不穏なメッセージ
人生にはどうしても避けられないことがある。
父さんが昔そんなことを言っていた――
「紫音、人生には三つの坂があるんだ」
「三つの坂?」
「そうだ、人生を表す三つの坂だ」
「聞きたいか?」
「いや、別に……」
父さんは、そんな俺の言葉を無視して続ける。
「ひとつは上り坂、順風満帆を表す。
ふたつめの下り坂はさっきとは逆で物事が
上手くいかない時だ。そしてみっつめは――」
そう、そのまさかだ。
想定外なことが起きること。
俺が白雪姫になるとか、さ
想定外すぎるだろっ!!
絶対におかしい。
何度考えてもおかしい!!
俺は男だ。
なぜ白雪姫なんだ!
誰か説明してくれ!
机に突っ伏したままの俺に、大地が声をかけてくる。
「紫音、顔死んでるぞ?」
「……むしろ死んだほうが幸せかもしれねぇ」
「重っ」
横にいた佐藤が吹き出す。
「まだ引きずってんのかよ」
山田が笑う。
俺は机に顔を押し付けたまま答える。
「一生引きずる」
三人が一斉に爆笑した。
「そんな嫌か?」
山田が呆れたように言う。
「嫌に決まってんだろ!」
勢いよく顔を上げる。
「お前ら想像してみろよ!」
「学年全員の前で!さらに絶対親も見に来る……」
「白雪姫の格好させられる、俺!」
佐藤が腹を抱えて笑う。
「似合いそう」
「黙れ!」
「てか、昨日のお前可愛かったしな」
「それは俺じゃな――」
そう言いかけて、言葉を濁す。
「……いや、俺だな」
「大丈夫か?紫音」
大地が首を傾げる。
説明出来る訳がない。
分身が勝手に引き受けました、なんて……
「はぁ……」
再び机に突っ伏す。
こうなったら分身を身代わりに……
いやいやいや、無理だろ!
また新たなトラブルになりかねない……
頭をガシガシ掻きながら、机に突っ伏してる
俺に、山田がトドメを刺した――
「紫音……」
「なんだよ」
「王子役とのキスシーン頑張れよ」
「は?」
状況が読み込めず固まる。
「……今なんて言った?」
佐藤がニヤニヤしている。
山田が続ける。
「だからキスシーン」
「白雪姫は王子様のキスで目覚める」
「はあああああ?」
拳に力が入る。
俺は少し殺意を込めながら呟いた……
「滝沢(担任)殺す!!」
その時だった――
「あれ……?」
教室の空気が少し変わる。
声のした方を見る。
白石だった。
白石は不安そうに教室を見渡している。
「どうしたの?」
近くの女子が聞く。
「えっと……」
白石は尋ねる。
「歩ちゃん、見なかった?」
「坂中さん?」
「うん」
白石は小さく頷く。
「今日、全然見てない気がして……」
俺は何となく顔を上げた。
坂中歩――
学級委員の坂中。真面目な優等生。
こないだのラウワンにも確か来てたな。
言われてみれば――
今日は見ていない気がする。
「坂中、そういえば見てないな」
大地が言う。
「休みじゃね?」
佐藤が言う。
「……っ!」
ポケットの中に、熱!?
まさか――
慌てて席を立ち、教室の外に出る。
ポケットから、黒いカードを取り出す。
触ると微かに熱を帯びている。
カードにはこう書いてあった。
『連鎖の始まり』
「なんだ……これ?」
腕時計からログチーが話かけてくる。
「シルバー、これ何かヤバくない?」
「連鎖の始まり……?」
意味はわからない。
けど――
胸の奥が妙にざわつく。
「一体何が起こるんだよ……」
黒いカードを見つめる。
『連鎖の始まり』
嫌な予感しかない。
そして、その予感は大抵当たるんだ。
さっきまで慌てていた白雪姫のことなんか、
いつの間にか頭からすっかり抜け落ちていた――




