくる。間一髪で避け床へ転がる。弾丸が頬を抉った。
「クソッ!治りかけのとこにまた当てやがって!」
転がった体勢のまま、勢いよくチェーンを男に向かって投げる。蛇のように伸びたチェーンが男の手首へ巻き付く。
「なっ!?」
思い切り引く。男の身体が前へ引っ張られる。
俺は地面を蹴り、男が向かってくる方向へ走る。一気に距離を詰め、全体重をかけ男に向かって拳を振り抜いた。
バキィィィッ!
男は壁まで吹き飛ぶ。
ガンッ!!
そばにあったコンテナへ頭をぶつけ、そのまま動かなくなった。
「痛ってぇ……」
手元を見ると黒い手袋に少し血が滲む。
残るは一人。ガタイのいいあの仮面の男だけだ。俺はチェーンを握り直す。
正直なところ、面倒くせぇ。
帰って寝たい。
身体も痛ぇし、やってらんねぇ。
けど――
「お前は別だ!」
「さっきやられた分、倍にして返してやるよ」




