初めての闘い
暗がりの中から、ゆっくりと姿を現す。
「……誰なんだ、お前……」
一歩、後ずさるが
その先には、逃げ場はない。
紫音は答えない。
ただ、無言のまま距離を詰める。
「……近寄るなっ!ほんとに警察を呼ぶぞ!」
呆れたように、短く返す。
「呼ばれて困るのは……アンタだって言っただろ?」
「聞いてた?俺の話」
「……ふざけるな!」
逆上した三谷が、狂ったように殴りかかってくる。
「……遅ぇよ」
軽く身をかわす。
「ふざけてんのは、お前だろ」
三谷の足を払う。
体勢を崩した三谷が、机にぶつかる。
そのままポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。
「どこの誰だか知らないが……邪魔をするなら容赦しねぇぞ!」
次の瞬間——
スタンガンが押し当てられる。
「ぐっ……!」
電流が一気に流れ込む。
(……っ、息が……出来ねぇ……)
膝から崩れ落ちる。
視界が揺れる。
(……やべぇ……クラクラする)
マントを掴まれ、顔を覗き込まれる。
「なんだ、ガキじゃねぇか……脅かしやがって」
手が、仮面に伸びる。
(……マズい——)
その瞬間。
「シルバー!」
ログチーが三谷の顔に飛びついた。
「うわっ!?なんだコイツ!」
視界を塞がれ、三谷の動きが止まる。
紫音は、歯を食いしばりながら、体勢を立て直し
蹴りでスタンガンを弾き飛ばす。
——が、スタンガンの衝撃なのか、
足に力が入らず膝から崩れ落ちる。
「っ……!」
膝をつきながらも、無我夢中で無理やり
左足を三谷に向かって蹴り上げる。
脇腹に、会心の一撃。
「ぐわああああっ!」
三谷の体が吹き飛び、椅子にぶつかる。
その衝撃で、気を失ったようだ。
「……はぁっ……はぁっ……」
荒い息を吐く。
「……あっぶねぇ……助かった」
ログチーが、得意げに戻ってくる。
「でしょ?」
ポケットから黒いカードを取り出す。
残り時間——15分。
「……時間がねぇな」
周囲を見渡す。
「……ま、これでいいか」
梱包作業のものなのか、デスクに置き去りにされていたガムテープを掴み、三谷を縛り上げる。
ぐるぐると、容赦なく。
「……よし」
気がついた三谷が、うっすらと目を開ける。
「なんだこれは……離せっ!」
暴れるが、びくともしない。
紫音は、その様子を冷めた目で見下ろす。
「もう、お前は終わりだよ」
…………
三谷が、吐き出すように言う。
「……お前に……俺の気持ちがわかるか?」
「俺はな……ずっとこの会社でやってきたんだ」
拳を握る。
「結果も出していた。誰よりも働いた」
声が震える。
「……なのに評価されるのは、俺じゃない……!」
紫音は何も言わない。
ただ、黙って聞いている。
「……頑張っても報われない気持ちが……」
「……お前にわかるのか……」
吐き捨てるように叫ぶ。
…………
紫音が静かに口を開く。
「……わかんねぇよ……」
「……頑張ってたから何だよ」
「……褒められたい?……認められたい?」
三谷をまっすぐ見つめる。
「……甘えんな!」
「……お前はただの負け犬だ!」
三谷が歯を食いしばる。
「……うるさい……うるさい……うるさい!!」
震える声で三谷が叫ぶ。
紫音の声が、少しだけ低くなる。
「……中川のおっさんがさ」
「……アンタのことスゲー信頼してたよ」
一瞬だけ、
三谷の目が揺れた。
「……は?」
「……信頼してた奴に裏切られる……」
そのまま距離を詰める。
三谷のネクタイを掴む。
「それが、どれだけ……」
「……どれだけつらいか、アンタにわかんのかよ!」
三谷の言葉が止まる。
紫音は、三谷から手を離し、
足元に落ちていたUSBを拾い上げる。
「……これは、返してもらう」
ポケットにしまう。
三谷が、かすれた声を出す。
「俺はまだ——」
その言葉を、遮る。
「終わりだよ」
静かに、言い切る。
「もう、逃げられねぇよ」
三谷の顔から血の気が引く。
「……っ!」
紫音は背を向け、そのまま歩き出す。
足音が、静寂に溶けていく。
「——じゃあな」
振り返らずに言う。
「次は、ちゃんと中川さんと向き合えよ」
「……やり直せるならな」
三谷は、その後言葉を発することもなく
椅子に縛り付けられたまま、がっくりと頭を垂れていた。
19話にして、ログチーが過去最大のファインプレーを見せてくれました。笑
普段はちょっと抜けているログチーですが、紫音のピンチには全力で飛んでいきます。
「でしょ?」と得意げな顔をするログチーと、
やれやれと笑う紫音。
このコンビの空気感が、作者としてもお気に入りです。
三谷の背負っていた闇、そして中川さんの絶望。
怪盗シルバーが盗み出したのは、単なるデータだけではないのかもしれません。
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