哀しい笑顔
遠くから、グラウンドの掛け声が聞こえる。
蒼乃は膝を抱えたまま、
こっちを見て、小さく笑う。
「……変だよね、私」
「そんなことで落ち込むなんて」
「いや……」
俺は頭を掻きながら、蒼乃を見る。
「別に、変じゃないだろ……」
「……っ」
蒼乃が少し驚いたようにこっちを見た。
「気になる相手が、誰にでも優しいとか」
「……そういうの、嫌だよな」
「俺は……そんな器用なこと出来な……」」
そう言おうとして、口を押さえた。
(俺は何言ってんだ……)
そんな俺を見て
「お兄さん、優しいね……」
蒼乃がふわっと微笑んだ。
「……っ」
帽子を深く被る。
蒼乃がこちらをじっと見ている。
「……そんな見られたら穴あくから」
「ふふっ、照れ屋なんだ、お兄さん」
「……べ、別に」
「お兄さんの声ってさ……」
「……何か癒されるね」
蒼乃が小さく呟く。
「……ッ」
急に照れ臭くなり、俺は思わず立ち上がる。
「ごめん、そろそろ戻らないと……」
「あ、ごめんなさい、お仕事の邪魔して…」
蒼乃は申し訳なさそうに俯いている。
俺は
「じゃあ、アンタも頑張れよ…」
そう言って、俺は無理やり笑った。
「………」
(何か、悲しそうな笑顔)
蒼乃は、その背中を
しばらく黙って見つめていた――
校舎裏――
人気のない通路を、
俺は無言のまま歩いていた。
「……シルバー?」
ログチーが心配そうに顔を覗く。
「……なんだよ」
「元気ない」
「別に……普通」
「シルバー、やっぱりその格好だから決まらないとか?」
「昼間からコスプレするとか無理……」
「正装だってば!清掃だけに」
「………」
「全然笑えねー」
ログチーは、少しムッとして、
俺の服の中に入る。
「ん?」
モゾモゾと動くログチー。
「っオイ!やめろっ!ははっ」
「くすぐってぇから、あははっ」
ログチーがピョコっと顔を出す。
「シルバーがやっと笑った!」
「……っ!」
「……うるせぇ……」
「でも……」
「ありがとな、ログチー」
「シルバー、赤くなってる」
「なってねぇ!」
無意識に帽子を深く被る。
「あはははははっ」
「……帰るか」
そう呟いた時、目の前に人影が
「ちょっと、アナタね?」
「サボってばかりの派遣社員は?」
「は?」
教育指導の……桐生……?
思わず、後ずさる……
「え?いや、人違い、だろ?」
両手をブンブンと振る。
「問答無用!!」
耳を掴まれる。
「……痛い、痛いって!
「この青いピアスは、間違いない!」
(そんなの、偶然だろー!!)
「今日はしっかり掃除が終わるまでアンタ……」
「逃がさないからね?」
腕を掴まれ、引きづられるように
連れて行かれる。
「離せっ!人違いだ!」
「黙らっしゃい!」
桐生は俺の腕を強く掴んだまま、
ズンズン歩いていく。
「痛い!マジ痛いから!離せって!」
「ったく、最近の派遣は口の聞き方も
なってないわね」
「だから違うって!」
「俺は、高校生――」
そこまで言いかけて、ハッと口を押さえた。
(ヤベッ……)
桐生がジロリとこちらを見る。
「……高校生?」
「いや、その……」
「高校生みたいに若いって意味で……」
「…………」
怪しむような視線。
(終わった……)
するとログチーが、
服の中からボソッと呟く。
「シルバー、逃げる?」
「無理だろ……」
「この人めっちゃ握力強ぇ……」
腕がちぎれそうだ……
「ほら、さっさと来る!」
半ば引きずられるようにして、
俺は校舎裏の掃除用具置き場まで
連れて行かれた。
バケツ、モップ、ホース。
そして大量の落ち葉。
「はい、サッサとやる!」
モップを押し付けられる。
「……マジかよ」
「返事は?」
「……はぁ」
「返事!!」
「……はいっ!」
あまりの威圧感に押されて
思わず素直に返事してしまう。
「声が小さい!」
「はいっ!」
(なんで俺、怒られてんだよ……)
ガックリ肩を落としながら、
モップを手に取る。
すると桐生が、
ふと俺の顔を覗き込んだ。
「……でもアンタ」
「顔だけはやたら良いわね」
「は?」
「そのマスク取ったらモテそう…」
ゾワッ
背筋に悪寒が走る。
「シルバー、モテ期だ」
「なんでこうなるんだーーーー!!」
校舎中に俺の叫び声が響いた――




