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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
日常のズレと違和感

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2/89

偶然か、必然か

翌朝――

 スマホが耳元で鳴っている。

 ぼんやりと手を伸ばし、音を止める。


「ん……今、何時……」

 画面を見る。

 7時30分――


 一瞬、固まり、慌ててベッドから起き上がる。制服に袖を通し、部屋を飛び出した。

 階段を駆け下りて洗面所へ向かい、顔をさっと洗う。寝ぐせを軽く整え、リビングへ向かった。


「母さん!なんで起こしてくれなかったのさ!」

「何言ってんの!お母さん、何度も起こしたんだから!」

 母さんが呆れ顔で言ってくる。

「え……?」

「最低三回は起こしたわよ?」

「……マジか」

(起こされた記憶が全くない……。そんなに熟睡してたっけ?)


 棚の上の腕時計に目が止まる。

「……つけていくか」

 腕につける。カチッ。

「おっ!ピッタリじゃん!」


「紫音ー!遅れるわよ!」

「やべっ」

 食パンをくわえ、カバンを掴む。カバンは半分開いたまま、靴を履いた。


「行ってきまーす!」

「ボタン、ちゃんと止めなさいよー」

「へーい」

 軽く返事をしてから外に飛び出した。


◇◇◇


教室――

 息を切らし、何とか席に滑り込む。

「……セーフ!!」

「ギリギリかよ!」

 後ろから大地の声。

「朝は弱ぇんだよ……」

 そう言って机に突っ伏す。

 無意識に腕時計を見る。妙に秒針の音が耳に入る。カチッカチッ……と。


「ねむ……」 

 なんか妙に眠い……。

 耐えきれずそのまま目を閉じる。担任の声が耳元で聞こえた気がしたけど、意識はすぐに沈んでいった。


◇◇◇


 チャイムが鳴り、大地に肩を揺すられる。

「いい加減に起きろ!昼休みだぞ?」

「……ん」

 寝ぼけたまま、顔を上げる。

「もう授業終わったのか?」


 佐藤信樹《さとうのぶき》、通称ノブ。

 ノブが笑いながらからかってくる。

「担任が耳元で怒ってても起きなかったからな」

 坊主頭で声がデカい、いつものノリだ。


 山田直之《やまだなおゆき》、通称ナオ。

 ナオが呆れたように言う。

「お前ほんとすげぇわ、大物だわー!あんまりにも起きねーからクラス中、爆笑だったぜ?」

 ナオは相変わらず冷静。ロン毛に眼鏡。

 こういう時だけオカンみたいに口うるさい。


「うるせぇな、疲れてんだよ色々」 

「色々ってなんだよ、女関係か?」

 ノブが揶揄《からか》う。

「なんでそうなんだよ!」

 大地がまあまあと言いながら俺の肩を叩く。

「てか、飯食おうぜ」

「あ、ああ……」


 少しムッとしながらカバンを探る。

「……ん?」

「アレ?」

「紫音、まさか弁当忘れたのか?」

「……みたいだな」

 思わずため息をつく。


「珍しいじゃん」

 大地がニヤっとする。


「紫音が弁当忘れるとか珍しー!」

 ノブがからかう。

「うるせぇよ」

 軽く返す。


「購買行ってくるわ。先食ってて」

 大地が手をひらひらさせる。

「おう、頑張ってこい」


 ノブが笑う。

「購買部は戦場だぞ」

「マジかよ」

 そう言って教室を出た。


購買部——

 そこは、人で溢れていた。


「ちょ、押すなって……」

 人の隙間を縫って進みながら、手を伸ばす。

 コロッケパンを掴む。

 そのまま抜けようとした時、ほんの一瞬だけ人の動きが止まって見えた。

 思わず目を擦る。


「……なんだ、今の」

「気のせいか? やっぱなんか疲れてんのかな俺」

 目線を横に向けると、少し離れたところに、一人の女子。押されて前に出れないみたいだ。

(何か鈍臭そうな女子だな……あれじゃ絶対買えねぇじゃん)

