噛み合わない歯車
翌朝——
スマホのアラームがうるさく鳴り響く。
布団の中から手を伸ばし、スマホを寝ぼけながら探す。
手に触れたスマホのアラームを切り、目をこすりながら画面を見る。
時刻は7:02。
「……眠ぃ」
思わず口から言葉が漏れる。
今日は土曜日だけど、中川のおっさんに取り戻したUSBを届けないとな……。
「……ふぅ」
眠い目をこすりながらベッドから起き上がる。
が、それと同時に全身に痛みが走った。
「いってぇー!」
思わず声に出る。
「シルバー、うるさい……」
時計からログチーの声が聞こえる。
「仕方ねぇだろ! 昨日はそれほどでもなかったのに、今日はめちゃくちゃ身体が痛ぇんだから」
「アドレナリンでも出てたんじゃない?」
ログチーが眠そうな声で答える。
ログチーの言葉を無視し、腰を押さえながら
ゆっくりと階段を降りる。
「おはよう紫音、休みなのに早いわね」
「……ふわぁ……はよー」
欠伸をしながら答える。
父さんもじいちゃんもまだ寝てるのか、リビングには母さんしかいない。
身体の痛みに耐えながらそろそろと椅子に座る。
テーブルに置かれたトーストをかじりながら母さんに話しかける。
「今日ちょっと出かけてくる」
「夜ご飯は?」
何かの下ごしらえをしながら母さんが返す。
「金欠だし、家で食べる」
「えっ?」
「ん? なんだよ?」
何が疑問なのかわからず首を傾げる。
「あら? あらあらあらあら?」
母さんがニヤニヤしながら近づいてくる。
「な、なんだよ、その顔」
(絶対変なこと考えてそうだな)
「……あれね、昨日使いすぎたのね?」
(デートで奢ってあげたのね!)
「……ん? まあ、たしかに身体は使ったなぁ。腰が痛ぇし」
(打ち身に、スタンガン、筋肉痛……)
「……身体? 腰? やだぁ紫音……意外と肉食なのね」
(お赤飯炊かなきゃ!!)
母さんは何故か照れている。
「何の話だよ?」
怪訝な顔で返す。
「ふふっ! お母さんわかってるから!」
「だから何をだよ?」
「紫音!最初が肝心なんだからね?」
引き出しから出した何かを手に握らせてくる。
「最初? たしかにまあ一応成功したけど?」
「紫音、ついに卒業したのね?」
「は? 卒業? まだ先だけど? 二年だぞ俺」
話しながら手の中を見る。半分に折った一万円札。
(一万円!! 臨時収入じゃん!)
思わず顔が緩む。
「お母さんは紫音の味方だからね? 上手くやるのよ?」
「あ、ああ……うん?」
何か誤解されてるのはさておき……思いがけない臨時収入に小さくガッツポーズをする。
「ごちそうさま」
食器をシンクに置き、部屋に戻ろうとした瞬間、母さんは思い出したように言う。
「あ、紫音、さっきのは前借りなだけだからね? ニヶ月分」
母さんがウインクする。
「……マジかよ」
肩をガックリと落としながら、俺は思った。
(こういうとこはちゃっかりしてるな)
頭を掻きながら、はいはいと軽く返した。
母さんとのやりとりに少し困惑しながら、部屋までの階段を登る。足を上げる度、身体が悲鳴を上げてくる。
「うっ……きっつ」
自室に戻って私服に着替える。
目立たないように全身黒にしてみたけど、出かける前に母さんにダメ出しされた。
「ダメよ紫音! そんなの暗すぎるしセンスがないわ!」ってさ。
そして半強制的に着替えさせられた。なんか断ったらついてきそうな勢いだし……。
俺は深いため息をつき家を後にした。
◇◇◇
場所は変わり、例のセントラルビル前。
土曜日だからなのかオフィス通りには、人がほとんどいない。
エレベーターで12階に上がる。
株式会社オクトパスと書かれたドアの前で、インターホンを押した。
「はい、どちら様でしょうか」
中から女の人の声。
「えっと、あの、中川さんと約束があってきました」
少し緊張しながら答える。
「社長? 社長は今日はお休みですが、どちら様……」
向こう側が言い終わる前にドアから離れた。
土曜日にはさすがに社長は出勤しねぇか……口元に手をあて、ポツリと呟く。
「はぁ……連絡先聞いておけばよかった」
エレベーターを降りながら、中川と会った時のことを思い出す。
『……月曜の9時までだ』
おっさんのあの絶望感に溢れた表情。あんなに焦っていた奴が普通呑気に休んでいるものなんだろうか?
ポケットの中には例のUSB。三谷の手には渡っていない。
あれ? もしかして何も起きていないってことなのか。
そういえば昨日過去から戻った時も、屋上には誰もいなかった。22時なら中川のおっさんと話していたはずなのに……。
万が一飛び降りていたなら、大騒ぎになっていたはずだし。だけど絶対無事だという確証はない。
モヤモヤしたものが胸の中に残る。もう一度過去に戻って確かめるしかないのか?
「シルバー?」
時計からログチーの声。
「ん?」
「なんかまた変なこと考えてるでしょ?」
「考えてねぇよ。身体も痛いしさ」
そう答えつつも、中川のことばかり気にしてしまう。
「なあ、ログチー?」
「なあに?」
「中川のおっさん、どうなったんだろう」
「……わかんない。わかんないけど、赤の他人にそこまでシルバーが気にする必要なくない?」
「それは……そうなんだけどさ」
そう言って足を止める。
「だけど、放っておけないんだよ……」
「シルバー、下手したら昨日死んじゃってたかもしれないんだよ? それに今だって身体ボロボロじゃん? 力だって安定してないのに……」
「……わかってる、わかってるさ」
「でも、確かめたい。絶対に無茶しないからさ?」
「……はぁ、わかったよ」
ログチーが渋々答えた。
俺はそのまま静かに目を閉じた。
他の人の作品読むと皆さん凄すぎて、めっちゃ自信をなくしてしまいますね(汗)
魅力的な文章にはまだまだ程遠いですが、背伸びしても今の実力ではこれが精一杯なのでひたすら書いてみようかな……って思います。
1人でもたくさんの人に読んでもらえたら幸いです。




