友情、それから―
夕方。帰り道。
外に出ると、冷たい空気が頬に触れる。
思わず肩をすくめる。
「……さむっ」
紫音が呟く。
(……こんな寒かったか)
吐く息が、白く揺れる。
その横で、大地が腕をさする。
「マジで冷えるな……」
少し歩いたところで、
紫音が足を止める。
「……腹減った」
ちらっと二人を見る。
「なんか食わねー?」
「いいな!」
大地が即答する。
「寒いし、こんな時は肉まんだよなー」
「だな!」
静かに微笑む柚希。
———
コンビニ。
自動ドアが開く。
暖かい空気が流れ出る。
「うわ、あったけ……」
大地が小さく呟く。
レジ横のケース。
肉まんが並んでいる。
「肉まん三つ」
紫音が言う。
店員が袋に入れる。
「ありがとうございましたー!」
会計を済ませる。
———
コンビニを出た後。
横で大地が渋い顔をする。
「……マジで俺かよ」
「安いもんだろ?」
「……っ」
柚希が少し慌てたように口を開く。
「や、やっぱり私も出す……」
紫音が軽く息を吐く。
「いいって」
柚希が顔を上げる。
「そのために誘ったんじゃないし……」
一瞬、空気が止まる。
大地が小さく息を吐く。
「……俺が奢りたいんだってば!」
少し照れくさそうに視線を逸らす。
「遠慮なく奢られてくれ」
紫音が軽く言う。
「お前が言うな!」
大地が横目で紫音を睨む。
柚希が一瞬、きょとんとする。
「……え?」
「……あー、その……」
言葉がうまく続かない。
紫音が小さく笑う。
柚希が、ふっと表情を緩める。
「……ありがとう」
小さく言う。
大地が視線を逸らし、少し照れながら言う。
「だから、遠慮すんなって」
紫音がボソッと呟く。
「金欠のくせに」
「うるせぇ!」
柚希が、くすっと笑う。
「……ふふっ」
———
三人で並んで歩く。
冷たい空気の中、
手の中だけが、少し温かい。
少し歩いたところで、
柚希が立ち止まる。
「……あの、私、こっちだから」
指さす先。
住宅街の方。
「あ、そっか」
大地が少し慌てる。
「……今日は誘ってくれてありがとう……」
柚希が小さく頭を下げる。
「うん」
紫音が軽く返す。
「……また明日」
柚希がそう言って、歩き出す。
少し離れてから、
一度だけ振り返る。
小さく手を振る。
大地が慌てて振り返す。
「お、おう!」
そのまま柚希の姿が見えなくなる。
———
少しだけ静かな空気。
二人で並んで歩く。
大地が、そわそわと落ち着かない。
「……紫音、」
「ん?」
「……そのさ」
言いかけて、止まる。
視線が泳ぐ。
その様子を見て、
紫音が小さく息を吐く。
「今日、部活サボっただろ?」
「キャプテンのくせに……」
冷やかすように言う。
「……っ!?」
大地が一瞬固まる。
「サボってねぇよ!たまたま休みだっつーの!」
顔が少し赤い。
紫音が小さく笑う。
「へー、昨日も休みだったのにな?」
「……っ!?」
大地が言葉に詰まる。
一瞬、視線が泳ぐ。
「……っ、うるせぇ!」
少し間。
「……紫音、」
「ん?」
次の瞬間――
勢いよく抱きついてくる。
「うわっ!」
紫音が思わずよろける。
「今日はありがとうな!」
ぎゅっと力がこもる。
「……っ」
呆れたように息を吐く。
「やめろ、わかったから。離れろって。暑苦しいんだよ」
しばらくして満足したのか、
ようやく大地が離れる。
大地が少しだけ息を吐く。
「……白石……、やっぱ可愛いよな」
紫音が呆れたように見る。
「大地、お前めっちゃ白石のこと好きじゃん?」
「ははっ」
誤魔化すように笑う。
でも、否定はしない。
その瞬間。
大地がガシッと紫音の肩を掴む。
「てか、紫音!」
顔をぐっと近づけてくる。
「いつの間に白石と仲良くなってたんだよ!」
「は?」
「たまたまだろ」
呆れながら呟く。
大地が肩を落とす。
「……はぁ……俺も購買行けばよかった……」
「お前、声もかけれねーのに?」
図星。
大地が一瞬固まる。
顔が一気に赤くなる。
「うるせぇ!」
「……でも、ありがとな」
さっきより少しだけ、落ち着いた声。
「ああ」
軽く返す。
