私の名は――
静寂――
全てのバスケ部員が目を奪われた。
「……すげぇ」
大地が目を見開きながら、ポツリと呟く。
「……えっ?ま、まぐれだよっ」
空は戸惑いながら手を横に振る。
「……んー、なんつーか、綺麗なフォームだった」
そして少し照れくさそうに
「俺の親友みたいに」
(……それって……)
大地に声をかけようとしたと同時に
後ろから部員が声をかけてきた。
「……キャプテン、ちょっと見てもらっていいですか?」
「あ、ああ、今行く」
大地は申し訳なさげに
「……あ、ごめん、蒼乃、気が済むまで見てってくれよな」
そう言って立ち去る。
空は軽く頷いた後、
さっきの余韻に浸るかのように
ゴールポストを見つめていた――
紫音side ――
ふと気がつくと
身体が浮いて…………はなかった。
横断歩道にいたハズなのに……?
ここは一体どこなんだ?
真っ白な世界。
周りを少し見渡した後、ふと後ろに
気配を感じた。
振り返るとそこには
一人の男が立っていた――
白いジャケット。
黒いインナー。
黒いパンツに、白いマント。
「……えっ?」
鏡かと思い、思わず自分の姿を見る。
特に変わった様子はない。
いつも騒ぎ出すログチーも何も言わない。
(何かがおかしい?)
てか、俺と目の前にいる男だけがいる世界――
みたいな……
男の顔はよく見えないが、
どこかで見たような気もする……
男がこちらを見ている。
思わず俺は男に尋ねた。
「……俺は死んだ……のか?」
(特にどこも痛くないけど……)
男は答えない。
「……てか、お前、誰なんだ?」
男の口角がゆっくり上がる。
「……銀の怪盗」
「は?」
わけがわからず呆然とする。
男は続けて言う。
「私は、銀の怪盗アルジェントだ……」
「……アルジェント……って」
聞いたことがあるような………?
数秒考えて――
「……アルジェントって、まさか――」
「誰だっけ?」
男がガクッとよろける。
「私は世間を騒がす伝説の怪盗アルジェント……」
「……いや、名前アピールはもういいって。よく知らねぇし」
(なんか面倒くさいな、このおっさん)
「………」
静かな空間に無言の時間が流れる。
「ゴホン、ゴホン」
アルジェントが咳払いをする。
思わず口を押さえながら言う。
「……風邪かよ…治ったばかりだし、うつさないでくれよな?」
「少年……」
アルジェントは少し戸惑っている。
俺は耳をほじりながら尋ねる。
「……ん、てか、おっさんさー」
「何者なんだよ?」
怪訝な顔で尋ねてみた。
「…………」
一瞬黙った後、
アルジェントは再度咳払いをしてから言った。
「……お前は生きてる……」
「助けるのは今回だけだからな……?」
「同じく、銀の怪盗…………いや」
「……黒川、紫音――」
「…… えっ?」
(今、なんて……言った?)
アルジェントが、フッと微笑んだかと思うと
目の前が急に暗くなった――
目を開けると
目の前には、燃えたバイク。
何故か乗っていた人間は見当たらない。
そして
俺は横断歩道の外側で、子供を抱きしめていた。
「……生きてる」
思わず手を見る。
腕の中で震えていた男の子が、
目にいっぱい涙を溜めながら小さく呟いた。
「……お兄ちゃん、ありがとう」
俺は無意識に男の子の頭をそっと撫でながら
「……気をつけて帰るんだぞ?」
まるで、自分に言い聞かせるように呟いた。
その後――
「……昌樹ー!!」
母親と思われる女性が駆け寄ってくる。
母親は泣きながら、俺に向かって
「ありがとうございます」と何度も何度も
繰り返した。
事故から数分ほどで、警察や救急車が来たが
俺はその場を早々に立ち去っていた。
あの時の映像。
何故助かったのかもわからない。
怪盗アルジェント、か
俺と同じ銀の怪盗――
冷たい風が顔にあたる。
「……ヘクシッ」
(あの野郎、やっぱりうつしやがったな)
鼻を啜りながら、帰路につく。
色々あったからか
俺はすっかり忘れていた――
壊れたスマホのことを。
その時の俺は、
家に帰って、両親からこっぴどく叱られる
映像は全く見えていなかった。




