静寂の迷子
「ハァ……ハァ……」
「……すばしっこい奴だな……」
「……さすがだよ、ログチー」
両手を挙げて、降参のポーズをしてみる。
ログチーがこちらを振り向き、
動きを止めて、ニヤリと笑う。
(……かかったな)
ログチーに狙いを定めて、両手で確保する。
「……ははっ油断したな?」
ログチーが手の中で暴れながら
「騙すなんてひどいよー!」
ほっぺたを膨らませながら言う。
「……俺の勝ち……」
言葉を言ったと同時に、そのまま前のめりに倒れる。
「……限界だ……体が痛ぇ……腹減ったし」
(あっ……)
ふと思い出して、ポケットを探る。
少し潰れたまんじゅう。
「……これ、さっきのか……」
その場に座り、フィルムを外す。
少しだけ間を置いて、口に頬張る。
「……うまっ」
(身体中の疲れが吹っ飛ぶみたいだ……)
ログチーが鼻をピクピクしてこちらを見ている。
「……なんだよ」
「一口」
「……は?」
「……いい匂いする」
じっと、まんじゅうを見つめてくる。
(……こいつ……)
ログチーを横目に見ながら、頭をかく。
「……しょうがねぇな」
少しちぎって差し出す。
ログチーは嬉しそうにかけらを握りしめ
パクッと一口で食べる。
「……うまっ!!」
「だろ?」
残りを口に放んだ後、その場に寝転ぶ。
屋上には、風の音だけが響くいている。
「……なあ、ログチー」
「んー?」
「……帰れないって、マジなのか?」
ログチーは、ちょっと悩みながら言う。
「……Revertって言ったら帰れるのかなぁ」
「……でも、帰れる保証は出来ない」
「でもさ」
ぽすっと肩に乗る。
「今は“戻れない”ってだけで……」
「……今は?」
「うん」
「そのうち戻れるかもしれないし」
「戻れないかもしれない」
「……」
(どっちだよ……)
「……まあ、考えてもわかんねぇなら」
「試すしかないだろ?」
ログチーが、ハッとして紫音を見る。
「……シルバー!」
言い終わる前に、紫音は目を閉じて小さく
呟いた。
「……Revert」
……
…………
………………
足元から、感覚が——
消えない……
「……アレっ?」
左腕の時計から、呆れたログチーの声が聞こえる。
「もう!また勝手なことして!」
「……」
「……元の姿に戻りたかっただけだし……」
図星をつかれて、つい視線を下にやる。
無意識にポケットを探る。
カサッ
手に何かが当たる。
黒いカード
「さすがに何も書いてないよな……」
無意識にカードをなぞる。
……じわっ
指先に、微かな熱。
「……?」
カードが、少し熱を帯びる。
視界が揺れる。
「……おい、ログチー——」
足元から……意識がなくなる。
……
…………
………………
風が顔にあたる。
うっすらと目を開ける。
「……ここはどこだ——?」
見たことのあるような風景。
だけど、人の気配はなく……
俺は一人でその場に立ち尽くしていた——




