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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

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鳴り響く忘却の音

誰もいない公園。

街頭も少なく、周りは完全に夜になっていた。


分身――

分身を出す時は、どれくらいの時間かを思い浮かべないと丸一日分身を消せない。無理やり消そうとすると、俺にその代償が降りかかる。

難儀な能力。



俺はピアスに手をあて、目を瞑る。

目を開けると、目の前に俺そっくりの分身が姿を現した。ちなみに土下座はしていない。


分身を見る。

何となくまだオドオドしている。


小さくため息を吐く。


「……あの、さ、分身。ちょっと頼んでいいか?」


分身はなぜか涙目でコクコクと頷く。


「シルバー様ぁ…」


「その顔で涙ぐむな!気持ち悪ぃ」


「あ…いや、悪ぃ。そういうことが言いたいんじゃなくて、お前にしか頼めないことがあるんだ」


分身が俺を見つめる。


「…俺が戻るまで、大地と一緒にいてくれないか?とにかくアイツから目を離さないでやって欲しい」


「万が一、大地に何かあるようなら、意地でも守ってくれ…頼む」


「……シルバー、様」


忠告したのにも関わらず、分身が泣き出す。


「泣くな!同じ顔で泣かれると超不快なんだよ!」


「ヒック…だって…シルバー様、ヒック…こないだ冷たかったのになんだか今日は優しくて」


「うるせぇ…」


ため息をついた後、分身に言う。


「…とにかく頼めるか?」

「てか、お前にしか頼めない」


分身はコクコクと頷いた。

ログチーが心配そうに俺を見る。


「シルバー?大丈夫なの?」

「分身何するかわかんないよ?」


ログチーに視線を向ける。


「…ログチー」

「……お前は分身とここに残れるか?」


「えっ?それって…」

ログチーが肩で不安そうに俺を見る。


「今回は俺一人で行く…」


「シルバー…」


「頼むよ、な?相棒」


「わかったよ…シルバー」


「…サンキュ、大地のこと頼むな」

ログチーを分身の肩に乗せ、頭を撫でる。


「さて…」


「ログチー、変装して行く!頼む!」


「オッケー!」


俺の髪が銀色に変わる。

黒の帽子に、黒縁眼鏡、白のアウターに黒いパンツ。腰にはチェーン。


「…よし」


俺は目を閉じて、頭の中でイメージする。

時間のズレ、空間を掴むようなイメージ。

昨日の時間、昨日の夕方へ。


空間が歪み始める。足元の感覚がなくなる。

画面が真っ白になっていく。

ログチーの声が、かすかに聞こえた気がした。


目を開けると、周りは夕焼けが差していた。


「戻ったのか?」


スマホがないから日付も時刻もわからない。

とにかく坂中の状況を確認しないと。


周りを見渡す。坂中の家の側には人気はない。

どうする?何て言って接触するんだ?

でも、あれこれ考えてる時間はない。

あまりお勧め出来ることではないけれども…


坂中の家を見る。


「坂中の部屋は2階だったよな」


周りを見渡してから、屋根の上に腰のチェーンを投げる。チェーンは勢いよく飛び、屋根の柱に巻き付いた。チェーンを引っ張って、地面を蹴る。

そのまま屋根に飛び移った。 


「…俺も慣れたもんだよな、ログ…」

いつものようなやり取りはない。


気を取り直して、屋根から2階の窓を覗いてみると、坂中が部屋にいた。

今、帰って来たのか、制服を着替えようとしていた。


「……っ!」

すぐに目線を逸らす。

そして坂中がいたことに安堵する。

とりあえず家から出るところを何とかしないと…


そうこう考えていると坂中の家の玄関が開いた。

制服から私服に着替えた坂中が見える。

俺は屋根からそのまま様子を伺う。


(……どこ行くんだ?)


特に急いでいる様子はないが、明らかに坂中の様子がおかしい…


俺は屋根から静かに飛び降り、音を立てないよう着地した。

そして、距離を保ちながら後を追った


住宅街を抜け、商店街を抜け、そこから更に信号を二つ渡る。

気がつくと昨日事故が起きた大通りまで来ていた。


坂中が立ち止まる。


車が行き交う道路。

規制線も何もない。

昨日の事故なんて最初から無かったみたいに。


「……」


坂中が通行人に声をかける。

「あの…」

「昨日の事故でこの人見ていませんか?」

坂中がスマホを見せる。

年配の女性が首を傾げる。

「事故?」

「さあねぇ」

「わからないわ」


坂中の顔が曇る。

「そう……ですか」


次の通行人も、またその次の通行人も誰に聞いても同じだった。


事故を覚えていない。

まるで最初から存在しなかったみたいに。


(そんな馬鹿な……)


俺は確かに見た。

あの光景を目の前で。新聞にもニュースにも出てたはずだ。


坂中が俺に気づく。

「あの…」

「昨日の事故でこの人見ませんでしたか?」

スマホの画像を見ると、そこにはクロノスからもらった写真の人物と同じ男が映っていた。


「この人は…?」


「何か?知ってるんですか?この人は私の兄なんです!」


「え?」

(兄貴なんていたっけ?)


「…ごめん、見てない」


「そう……ですか」

坂中がスマホを下ろした。


その時だった。

耳の奥で、カチッと時計の針がずれるようなノイズ。『キィィィィン』という金属音が、俺の神経を刺激する。


「……あれ?」

坂中が俺を見る。

「私…、何でここに来たんだっけ?」

「…えっ?」


俺は坂中を見た。

坂中は困ったような顔をしている。


「ご、ごめんなさい」

「私、何か変なこと聞きましたよね?」

「いや……」

俺は言葉を濁す。


数秒前まで、兄を探していたはずの坂中。

その理由だけが綺麗に抜け落ちている。

まるで記憶の一部を誰かに切り取られたみたいに。


さっきの音はピアスが反応したわけじゃない…

そう思った瞬間、左耳が熱を持った。

違う!ピアスは反応していたんだ。

俺に『忘れるな』と警告するために。


カードに刻まれた文字『忘却』

それがじわじわと現実味を帯びるように、俺は背筋が凍りつく感覚を拭えなかった。

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