温もりと、身体の熱
慌ただしい1日だった。
ようやく自宅付近に戻れた俺は、いつもの公園で
周りに誰もいないことを確認してから
revertと呟いた。
「……ヘクシッ」
(……さっさと帰ろう)
―自宅前
時刻は23:00
「……ヘクシッ」
鼻をすする。
「……母さん、怒ってるよな……」
(連絡してないし……)
少し肩を少し落としながら、玄関を開ける。
「ただいま……」
小さく呟く。
玄関の電気がパッとつく。
「おかえり、紫音。遅かったわね」
母さんの少し心配そうな安心した声。
視線を少し逸らしながら呟く。
「……ごめん……連絡出来なくて……」
母さんは、俺の顔を見ながらふっと微笑む。
「そういうこともあるでしょ」
「……あら?」
「……えっ……何?」
母が俺の体をじっと見る。
「紫音、あなた上着は? 外、寒かったでしょ」
「……へっ?」
(しまった……完全に忘れてた)
「……あ、えーっと……大地に貸した……
あいつ、どうしても貸して欲しいって言ってきてさ」
「……大地くんが? あなたの上着を?」
「……あ、うん、
なんか匂い嗅ぎたいらしくて……」
(何言ってんだ、俺……)
一瞬の沈黙。
母の顔が、見る見る引きつっていく。
「あの……大地くんが?」
「あ、ああ……」
「……3週間は洗濯してない、あの上着を?」
「……ま、まあ」
(……そういや、毎日アレ着てたな……)
「……意外な趣味ね、大地くん……」
「……まあ、あいつも色々あんだよ」
(ごめん大地……しばらく家には呼べねぇ)
母さんが少し呆れ気味に言った。
「……もう、とりあえず、アンタ何か汗臭いし、
先にお風呂入って来なさい!ご飯温めとくから!」
思わず、自分の服の匂いを嗅ぐ。
(たしかに……)
母がバタバタとダイニングに戻って行く。
「……ヘクシッ……風呂、入るか……」
―浴室内
身体をシャワーで、軽く流し、湯船に浸かる。
「……はああ……」
気持ち良すぎて、変な声が出る。
湯船の温かさに包まれ、身体の痛みが和らいでいく。
「……風呂はいいなぁ……」
ふと、無意識に呟く。
湯船から出て、顔を洗う。
「……いてっ」
頬の傷がチクッと痛む。
湯気で曇った鏡に自分を映しながら、頬を触る。
昼間の出来事が頭を遮る。
甘い佐伯の香り。
「……クソッ」
(消えろ、雑念……)
頭にシャワーをかけながら、少し乱暴に頭を洗う。
タオルにボディソープを含ませ、身体を洗った。
再度湯船に浸かる。
ふと、シルバーになっていた自分を思い出す。
「……アイツは、俺、なんだよな……」
なんとなく、自分じゃないような、そんな感覚が
芽生えていた。
―自室
夕飯を食べて自室に戻る。
「……はぁ」
ホッとしたのか、ため息が出る。
そのままベッドに倒れ込むと、
シーツの冷たさが、温まった身体に響く。
「……ヘクシュッ」
鼻の奥がツンとする。
(……身体がだるい……)
(……めまいが……する……)
緊張感が解けたのか、身体が言うことをきかない。
瞼の裏で、シルバーの残像と佐伯の香りが
混ざり合って、何だか変な気分になる。
目を閉じると、そのままゆっくりと
意識が落ちていった―
気がつくと、どこか懐かしい匂いがした。
「……じいちゃん?」
目の前に、いるはずのない背中がある。
「身体は、もう大丈夫か?」
振り返ったじいちゃんは、いつものように
穏やかに微笑んでいる。
まるで何もかも知っているかのように。
「じいちゃん、何か知ってるんだろ?」
「なあ?」
「何とか言えよ。じいちゃん……!」
手を伸ばすが、指先は空を斬る。
玄斎は何も答えない。
陽炎のように揺らぎながら、
ゆっくりと、ゆっくりと、俺から離れて行く―
「じいちゃん!!」
自分の叫び声で、飛び起きる。
カーテンの隙間から、明るい日差しが目に
飛び込んでくる。
「…………夢……?」
「……嫌な感じだ……」
背中に汗が滲む。
熱を帯びた身体が見せた夢なのかもしれない。
荒い呼吸だけが、静かな部屋に響いていた。