「てか、きっかけ作ったんだから、頑張れよな」
ぽん、と肩を叩く。
「……っ」
大地が少しだけ目を見開く。
「……おう」
小さくうなずく。
———
夜。自宅。
夕食を済ませて、風呂に入る。
肩まで湯に浸かる。
じんわりと体が温まる。
ふと、腕を動かす。
チャプン。
水音。
「……ん?」
視線を落とす。
腕時計。
湯の中に沈んでいる。
「……あ」
一瞬、止まる。
すぐに引き上げる。
「……やべ」
軽く振って水を払う。
「外すの忘れてた……」
少しだけ眉をひそめる。
じっと時計を見る。
「……大丈夫か?」
針は普通に動いている。
(……防水か、これ)
「……ま、いっか」
気にせず、もう一度湯に浸かる。
目を閉じる。
ふと、大地の顔が浮かぶ。
「……あいつ、ほんと分かりやすいな」
自然と、口元が緩む。
———
夜。自室。
風呂から上がり、部屋に戻る。
ベッドに腰を下ろす。
ふと、腕時計を見る。
「……」
腕から、外して軽く振ってみる。
針は、普通に動いている。
「……大丈夫か」
腕につけて、
そのままベッドに倒れ込む。
コンコン。ノック音。
「紫音」
じいちゃんの声。
「みかん、食うかの」
ドアが開く。
「もう寝るからいらねーよ!」
「まあまあ」
勝手に入ってくる。
手には、みかん。
「甘いみかんじゃがのー」
「いや、だから――」
皮をむきながら、普通に座る。
「ここで食うなよ!」
「はっは」
笑いながら、みかんを口に運ぶ。
その時。
じいちゃんの視線が、ふと止まる。
紫音の腕。腕時計。
一瞬。
ほんのわずかに、目が細くなる。
「……」
紫音が気づく。
「……あ、この時計さ」
軽く腕を上げる。
「じいちゃんがくれたやつだったよな?」
「……ああ、そうじゃったかな」
紫音が続ける。
「さっき風呂入った時さ、外すの忘れてて」
軽く笑う。
「これ、防水?」
一瞬。
ほんのわずかに、空気が止まる。
「……どうじゃろうな」
じいちゃんが、少しだけ視線を逸らす。
「……ん?」
紫音が眉をひそめる。
「どうした?」
「いや」
何事もなかったように、みかんを口に運ぶ。
「そういえば、紫音」
「最近、身体の不調はないかの?」
「は?」
少し眉をひそめる。
「別に、何もねぇけど」
じいちゃんが、じっと見る。
少しだけ長い視線。
紫音が視線を逸らす。
「……」
「じいちゃんこそ、寒いし縁側とかにいすぎだろ」
「風邪ひくぞ」
「はっは」
軽く笑う。
立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ寝るかのー」
「肌も荒れるしのー」
「てか、乙女かよ!」
「はっは」
ドアへ向かう。
「おやすみ、紫音」
「おう、おやすみ」
ドアが閉まる。
少しだけ静かになる。
ベッドの脇にみかんの皮。
「……たくっ……捨ててけよ。」
小さく呟きながら、拾ってゴミ箱に捨てる。
ベッドに腰を下ろす。
軽く肩を回す。
「……ねむ」
小さく呟く。
そのまま、ベッドに倒れ込む。
枕に顔を埋める。
そのまま、目を閉じる。
意識が、ゆっくりと沈んでいき、そのまま眠りに落ちた。
———
深夜。
ふと、目が覚める。
「……」
静かすぎる。
妙に、音がない。
ゆっくりと腕を上げる。
腕時計を見る。
秒針が――
逆に動いている。
「……は?」
眉をひそめる。
カチ、カチ、と。
時間が戻るみたいに。
「……なんだよ、これ……」
コツ……
音。廊下。
誰かが歩いている。
「……じいちゃん?」
小さく呟く。
でも、どこかおかしい。
現実感が、薄い。
夢の中みたいに。
コツ、コツ……
ゆっくり、近づいてくる。
止まる。ドアの前で。
「……」
息をひそめる。
カチャ……
ドアノブが、わずかに動く。
「……っ」
ゆっくりと、開く。
暗闇の向こう。
白い影。
その手首に――
銀の光。
「……」
思考が追いつかない。
「……夢、か……?」
そのまま、意識が、ふっと途切れた。
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