「……」

(前のやつに話しかけてるみたいだけど、気づかれてねぇな、あれ)

「ったく、面倒くせぇな」


 もう一度俺は人の中へ潜り込み、メロンパンを掴む。カウンターに向けて話す。


「おばちゃん、二つ」

「はいよー!」

 パンを受け取る。

(……パン一個じゃ足りねぇけど、まあ金欠だし仕方ねーか)


女子の前へ。

「ほら」

「……え? なんで?」

 目を丸くしてこちらを見ている。

 挿絵(By みてみん)

「いや、メロンパンめっちゃ見てただろ?」

「……!」

 顔がみるみる赤くなる。


「あ、ありがと……」

 小さな声で彼女は呟く。

「別に。ただのついでだし」

 手を振り、そのまま去る。

 その女の子はパンを見つめる。


「あっ、お金」

「どうしよ……」

 小さく呟く。

 彼女はそっとメロンパンを両手で包み込んだ。


◇◇◇


放課後――

 大地が机に突っ伏している。

「……どうすっかな」

 シャーペンを回しては止める。また回しては止め、視線を落としている。


(何やってんだ、あいつ)

「声かけるか」

立ち上がった、その時――


「黒川くん」と、小さな声。

 声のするほうへ視線を向けると、少し緊張した様子で昼間の女子が立っていた。


「……あの、昼間のパンのお金、返したくて」


 その声に反応して、大地が顔を上げる。

 目に入った瞬間――


「し、白石……っ」

 大地の声がわずかに裏返った。


 一瞬、空気が止まる。


「……ん?」

 俺はその名前を頭の記憶から探した。

(白石……って、たしか)

 大地の顔を見ると、明らかに動揺している。視線が泳ぎ、落ち着きがない。 


「あー!」

 小さく納得する。

(なるほどな)


 白石に、言葉を返す。

「そんなの、いいって!ついでって言っただろ?」

「でも……」

 白石が何か言いかけて、言葉を飲み込む。


 俺は横目で大地を見た。

 期待に満ちた表情。

(……分かりやす)


 小さく息を吐く。


「じゃあさ、この後、時間ある?」

「大地、お前も一緒に帰るよな?」

「……お、おう」

「じゃあ三人で帰ろうぜ」

 それを聞き、大地が少し目を潤ませながら大きく頷く。


 白石は戸惑ったまま、黙っている。


 大地が『頼むから頷いてくれ』と顔に書いているかのように、必死で白石を見つめている。


 白石が、少し照れ臭そうに

「……うん、わかった」と、小さく頷いた。


 その瞬間――

「やった!!」


 教室の後ろから、大地の声が響く。

「うっせぇよ!声でけぇから!」

 俺は呆れたように大地に言った。

「……っ!」

 大地が慌てて口を押さえる。


 静かな教室に、少しだけ余韻が残る。


「じゃあ、行こうぜ!」

 俺は二人に声をかけた。


 三人で校門を出る時、何故か背筋がゾクッとした。

 誰かの視線?

 振り返るが、誰も見当たらない。

 腕につけた腕時計の音がなぜか妙に耳につく。時計をふと見る。カチッ、カチッと時を刻んでいる。


「どうした、紫音?」

「いや……別に……」

 無意識に腕時計を触る。


「行こうぜ」

「あ、ああ……」

 無性に気になり、再度視線を感じた方向を見る。

「……!?」

 思わず背筋が凍りついた。

 あれは……? まさかそんなことあるはずがない。自分と同じ顔がいたなんてな。


「おい、紫音」

 大地が俺を呼ぶ声にハッとする。もう一度視線を感じた方向を見たが、既に視線は消えていた。

(錯覚……?)

 後ろ髪をひかれるように、俺はその場を後にした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
文章が軽快で読みやすいです。 物語の展開もテンポ良くて面白いです!
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