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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

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シルバー絶対絶命!?

 Kurokawa-Project ……

 思わず息を呑む。


 黒川……俺と同じ、苗字。これは偶然か?

 いや、黒川なんて名字は珍しくない。

 ブラックカンパニーの社長がたまたま同じ苗字なだけ……


「キミ、どうした?」

 樹さんの声で、我に戻る。


「……いや」

 そう答えたその時、


 ……カツン。

 静まり返ったフロアに音が響く。


 俺と樹さんは同時に顔を上げた。

 ビルの奥。

 暗闇の向こうから、ゆっくりと足音が近付いてくる。


 カツ、カツ、カツ……

 迷いなく向かってくる足音。

 まるで最初から俺たちの場所を知っているみたいに。


 嫌な予感がした。俺は反射的にUSBケースを見た。


 ケースの裏側。小さな赤いランプが点滅している。


「発信機……!」


 親指ほどの黒いチップ。

 俺はチェーンの先端を引っ掛け、一気に引き剥がし、足で踏みつけた。


 バチッ!と火花が散り、赤いランプが消えた。


 樹さんの顔が青ざめる。

「まさか……追跡されていたのか!?」

「……多分な」


 背中に嫌な汗が伝う。足音は近くまで来ている。さて、どうする?


 樹さんを見る。手が震えて顔が青ざめている。


「樹さん」

「え?」

「今すぐ逃げろ」

「なっ!?」

「情報を持ってるのはアンタだ。捕まったら全部終わる」


「でもキミは!」

「いいから行け!」

 そう叫んだ瞬間だった。


 バンッ!!

 奥の扉が吹き飛ぶ。


 舞い上がる埃。その中から現れたのは、黒いスーツ、無機質な白い仮面、そして、銀色の銃。


「対象を確認」

 低い声が響く。


 男の銃口が真っ直ぐこちらを向いた。


「USBの回収を開始」

 冷たい声。


 人間というより機械みたいな喋り方。樹さんが息を呑む。俺は一歩前に出た。


「樹さん、走れ!!」

 男の指が引き金にかかる。


 その瞬間、心臓の鼓動が大きく跳ねた。視界が妙に鮮明になる。


 男の肩、腕、指、脚、全ての動きが見える。


(右に撃ってくる!?)


 そう感じた瞬間、身体が勝手に動く。


 パンッ!!


 銃声が響く。俺は床を転がるように飛び退いた。弾丸がさっきまでいた場所を貫く。


「……何だ?行動が見える」


 いや、弾丸が見えたわけじゃない。

 男が撃つ前の動きが妙にはっきりしている。まるでそこだけ時間が遅くなったみたいに。


「シルバー!」

「何やってんだ!早く行け!」

「でも!」

「いいから!!」

 怒鳴った瞬間、男が再び銃を構えた。


(次は左)


 頭に浮かぶ。男に向かってチェーンを放つ。

 ガシャン!!

 チェーンが男の手首へ巻き付く。


「っ!?」

 銃口が逸れた。

 パンッ!!

 二発目の弾丸が天井へ突き刺さる。


「なるほど」

 男が小さく呟く。


「危険度を修正する」


「は?」


 次の瞬間、背後からもう一人現れた。


「なっ……!」


 黒いスーツ、白い仮面、同じ装備。


「対象を追加確認」

「USBを回収する」


 さっきの奴だけじゃない……まだいる。

 どれだけ送り込んでくる気だ。


 周りを警戒しながら見渡す。

 正直怖い。手の震えが止まらない。だけど……やるしかない!


 歯を食いしばり、チェーンを引き戻す。男の腕に巻き付いたチェーンを支点にして柱へ飛び移る。

 パンッ!パンッ!

