夢と現実は曖昧なもの
「……」
額に滲んだ汗を手で拭う。
まだ心臓がバクバクしている。
呼吸を整えながら、
ぼんやりと天井を見つめる。
胸の奥が妙にざわついていた。
コンコン。
「紫音ー? もうお昼だけど、起きてる?」
母さんの声が響く。
「……起きてる」
掠れた声で返事をする。
ベッドから出ようとした瞬間――
ズキッ
「……っ」
頭に鋭い痛みが走った。
「……紫音?」
様子がおかしいと思ったのか、母さんが
部屋のドアを開ける。
「紫音っ!!」
慌ててかけよってくる。
心配そうに母さんは俺の額に手をやる。
「……っ!?すごい熱!!」
「ちょっと氷枕持ってくるから、そのまま寝てなさい!」
ベッドに横たわりながら、また目を閉じる。
その後――
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
頭の氷枕がひんやりと心地よい。
ゆっくり目を開けると、目の前に
じいちゃんが座っていた。
「……また、夢……?」
「紫音、珍しいの、風邪か?」
飄々と揶揄うような話し方。
「……じいちゃん!!」
思わず飛び起きる。
なぜかわからないけど、目に涙が滲んだ。
「……なんじゃ?泣いとるんか?珍しいの」
「……泣いてない!!」
手で涙を拭う。
「……紫音」
「……ん?何?泣いてねぇから!」
「ほっほっ……身体がしんどいんじゃろ?」
「……まあ」
じいちゃんはそう言って袖から何かを取り出す。
「ほれ、これ飲め!」
「……何だよ、これ?」
小さな瓶に、丸くて黒い――
「……鼻くそ……?」
じいちゃんは一瞬よろける。
「いいから飲め!ほれ、水じゃ!」
手に取ったそれを見つめる。
思いきって、口に放り込んだ。
「……ゴクッ」
「どうじゃ?」
「……ゴホッ、これめちゃくちゃ臭ぇんだけど」
「……良薬、鼻に臭しじゃ!」
飲んでた水を一瞬吹きそうになりながら
「それを言うなら良薬口に苦しだろ!」
「ほっほっ……まあそうとも言うな」
「そうとしか言わねぇから!」
「あまり興奮すると、身体に触るぞ?」
じいちゃんが俺の頭を優しく撫でる。
「……もう、ガキじゃねぇんだから」
思わず悪態をついてしまう。
じいちゃんは俺を見つめながら
「お前は、じいちゃんの宝じゃよ」
じいちゃんは触れた手を離し
「ゆっくり休め」
そう言って部屋を出ていく。
入れ替わりに母さんが入ってくる。
「紫音、お腹空いたでしょ?」
母さんがお粥を持ってくる。
「あ、ああ……」
「あら?」
母さんが俺の額に手を当てる。
「……熱、下がってそうね」
(確かに、身体がなんか軽い)
「お母さん買い物行くけど、何か、欲しいものとかある?」
「いや……特に……」
「あ……じゃあさ、母さんひとつ頼める?」
「……?まあついでだし、いいわよ」
夜になり、ダイニングに降りる。
母さんが振り返る。
「紫音……アナタ昨日……」
「……ん?」
母さんを見ると、鬼の形相で俺を睨んでいる。
「ホテルで危ない目に合ったみたいね?」
「……そっ、それは……」
母さんから、俺の無くした黒いリュックを
投げつけられる。
(やべーっ!めっちゃ怒ってる!)
「ちょ、ちょっと落ちつけってー!」
「これが落ちついていられますかっ!こんのバカ息子ーー!」
「病気の息子を労わってくれよー!!」
「そんなの自業自得でしょうが!」
母さんの怒りは中々とどまることもなく、
一方的な親子喧嘩はしばらく続いた。
土曜日に引き続き、日曜日も、何かと騒がしい日だった。




