オフィスへの侵入
屋上の外階段から、12階フロアへ降り
外側のドアから、そっとフロア内を覗く。
静かだ……
人の気配が、まるでない。
営業時間はとっくに終わっているのか、
廊下には電灯の光だけが鈍く点灯している。
階段のドアをゆっくりと開ける。
ドアを開く音が、やけに大きく感じる。
息を殺し、周囲を見渡す。
——奥に一枚の扉。
「……あそこか」
プレートには
「株式会社オクトパス」と書かれている。
ドアの横にはインターホン。
カードキーの認証装置。
そして——監視カメラ。
赤いランプが、チカチカと点滅している。
「……さすがに正面突破は無理……だよな」
口元に手をあて、思考を巡らせる。
宅配員のフリをしてみる……
うん、無理だな。
こんな格好の宅配員なんて、信じるのは
うちの母さんぐらいだ。
……ログチーに鍵開けさせるか……
いやいや……そもそも中に入れないから無理だ。
小さく息を吐く。
ふと、天井を見上げる。
通気口!?
(……これだ!)
でも……
廊下は、誰かに見られる可能性もある。
一歩間違えれば、ゲームオーバーだな。
再度廊下を見渡す。
トイレの表示。
「よし!ログチー、トイレだ!!」
「シルバー!こんな肝心な時にトイレ?」
ポケットから顔を出し、首を傾げる。
「ちげーわ!」
思わず声を抑えながら返す。
「真正面が無理なら、裏から行くしかないって事」
足音を殺しながら廊下を進む。
トイレまでの距離はあまりないのに、
なぜか遠く感じる。
周りを警戒しながら、男子トイレの前に立ち
トイレのドアを押す。
中は無人。
蛍光灯の白い光が、静かに空間を照らしていた。
個室に入り、鍵をかける。
天井を見る。
通気口があった。
「……ビンゴだな」
「え、ちょっと待って?ここから行くの?」
ログチーが怪訝な顔をしながら尋ねる。
「他にねぇだろ」
手をかける。
押しただけでは動かない。
(……押してダメなら)
壁に手を引っ掛け、足で蹴りあげる。
ギィ、と鈍い音。
わずかに、外れる。
「……よし」
そのまま手で押し上げる。
蓋が外れ、暗い空間が見える。
冷たい空気が、わずかに流れ込む。
通気口に手を伸ばし、縁を掴んで
懸垂をするように身体を持ち上げる。
——が
手が滑って、落ちそうになる。
「……フンッ!」
片手が離れる直前に壁を蹴って、何とか這い上がる。
ログチーがポケットからクスクス笑う。
「……フンッて、おっさんみたいだよー」
「……うるせぇ。登れりゃいいんだよ」
通気口の中は暗く、先が見えない。
スマホで照らしながら、そろそろと進む。
「……狭いし、臭ぇし、最悪だな……」
「シルバー、埃っぽい!鼻ムズムズするー!」
鼻をつく埃の匂い。
呼吸が少しだけ重くなる。
マントで口元を押さえ、前へ進む。
「……シルバー」
「この先にカメラが一台あるよ」
「……マジ?」
「降りるとこに多分ある。どうする?」
「カメラの位置はわかるか?」
「うん。通気口の出口あたりに感じる」
「……どうすっかな」
「ログチー、カメラの視界から外すことは出来るか?」
「んー、出来ないことはないけど」
「合図してくれたら、カメラに張り付くよ」
「……了解」
前方に、出口。
その先に——オフィス。
「行くぞ」
「いつでもいいよ!」
「……今だ」
「了解っ!」
ログチーが通気口の隙間から
カメラに向かって張り付く。
「30秒ぐらいが限度だからね」
「それだけあれば、充分だ」
通気口を開け
そのまま床へ降りる。
音を殺して着地。
さっきな屋上の衝撃が、後を引いていたのか、
足に鈍い痛みが走る。
(……クッ)
痛みを我慢しつつ、周りを警戒しながら
視線を巡らせ、カメラの死角に入る。
ログチーに手で合図をする。
慎重に周囲を見渡す。
静まり返った事務所。
電源の入ったPC。
引かれたままの椅子。
(変だな……)
「この時間なら、誰か残っててもおかしくないよね?」
戻ってきたログチーが小さく呟く。
紫音は奥を見る。
わずかに漏れる光。
その中にひとり。
背中を向けたまま、
キーボードを叩いている男がいた——
キーボードの音が、静かなオフィスの中に
響いている。
「……あいつか?」
「わかんない……」
ログチーが顔を出す。
そして——
「呼んでみたらいいんじゃない?」
「は?」
止めようとした、その瞬間。
「おーい、三谷ー?」
「——っ!?」
男の動きが止まる。
ゆっくりと、振り返る。
「……誰だ」
低い声。
空気が、張り詰める。
(今の反応……)
紫音がフッと微笑む。
「ビンゴだな」
一歩、踏み出す。
足音がコツコツと響く。
三谷が立ち上がる。
暗がりの中。
三谷の視線が、紫音を捉えきれない。
「……誰だ!今日は全員帰らせたはずなのに」
死角から、三谷を見据える。
机へと近づく。
視線の先——USBメモリ。
三谷の指先が、わずかにそれに触れる。
「……それは、何の情報だ?」
三谷が、震えながら周りを見渡す。
「だ、誰なんだ!姿を現せっ!」
「けっ警察を呼ぶぞっ!」
空気が、張り詰める。
一歩ずつ、距離を詰める。
怯える三谷の前に——
シルバーが、ゆっくりと姿を現す。
「呼ばれて困るのは——」
「アンタじゃないのか?」
「なあ、三谷さん」
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◾️おまけのページ
※苦手な方はスルー推奨
【次回予告】
三谷を追い詰めたシルバー!ついに情報奪還か!?
と思いきや、三谷のデスクにあったお菓子が気になって集中できないログチー。
「ねえシルバー、これ食べていい?」
「ダメに決まってんだろ!」
緊迫した空気はどこへやら。
違和感は、もう、止まらない。
次回も見てねー!
※内容は本編にはあまり関係ありません。