 二発の銃弾でコンクリートが砕け散る。


「逃げ回るだけか」


「だったら捕まえてみろよ!」


 チェーンを天井の鉄骨へ巻き付ける。勢いのまま身体を振り上げた。

 振り子のように宙を舞う。


「っ!?」

 上を取られた男が見上げる。その顔面へ、全体重を乗せた飛び蹴りを叩き込んだ。


 ドゴォッ!!

 仮面が砕ける。男が吹き飛び、床を転がった。


 もう一人の男の銃口が真っ直ぐ俺を捉える。

「排除対象を確認」


 その瞬間、ピアスが熱を帯びる。

 頭の奥で、誰かの声が聞こえた気がした。

『忘れるな』

 世界がまたゆっくりになる。


 男の指が動く。銃口から弾が撃たれる。

 その未来が、はっきり見えた。


 パンッ!!

 弾丸が頬の横を掠める。


「また避けたか」

 男の声に初めて感情が混じる。


(なんだよ……これ)


 心臓がうるさい。なのに、敵の動きだけは異様にはっきり見える。


 男が腰を落とし、右足に力を込める。

 (次は突っ込んでくる)

「おおおっ!!」

 俺はチェーンを振り抜く。


 ガキィン!!


 男の腕に巻きつけ、そのまま勢いよく引っ張った。男の身体が前に倒れる。


 「……重っ」


 柱へチェーンを巻き付け、勢いを利用して身体を回転。遠心力を使って蹴りを叩き込む。


 ドゴォッ!!

 男が吹き飛び、壁へ激突した。

 

「やったか……?」


 男が立ち上がる。


「……不死身かよ」

 額から汗が流れる。


 仮面の奥から冷たい視線が向けられる。

「危険度を再評価」


 背後で樹さんの声が響く。


「シルバー!!」


 振り返ると、樹さんの背後にさらにもう一人男がいた。


「なっ……!」


 黒いスーツ、白い仮面。そして――

 銀色の銃。


(化け物軍団かよ!)


 男が引き金を引く。樹さんへ向かう銃弾。考えるより先に身体が動いていた。


 パァン!


 チェーンを放つ。

 ガシャン!!

 チェーンが近くの鉄骨に巻き付く。俺はそのまま身体を投げ出し、振り子のように宙を舞う。


「……間に合え!」


 ギリギリで樹さんを突き飛ばすが、自分の肩に弾丸が掠った。


 「うっ……」

 そのまま二人で転がる。


「シルバー!」

「大丈夫か!?」

「あ、ああ……」

 立ち上がろうとした瞬間だった。


 ズキッ。頭の奥が激しく痛む。


『忘れるな』


 まただ、あの声……ピアスが焼けそうなくらい熱い。視界の端で銀色の光が揺れた気がした。


 そして、仮面の男たちが同時に銃を構える。

「対象を排除する」

「USBを回収する」


 俺はチェーンを握り直した。

「……上等だ」

「まとめて来いよ、相手してやるよ」


 仮面の男たちが一斉に動く。


「排除を継続する」

「対象の抵抗を確認」

「危険度を再評価──上位」


 銃口が三つ、同時に俺へ向けられる。


(……無理だろ、これ……)


 喉が熱い、手が震える…足が、重い…。


 さっきまで見えていた“未来の動き”が、急に霞んでくる。


(なんで……急に……)


 視界の端で、樹さんが震えている。


「シルバー……もう逃げよう!無理だ!!」


「逃げたら……USBが……」


「USBなんてどうでもいい!!死んだら何の意味もない!!」


 樹さんの叫びが胸に刺さる。


 でも、俺の脚は動かない。

 いや、動かないんじゃない……、動かそうとすると、頭が割れそうに痛む。


 これは力の代償……?


「はは……肝心な時にカッコつかねぇよな」


 仮面の男たちがゆっくりと距離を詰めてくる。


「排除を開始する」

 銃口が、俺のほうへ向けられた。


(これで、終わりか……)


 一瞬先の未来。

 俺の頭を撃ち抜く銃弾が見えた。

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