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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
放っておけない

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35/65

甘い匂いと、緊張と

「……ガキが!舐めてんじゃねーぞ!」


男がいきなり殴りかかってくる。


ヒョイと避けて、男は近くにあった椅子にぶつかる。


顔を打ったのか、鼻血が出ている。


「……プッ……鈍臭ぇ」


男のみっともない姿に思わず笑う。


男は興奮気味に俺を睨む。


「ガキのくせに、俺の麗奈ちゃんを……」


「……いい大人がキモいんだって!」


呆れたように返す。


「……馬鹿にしやがって!」


男はテーブルに合った花瓶を俺に向かって

振り落としてくる。


間一髪で避けるも、顔にガラス片が滲む。


「……くっ」


(こいつ、やべー奴じゃん)


「……ガキが!」 


ホテルの人が騒ぎに気づき、

周りに人が集まってくる。


(これ以上はやばいな…)


男がにじり寄ってきた瞬間―


俺は持っていたリュックを男の顔に

向かって思い切り投げつけた。


(今だ!)


その隙にホテルから出て、思いっきり走った。





「はぁ…はぁ…」


路地裏で息を整える。


そっと周りの様子を伺う。


(追っては来てないな……)


帽子で顔を隠しながら

路地裏から出て、駅前に向かって歩く。


「お巡りさん、こっちです」


(ん?)


「佐伯?」


佐伯がこちらを見る。


「―黒川くんっ!?」


佐伯が慌てて駆け寄ってくる。


「……良かった、無事だったんだな」


安心して、力なく笑う。


「……黒川くんこそ……あっ!」


「……ん?」


佐伯と目が合う。


「顔、血出てる!」


「……あー、これ?」


指で顔に触れる。


ガラスで切った頬が少しヒリっとした。


「……いてっ」


「……ごめん、ごめんね……」


泣きそうな顔で、俺を見つめる。


何だか気まずくて、思わず視線を逸らす。


佐伯はバッグからハンカチを取り出し

俺の頬にそっと触れた。


「……ちょ、痛いって」


(……近い……)


「動かないで」


ひんやりした感触。


ふわっと甘い匂いがした。


「……」


お互い何となく無言になる。


さっきまで殴り合い寸前だったのに、

今は女子に顔を拭かれてる。


意味がわからん。



すっかり存在を無視されていた

警察官がコホンと咳払いをする。


「あー……とりあえず事情だけ聞いても?」


「あ、はい!」


佐伯が慌てて離れる。


どこか名残惜しそうに

ハンカチをぎゅっと握りしめていた。





数分後。


事情説明も終わり、

俺たちは駅前のベンチに座っていた。


「……今日はありがと」


佐伯が小さく頭を下げる。


「別に…」


「……でも、助けてくれた!」


「……そんな大したことしてねぇし」


視線を横に逸らす。


「ふふっ」


佐伯が笑う。


「黒川くんって、優しいよね」


「は?」


「……別に、普通だろ」


「普通なら、あんな風に助けたりしないから」


「……」


言葉に詰まる。


「……アイツが何か不快だっただけだし」


「素直じゃないよね?」


佐伯はクスクスと笑う。


(なんか調子狂うな……)


「……つーか、お前」


「……?」


「なんであんな奴といたんだよ」


佐伯の表情が少し曇る。


「……あの人は……その……」


目線を逸らしながら言いづらそうにしている。


「……あのさ……」


「……う、うん?」


佐伯が、視線をこちらに向ける。


「……言いたくないなら、無理に言わなくていい」


「……えっ?」


「……事情はわかんねぇけど、アイツに弱み握られてるとか、そんな感じなんだろ?」


「……っ!?」


佐伯は静かにうなづいた。

手が少し震えているように見えた。


佐伯がポツリと呟く。


「……写真」


「……写真?」


「……言うこと聞かないと、私の写真をネットでばら撒くって……」


身体を少し震わせながら、小さい声で呟く。


「……」


何て言えばいいのかわからず、俺は黙っていた。


駅前の雑踏が妙に響いて聞こえた。




その時―


またポケットの中のカードが熱を帯びた気がした。


「……っ!?」


佐伯に見られないよう、そっとカードを見る。


黒いカードが一瞬、淡く光る。


そして―


また文字が浮かび上がる。


対象:佐伯麗奈 

ガールズバーLUNA


「……は?」


思わず声が漏れる。


「……どうしたの?」


佐伯が不思議そうにこちらを覗き込む。


「……いや、なんでもねぇ」


慌ててカードをポケットに押し込む。


(ガールズバー……?)


高校生の佐伯と、

どう考えても結びつかない。


「……黒川くん?」


「……佐伯、お前さ」


言うべきか少し迷ってから

思い切って尋ねる。


「今さ、何かバイトしてる……のか?」


「……え?」


佐伯が少し目を見開いて、さっと逸らす。


「え、えっと……まあ……」


「……今日も、行くとか……?」


「……あ、うん」


「そのバイトは、ちなみにどこで?」


「……えっと、その……」


佐伯の表情が一瞬、強張る。


(……この反応)


「……言いたくないならいい」


「……ご、ごめん」


(絶対なんかある)


背筋にじんわりと嫌な汗が滲む。

夜風がやけに冷たく感じた。

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