謎の会社
〜ログチーside〜
「とにかく大地と合流しなきゃ!今日は大地を独りにしたらダメだから、シルバーの家に連行しよう!力づくでも!」
分身が元気よく頷く。
「うん!大地くん助ける!」(フンスッ)
ログチーが頭を抱えながら呟く。
「…シルバーはそんな話し方しない!」
「でもぉ……」
「でももだってもない!顔もなんか情けないし!」
分身はしゅんと肩を落とす。
「とりあえず眉間にシワ寄せて、不機嫌そうな顔してよ!」
「う、うん!」
分身は頑張って険しい顔を作る。
「よし!それ!それだよ!」
その時、大地がこっちに向かって白石と歩いてくる。
「あ!大地だ!」
ログチーは分身の肩に飛び乗った。
「オレが言葉を伝えるから、お前はそのまま同じことをシルバーっぽく言え!」
振り向いた大地が目を丸くする。
「紫音?」
隣にいた白石も小さく呟く。
「黒川くん…」
分身がログチーに言われるがまま話す。
「おい大地、ちょっと顔貸せ」
「は?」
大地が眉をひそめる。
「俺、白石送る途中なんだけど」
白石は慌てて手を振った。
「だ、大丈夫だよ?私、家はもうそこだし」
道の先を指差す。
「長瀬くん、今日はありがとう……」
そう言って軽く頭を下げ、白石は走って去っていく。残されて、名残惜しそうな大地。
大地はため息をつきながら、呆れたようにこちらを向く。
「…何なんだよ、邪魔しやがって…」
下を向きながらブツブツ話す大地。
「いいから!今から俺と来い」
「は?何言ってんだ?」
「来い!」
珍しく強引な紫音に、大地は首を傾げた。
「……お前、なんか変だぞ?」
ログチーは焦る。
(やべっ!)
背中に貼り付いていたログチーは思わず分身の肩を噛んだ。「いっ!」
分身は再び不機嫌そうな顔を作る。
「とにかく、俺の家に来い!」
「はぁ?ま…いいけど、さ」
渋々ながら大地は了承した。
紫音の家。
「…た、ただいま」(キリッ)
由紀子がリビングかは顔を出す。
「おかえり紫音。…あら、大地くんも」
「こんばんは、おばさん」
大地は軽く頭を下げる。
由紀子は二人を見ながら首を傾げた。
「平日なのに珍しいわね。どうしたの?」
分身は少しだけ間を置いてから答える。
「…き、今日、大地泊まるから!」
「え?俺、泊まるん?」
大地が分身を見る。
分身は眉間に皺をよせながら頷く。
「すんません、なんかこいつ…いや、紫音が話あるみたいで…」
「あら、そうなの?」
(あら?あらあらあら?まさかの進展?)
「じゃあご飯多めに用意しないとね」
「あ、ありがとうございます」
「いいのいいの。遠慮しなくていいわよ」
そう言って由紀子は楽しそうに微笑む。
「仲良しねぇ」
分身は一瞬だけ固まった。
(どう返すんだっけ!?)
肩に張り付いていたログチーが慌てて小声で囁く。「なんか言え!シルバーっぽく!」
分身は不機嫌そうな顔を作りながら口を動かした。
「…別に、仲良しとかじゃねぇよ」(キメッ)
「ふふっ」
由紀子は意味深に笑う。
隣で大地が首を傾げた。
「…やっぱ今日のお前、変だぞ?」
ログチーの背筋に冷や汗が流れた。
〜紫音side〜
気絶した刺客を近くにあった柱にチェーンで縛りつける。
坂中の兄がポツリと呟く。
「……助かった。ありがとう」
「いや…まだ安心出来ねぇ…。人の気配は感じないから今のところは大丈夫かと思うけど」
「…キミはすごいな」
樹が小さく微笑み、手を前に出す。
「改めてだが、僕は坂中樹だ」
樹の手を握り返す。
「樹さん?」
その名前を聞いた瞬間、何かが引っかかった。
「……いつ兄」
無意識に呟く。
「え?」
「あ、いや…何でもない」
樹さんは少し首を傾げた後、真剣な表情で話し始めた。
「さっきのブラックカンパニーの話、あの会社がヤバいことに手を出してることに気づいて、俺は情報を盗んだ……。でも、すぐに見つかってしまって。その後すぐに組織の奴に追われた。慌ててバイクに乗って逃げた……、バイクに乗って逃げていたはずなんだ……」
「……けど、その後の記憶がないんだ。気づいたらこのビルの近くの草むらで寝ていた。明らかにおかしいだろ?」
「……樹さん、バイクを運転してたのはこの近くの大通りじゃないのか?」
「……大通り?」
「ああ、昨日の事故のバイクだ」
「事故……?なんだ、それは?」
「……やっぱりアンタも覚えて、ないのか」
「すまない」
「いや……。で、情報と言うのは?」
「あ、ああ、実は詳しくはわからない。ただ手がかりになるデータを手に入れた。中はまだ見れていない」
「奴らの研究は、人の記憶操作に関わっているとか。そんなことあり得えないが……」
「記憶操作……?」
俺は思わず樹さんの両腕を掴んだ。
「それ、本当なのか?」
樹さんは驚いたように目を見開く。
「あ、ああ……だが俺も詳しくは知らない」
「……っ」
頭の奥がズキリと痛む。
『忘れるな』
さっきの音が脳裏をよぎる。ピアスが熱を帯びたように脈打つ。
「どうした?」
樹さんが心配そうに声をかける。
「……いや」
ゆっくりと手を離す。
(もし、本当に記憶を消せるなら……)
事故のことも説明がつく。まさか大通りに鳴り響いたあの音も人為的に?
(待てよ……)
もし記憶が消されるなら――
「……写真!」
俺は慌ててポケットに手を突っ込んだ。恐る恐る写真を見ると、そこにはちゃんと樹さんの顔があった。
思わず息を吐く。
守れた……。
少なくとも樹さんの存在は消えていない。
胸の奥に張り付いていた不安が、少しだけ和いだ気がした。
写真をしまおうとして、ふともう一つの感触に気づく。クロノスから渡された黒いカード。じんわりと熱を帯びている。
カードに視線を落とした瞬間、俺は目を見開いた。
「…なんだよ、これ」
カードには連鎖の終わり、黒川紫音。
どうして俺の名前が?
背筋に嫌な汗が流れる。
連鎖の始まりが坂中、そして忘却。その後に大地の名前がきて、最後は俺……?
まさか── ?
「キミ、顔が真っ青だけど大丈夫か?」
樹さんが心配そうに声をかけてくる。
はっと我に返り、樹を見る。
「樹さん!時間がない、さっき話してたデータ、見せてくれ」
樹さんは黙ってUSBメモリを差し出した。
黒いケース。その表面に貼られているシールが目に入る。
「これは……」
シールにはこう書いてあった。
《Kurokawa-Project 》と。




