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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

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番外編 永遠の陽だまり

桜が散って新緑が顔を出し、少しずつ暖かくなる5月。この季節になると、ふと子供の頃を思い出すんだ。


 ――大好きだったばあちゃんのこと。


 子供の頃、俺は泣き虫だった。

 そんな俺をばあちゃんは、いつも優しく抱きしめてくれた。

 変な百面相をしながら、笑わせてくれた。


「泣きたい時は、泣いていいんだよ」

「我慢する必要はない」

 優しく微笑む。


「…だけど、俺は男だし」

 グッと拳を握る。


 そう言うとばあちゃんは俺の手を握って


「男の子だって泣いたらいい」


 そっと俺の目に溜まった涙を拭いながら、頭に触れる。


「我慢するとな?」


「我慢すると…?」


 ばあちゃんを見つめる。


「顔が水ぶくれになるー!」

 自分の顔を左右に伸ばしながら、脅かすようにばあちゃんが言う。


「なにそれー?それは嫌だー」

 泣いてたのが嘘のように笑みが溢れた。

 ふふっと笑いながら、ばあちゃんは続ける。


「でも…」

「誰かを守るために、泣くのを我慢する姿は

カッコいいかもしれないね」

「そういう男になるんだよ」


 頭をポンポンと叩く。


「それって、じいちゃんのことー?」


 何気に聞いてみる。

 ばあちゃんは少し照れくさそうに笑った。


 それから5年後――

 突然の出来事だった。


 昨日まで話していたのに、急な訃報。

 笑ってる顔しか思い出せない。

 信じられなくて、ただ走った。無我夢中で。

 間違いであってほしいと願いながら――


 家に着くと、何だか空気が重い。

 自分の家ではないような感覚。


 母さんも、父さんも、じいちゃんですら何も言わない。暗い空気の中、押し黙っている。


 目の前の布団に横たわるばあちゃん。

 顔に血色がない。

 ただ眠ってるだけで、今にも目を開けそうなのに――


 そっとばあちゃんの頬に触れる。


「……っ!?」


 冷たい。

 硬い。

 まるで人形のように、動かない。


 何とも言えない感情が押し寄せてくる。

 気づくと涙が溢れていた。

 どうしようもなく、悲しくて…


 気づけば、母さんも、父さんも泣いている。

 いつも飄々としているじいちゃんも、声を押し殺して泣いている。


 その姿が、余計に俺に現実を突きつけてくる。


 ふとばあちゃんの言葉が頭を巡る。


「大好きな自慢の孫だよ」

「泣くとブッサイクだねー」

「紫音のお嫁さんが見たいねぇ……」

「人に優しく、困ってる人を助けられる人になるんだよ」


 どんな時も笑っていた。どんな時も、優しかった。よく頭を撫でてくれた。いつも俺の味方だった。


 逝くの急すぎだよ、ばあちゃん。


 通夜の準備が始まり、ばあちゃんは棺に入れられる。

 まるで眠っているみたいに、穏やかな顔。


「何、泣いてるんだい?」

 ふと、声が聞こえた気がした。


「よしよし、おばあちゃんのとっておきを教えてあげるよ」


 焼香をしながら、その続きを思い出す。


「目をつぶって、三秒数えて」


「目を開けたら、苦笑いでもいいから、ふてぶてしく笑うんだよ」


「笑っていれば、いいことがあるさ」


 ばあちゃんは笑っていた。いつも笑っていた。

嫌な顔なんて一度も見たことがない。


 強くて、優しくて、心の綺麗な人だった。

 あんなに優しい人、俺は他に知らない――


 翌日。葬儀の日は、よく晴れていた。

 まるで、ばあちゃんみたいに晴れやかだった。


 花を手向ける。

 迷わないように、一人で寂しくならないように。


 棺がゆっくりと閉じられる。

 火葬炉の中へと運ばれていく。

 火葬場の煙突から煙が上がる。


 心にぽっかり穴が空いたまま、俺は、静かにばあちゃんを見送った。


 風がふんわりと顔を撫でる。

 まるで、ばあちゃんの手のように。


「ばあちゃん……」


――ちゃんと笑えてるかい?

 ふと、そんな声が聞こえてきた気がする。


 優しい陽だまりの中で、俺は少しだけ笑った。

挿絵(By みてみん)

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