命懸け?の侵入
「……あっ、そろそろ行かないと」
佐伯が少し気まずそうに言う。
「……じゃあ駅まで送る」
駅に向かう間、
俺たちはほぼ会話をしなかった。
駅前―
「……それじゃあ……」
佐伯が軽く手を振る。
「……ああ、またな」
手を振り返しながら
それだけ言って別れる。
俺は小さく息を吐いた。
「……」
佐伯の姿が見えなくなった時、
時計から、待ってたかとばかりに
ログチーが話しかけてくる。
「……シルバー、行くの?」
「……行くしか、ないだろ……」
スマホを出す。
検索欄に
ガールズバーLUNAと入れた。
「……3つ先の駅か」
「行くぞ!ログチー」
勢いよく歩き出した瞬間―
「……あっ」
「あーーーーー!」
周りがこっちを一斉に見る。
ハッと我に返り
慌てて帽子を深く被る。
「シルバー、どうしたの?」
「……財布」
「えっ?」
「……財布がない!」
数秒の沈黙。
「……リュックの中だ……」
「バカじゃん!!」
ログチーはクスクスと笑う。
「うっせぇ!!仕方ねーだろ!」
思わず声が大きくなる。
通行人がチラッとこちらを見る。
「……っ」
慌ててその場を足早に去る。
「……どうすんの?」
「……歩く」
「3駅だよ!?」
「うるせぇ!」
呆れた声でログチーが呟く。
「こういう時こそ、シルバーでしょ!」
「……っ!?」
「今はやめろ!とりあえず人のいないところに……」
駅から出て、再度さっきの公園に向かった。
公園―
周りに人がいないことを確認し、
シルバーへと変わる。
「……ヘクシッ」
鼻水が垂れてくる。
ログチーが肩から顔を覗きこみながら
「……シルバー顔悪いよ?」
鼻をかみながら返す。
「……それを言うなら顔色だろ!」
ゴミ箱にティッシュを捨てる。
「……じゃあ、行くとするか」
「うぃ!」
地面を蹴って、建物の上に上がる。
銀の怪盗は、身体の痛みを忘れたかのように
建物から建物へ軽快に飛び移る。
まるで、夜の闇に溶け込むように。
目的地は――LUNA。
―ガールズバーLUNA
雑居ビルの屋上。
ビルはネオンがギラギラ光っている。
高校生が来る場所じゃない。
「……さて、どうするか」
白いマントが夜風に揺れる。
「……こういう場合は非常口、とか?」
「シルバー、危ないけど、窓から行くほうが見つからないんじゃないかな?」
「……窓からって、簡単に言うなよ」
「この高さから落ちたら……」
ビルの下を眺める。
道路を走る車が小さく見える。
「……っ」
七階か……
落ちたら、
さすがに笑えない。
てか、下手したら死ぬ。
背中に嫌な汗が流れる。
「……はぁ」
前を向く。
「……やるしか、ねぇか」
(下さえ、見なきゃいい)
ログチーが横から言う。
「シルバー、腰のチェーンワイヤーを使えばいいよ」
「……腰のチェーン?」
(そういえば、中川の時に無意識に使ったような)
言われるがまま、腰のチェーンを試しに投げてみる。
意志を持つかのように、思った場所に動く。
「……これ、使えんじゃん!てか、早く言え」
「だって聞かれなかったし?」
キョトンとしながらログチーは言う。
「……お前なー」
少しイライラしながら返す。
「シルバー、四の五の言わないで早く!」
「……クッ」
文句を言いたいのを我慢しながら
チェーンの端を屋上の柵に括り付ける。
強く手で握りながら、LUNAのある三階へ向かう。
下を見ないよう、慎重に降りていく。
風が顔に当たる。
「……ヘクシッ」
(身体、持ってくれよ)
俺はそう祈りながら、全神経を集中させた。




