度重なる災難
「あら、またこんなところで寝てたのね」
母さんが笑っている。
「由紀子に似て可愛い寝顔だなぁ……」
子供の頃の、夢……?
遠くで声が聞こえた――
どれくらい眠っていたんだろう。
ぼんやり目を開けると、
父さんが俺を背負っていた。
「……っ!」
「ん?起きたのか?」
背中が温かい。
なんだか懐かしい気持ちになる。
「……父さん」
「ん?」
「あのまま放っておいてくれて良かったのに」
掠れた声で言う。
「ん、まあな」
「でも、やっぱり布団がいいだろう」
「父さんは枕が変わると眠れないんだ」
「……」
「……じゃあ、自分で行くから降ろせよ」
「んー?たまにはいいんじゃないか」
父さんは、はははと笑う。
「……もうそんな子供じゃねぇし」
「いくつになったって、お前は父さん達の
子供だ…辛い時は甘えればいいんだ」
父さんが珍しく真面目なことを言うから
なんだか照れ臭い。
「……腰痛めんぞ?」
「それはマズイな?母さんが泣くかもしれない」
「は?意味わからんし、てか降ろせよ!」
母さんが後ろから呆れた声を出す。
「二人とも、夜中に騒がないの!」
「ほら、母さんに怒られたじゃないか!」
「俺のせいかよ!」
「もうあなた達、いい加減にしなさい!」
結局母さんが一番うるさかった。
自室――
結局俺はそのまま父さんに背負われたまま
部屋のベッドに横になる。
父さんと母さんがこっちを見ながら小さく「おやすみ」と呟いた。
翌朝――
「……ん」
時刻は6時半。
珍しく目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
身体はまだ少し重い。
でも、胃の気持ち悪さは消えていた。
ベッドの上でぼんやり天井を見る。
ふと、昨日のことを思い出す。
分身のこと、桐生先生のこと、大地の言葉、
そして蒼乃――
無意識に顔を覆う。
「黒歴史とはこういうことか……」
枕に顔を埋めながら呻く。
その時――
コンコン。
「紫音ー?起きてるー?」
母さんの声。
「……起きてる」
母さんがドアを開けて、俺の顔を見る。
「……顔色、今日は良さそうね」
「着替えて、早く降りてらっしゃい」
「……わかってる」
ベッドから起き上がる。
制服へ袖を通す。
ボタンに手をやる。
昨日、分身がきっちり留めていた制服。
「……」
俺は、珍しく第二ボタンまで留めた。
「……何やってんだ俺」
首の後ろを掻きながら、小さく呟いた。
学校――
教室に入った瞬間、
妙に周りが騒がしかった。
「黒川くん、おはよう!」
「昨日ありがとー!」
「もっとクールだと思ってたー」
女子達が次々と話しかけてくる。
「……は?」
(これが、分身の代償……)
ショックで立ち止まる。
大地が真顔で近づいてきた。
「……紫音」
「なんだよっ!」
「おっ!いつもの紫音だ」
嬉しそうに大地が笑う。
「……っ」
……アイツと一緒にいるとすげぇ楽しいんだ
昨日の言葉を思い出して、言葉が詰まる。
「……は?別にいつも通りだし」
目線を逸らしながら軽口で返す。
「ははっ、そうだな」
佐藤と山田も寄ってくる。
「チャラ男、紫音〜」
佐藤がからかうように言う。
「誰がチャラ男だ!」
「いやいや、昨日のお前は変だった」
山田が言う。
「……」
苛立つ反面、胸がじわっと熱い。
「昨日の俺は忘れろ!」
大地、佐藤山田が顔を見合わせて笑った。
「そういえばさ」
思い出したように山田が言う。
「再来週さ、学年発表会じゃん?」
「お前昨日勧められるがまま、やるって言ってたけど大丈夫なのか?」
「……何をやるって?」
意味がわからず首を傾げる。
「え?お前トチ狂ってて忘れたのか?
でももう決定だろ?」
佐藤が言う。
「だからなんなんだよ?」
三人が顔を見合わせてから、俺を見る。
「お前、主役の白雪姫やるんだろ?」
「は?」
「し、白雪姫?俺が?」
三人が同時に頷く。
「はああああああああっ?」
俺の声が教室中に響く。
分身の代償は
吐き気以上に俺を苦しめるハメになった。




