二人の距離感
腕時計からログチーの声がする。
「シルバー、あの場所って、あそこだよね?」
「ああ……」
さらに話を続けようとした時――
「……誰と話してるの?」
後ろから声が聞こえた。
振り返るとそこには、蒼乃がいた。
「……蒼乃」
「ど、どうした?」
誤魔化そうとして、思わず声がうわずる。
「えっと……探してたの。紫音くんを」
「……俺を?」
二人で中庭のベンチに座る。
腕時計から、ログチーが話かけてくる。
「シルバー、何やってんのさ?イチャイチャしてる場合じゃないよ?」
「……っ!し、してねぇし、黙れ!」
小声で返す。
「紫音くん……?」
名前を呼ばれて横を向くと、空の顔が
すぐ側にあった。
「……っ!」
「ちょ、近いから!」
距離を取るようにベンチの端にズレる。
口元に手をやりながら、空を見ると
俺を真っ直ぐに見ていた。
そして、笑う。
「今日は、紫音くんだね」
「は?」
意味がわからず、変な声が出た。
「昨日……何か違ったし」
(昨日……?あっ……あれか)
頭を掻く。
「昨日の俺は……忘れろ!」
「ぷっ」
「笑うな!」
昨日の屋上でのことを思い出す――
『仲良くなりたい人がいるの』
「……」
『お兄さんの声、癒されるね』
「……癒される、か」
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
蒼乃が、クスッと笑う。
「……なんだよ」
「何でもないよ……ただ」
「ただ?」
「ううん……何でもない」
「なんだそれ」
ため息をつく。
そろそろ行かないと……
「蒼乃、ごめん」
「俺、ちょっと用事あるから行くわ」
「あ……うん」
「紫音くん……もしかして」
空が俺を見る。
すぐに視線を逸らす。
「……それって――」
「ん?」
「……ううん、何でもないっ」
「……変な奴」
俺は、蒼乃に背中を向け
周りに誰もいないことを確認し、
ピアスに手を当てた。
あの場所
アルカへ――
〜空side〜
昼休み。
今日は絶対に紫音くんと話したい!
クラスメイトに声をかけ、教室を出る。
「どこにいるのかな……?」
屋上に行ってみるが、姿は見当たらない。
中庭を探す。
中庭で彼の声がした。
声がした方向へ。
「……誰と話してるの?」
彼が驚いたようにこちらを振り向く。
「……蒼乃」
「ど、どうした?」
何か慌ててるみたいだけど、いつもの彼だ。
何だかホッとする。
「えっと……探してたの。紫音くんを」
「……俺を?」
二人で中庭のベンチに座る。
距離が近くて、緊張するけど……
意識してもらうにはこうでもしないと。
彼を見るけど、何か呟いてるみたい……
(少しは意識してくれてる?)
「紫音くん……?」
名前を呼ぶと、彼が振り向く。
(まつ毛、長いな)
「……っ!」
「ちょ、近いから!」
距離を取るように彼はベンチの端に行く。
口元に手をやりながら、少し頬が赤い。
それがとても可愛くて無意識に笑みが溢れる。
「今日は、紫音くんだね」
(いつもの彼だ……)
「は?」
彼はポカンと口を開けている。
そのまま続ける。
「昨日……何か違ったし」
(女の子に囲まれてたし、誰にでも……)
首をフルフルと振りながら、昨日のことを
振り払う。
彼を見ると、照れ臭そうに頭を掻きながら
「昨日の俺は……忘れろ!」
あまりにも可愛くて、吹き出してしまった。
「ぷっ」
「笑うな!」
彼が何か呟く。
「……れる、か」
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
鼻を掻く彼。
一つ一つの動作が目に入ってしまう。
「……なんだよ」
「何でもないよ……ただ」
(見てしまうの……目が離せないの)
彼が首を傾げる。
「ただ?」
「ううん……何でもない」
(そんな事恥ずかしくて言えないけど……)
「なんだそれ」
呆れた顔で彼は呟く。
その後、彼は言った。
「蒼乃、ごめん」
「俺、ちょっと用事あるから行くわ」
「あ……うん」
「紫音くん……もしかして」
(用事って、あの屋上の彼女……?)
彼を見つめて、すぐに視線を逸らした。
「……それって――」
(確かめたいけど……)
「ん?」
「……ううん、何でもないっ」
(聞けるわけがない)
「……変な奴」
彼はそう言って、私に背を向けた。
私は自分を鼓舞するように一人呟く。
「……まだまだこれから!」
〜紫音side〜
アルカ内――
「クロノス!一体どういうことだ!?」
カードを見せる。
クロノスは答えない。
(またコミュ障かよ!)
「オイ!時間がないんだ……頼む」
目の前にいたクロノスが俺を見る。
いや、睨んでいる?
「ク、クロノス……?」
クロノスがポツリと呟く。
「……バイト」
「ん?」
「バイト、来なかった……」
「は?」
「はああああああっ?」
店内に俺の声が響く。
最近叫んでばかりだな。俺。
今そんな場合じゃないのに……
空気を読まない男は
目の前で不敵な笑みを漏らしていた――




