抑制出来ない
「紫音、どうしたの?」
電話を切った後、
母さんが心配そうに声をかけてくる。
「別に。もう寝るから!おやすみ!」
母さんが首を傾げる。
父さんは腕を組みながら、
真剣な顔で頷く。
「なるほど……」
「え?あなた、何かわかったの?」
「紫音は今、思春期第二形態なんだ」
「……第二形態?」
「第一形態は反抗。第二形態は無言。
第三形態になると、急に母親に優しくなる」
背後から聞こえる意味不明な会話に、
俺は廊下で足を止める。
(……何言ってんだ、あの親父)
すると父さんがさらに続ける。
「気をつけろ!第三形態は突然来る……」
「言ってることが、よくわからないわ?」
「最終的には、ちょっと高い羊羹とか買って帰ってくるかもしれないぞ」
「羊羹?万年金欠の紫音が?」
ブチッ……
「……うるせぇぇぇ!!」
思わずリビングに向かって叫んだ。
父さんがボソッと呟く。
「まだまだ、多感な年頃だなぁ」
自室――
ベッドに横になるが、眠れない。
(クソッ何でこんなにイライラしてんだ俺……)
「……ログチー」
時計に向かって無意識に話しかける。
「……なあに?シルバー、もう眠いんだけどぉ」
(相変わらず呑気な奴……)
「……このままじゃ寝れねぇ」
「え?シルバー出勤?」
「は?別にシルバーは……」
言い終わる前に、既にシルバーに変わっている。
呆れたように額に手を当て、呟く。
「……お前な」
「えっ?違うの?」
「違わねぇけど、さ」
「んー?」
「いや、部屋覗かれて、いなかったら、
また面倒くさい気がして、さ……」
「シルバー、アレまだ使わないの?」
ログチーが首を傾げる。
「……アレ?なんのことだよ?」
「アレだよアレ!クロノスさんのだよ」
「……?」
ログチーが前にクロノスにもらった説明書を
見せてくる。
「……何だよ」
面倒くさそうに説明書に目を通す。
「……分身……分身!?」
「そう、それ!それってさぁ……」
「コピーを作れるってことじゃないの?」
「……マジ?」
ピアスに手を当てて、分身を思い浮かべる。
「……っ」
「……何の反応も……」
「……!?」
視線を下に向けると、
俺とそっくりの顔が、
何故か目の前で土下座をしている。
「……出てきてすみません」
「は?」
「……ブフッ」
「あははははははっ」
ログチーが腹を抱えて爆笑している。
思わず拳を握りしめながら
「笑うな!なんか癪に触る!」
「オイッ!お前も土下座してんじゃねーよ!」
俺の分身が、上目遣いで見てくる。
ゾワッ……
背筋に何とも言えない悪寒が走った。
「……はぁ……なんか腹立つ」
「シルバー、ため息つくと、幸せが逃げちゃうよ?」
「うっせぇ!黙れ!」
呼吸を少し整え、
分身に向かって、尋ねる。
「なあ、ちょっとの間だけ留守番頼めるか?」
コクコクと分身が頷く。
(なんか不安だけど、仕方ない、か)
「じゃあ、行くぞ?ログチー!」
「うぃー」
窓から俺は豪快に飛び出した――
屋根の上――
冷たい風が顔にあたるが何だか心地よい。
「さーて!軽く運動でもすっかぁ」
思わず笑みが漏れる。
「え?何か起きたんじゃないの?」
「毎回事件が起きてたまるか!」
屋根の上を軽く次へ次へと飛び越えて行く。
悩んでいたことは全く消えなかった。
けど――
身体を動かしたからか、少しスッキリして
朝までグッスリ眠れた。
翌日にあんなことが起きるなんて
その時の俺には予想出来なかった――




