ざわめく気持ち
散々叱られた後、
ようやく夕食にありつけた。
唐揚げは少し冷めていたけど
今まで食べた中で1番美味かった気がした。
「ごちそうさま」
そう言って、シンクに食器を運ぶ。
母さんはホッとしたように微笑んだ。
「……じろじろ見んなよっ」
照れ隠しをするように軽口を叩く。
「はいはい、さっさとその汚い身体洗ってきなさい!」
母さんがあしらう様に返す。
(……いつもの母さん、だな)
風呂に入って自室に戻る。
ベッドに横になると
今日一日あったことを思い出す――
蒼乃、空か……
運命とか、また会えたねとかなんか
嬉しそうに言ってきたと思ったら、
いきなり無視かよ……
何なんだよ一体!?
佐伯にしたって
あんな言いづらいことなんでわざわざ
俺に話したんだ?
アドバイスを求めていた……とか?
思うのは自由か……って、まあ自由だよな?
でも――
女はよくわかんねぇ……
左手を天井に向けて上げる。
目を細めながら、夕方に起きたことを
思い出す――
夕方の映像
目の前で燃えてたバイク。
子供が震えていた感触。
そして怪盗アルジェント――
考えるのをやめようとしても、
頭の中には、アルジェントの姿が
何故か消えない。
目を閉じる。
――黒川、紫音。
ハッとなり、ベッドから起きる。
「そうだ!なんで俺の名前知ってたんだ?」
面識なんてない。
俺がただ、覚えてないだけ、なのか?
「……全然わからん」
小さく呟きながら、枕に顔を埋める。
その時――
コンコン。
「紫音ー」
ドアの前から母さんの声。
「……何ー?」
眠そうな声で返事をする。
「大地くんから電話よー」
「……は?」
思わず布団から顔を出す。
(何故に家電?)
机の上の割れたスマホが目につく。
「あ」
「……忘れてた」
母さんが呆れたようにため息をつく。
「とりあえず早く出なさい。めちゃくちゃ心配してたわよ?」
(……大げさなんだよ、アイツ)
面倒そうに立ち上がり、階段を降りる。
リビングに入ると、
母さんが受話器を差し出してきた。
「ほら」
「……」
受話器を耳に当てる。
「……もしもし?」
『おい紫音!!』
電話口からデカい声が漏れる。
思わず耳を離す。
『お前、大丈夫なのかよ!?』
「……何が」
『何がじゃねーよ!ニュース見たぞ!』
(……は?)
『事故現場にいたんだろ!?』
「……いねぇよ」
(いたけど……)
『俺がお前を見間違えるわけないだろがっ!』
大地の怒った声が響く。
思わず受話器を少し離しながら、
俺は面倒くさそうに呟いた。
「……お前、声デカすぎ……」
『デカくもなるわ!!』
リビングの向こうで、
母さんが「ふふっ」と小さく笑っていた。
『まあ……無事で良かった』
「……まあ、な」
『あ、ところでさ?』
「ん?何だよ」
『さっき、おばさんは大地くんの味方だから!
BLもオッケーとか?とかなんとか言ってたけど
何か知ってるか?』
(……母さん、また余計なことを……)
思わず額に手をやる。
「……さあ?お前のファンなんじゃね?」
「てか、もう切るぞ?」
『……ちょ、ちょっと待てよっ』
『肝心なこと言ってなかった!』
「肝心なこと?」
『今日来た転校生いるじゃん?
えーっと名前何だっけ?』
「……蒼乃だろ?」
『そそっ!珍しいなお前名前すぐ忘れんのに』
「……別に、普通だろ?」
「そんで、その、蒼乃がどうしたんだよ?」
『なんかさ、バスケ好きみたいでさ』
『わざわざキャプテンの俺にバスケ部の場所聞いてきたりさー』
『もしかして俺に惚れちゃったとかー?』
「……」
大地の声が何だか遠く感じる。
『紫音、聞いてんのか?』
「もう寝るから切るぞ?」
『おいっ、ちょっ』
何だかよくわかんねぇけど
ふと朝の公園での出来事を思い出し、
胸の奥がチクっと傷んだ――




