初依頼、機密情報を奪還せよ
「銀の怪盗……?」
男は、すがるような目で紫音を見た。
「……でも、あんたは、アルジェントではないんだろ?」
紫音が、わずかに眉をひそめる。
「アルジェントって誰だよ」
男は、小さくうなずく。
「悪事に使われたものだけを奪う凄腕の怪盗だ」
紫音の後ろから、ログチーが小さく呟く。
「へぇ〜、すごい人なんだね」
男が、ぎょっとする。
「……ネズミが喋った……?」
「ネズミとは失礼な!」
「何を隠そう、ログ——」
ログチーが飛び出しかけたのを
紫音が無言でポケットに押し込む。
「もごっ!?」
頭だけぴょこっと出して、頬を膨らませる。
紫音は、ゆっくりと息を吐いてから
中川に視線を向けて、真っ直ぐに言う。
「俺はアルジェントではないけど……」
「飛び降りる勇気があるなら——」
「いっそ、俺にかけてみないか?」
男に、手を差し伸べる。
「事情、聞かせてくれよ」
男は、紫音の手を取り立ち上がる。
「中川だ……」
時刻は既に22時を回っていた。
少し落ちついたのか、中川が静かに話し始めた。
「信じてた部下に……やられたんだ」
「機密情報を……全部持っていかれた……」
中川は拳を震わせながら、絞り出すような声で言う。
「情報を盗られたのは、いつの話なんだ?」
紫音が尋ねる。
「気づいたのは今朝だ。昨日の夜までは確かにあった」
「三谷……信じていたのに……」
中川は、その場で泣き崩れる。
紫音は言葉をかけることもなく
そのまま、ゆっくりと立ち上がる。
夜風が、屋上を吹き抜ける。
紫音は中川に視線を向けた。
「取り戻さないといけないリミットは?」
中川が、答える。
「……明日の、9時だ」
「場所は?」
「……証券取引所だ。ただあそこは警備も厳しいし
あそこに行ってから盗み出すのは至難の技だ」
「あそこに行くまでに取り戻して、このセントラルビルまで来て欲しい」
息を整えながら続ける。
「12階……社長室に来てくれ」
縋るような目で、紫音を見る。
紫音は軽くうなずく。
「……わかった」
中川が、紫音をじっと見つめる。
「君は、いい瞳をしているな。何故か、信じてみたくなる」
紫音は、仮面を軽く押さえながら、
中川に背面を向けて、呟く。
「もう……飛び降りたりすんなよ……」
そのまま、歩き出す。
夜風が、そっとマントを揺らしていた。
——
屋上の外階段。
ログチーがポケットから、顔を出す。
「シルバー、どうするの?」
「実は、まだ考えてねぇ……」
ログチーは呆れながら言う。
「えっ?えーっ?あんな啖呵きっておいて?」
「うるせぇ、あの場ではああ言うのが正解なんだよ」
ふと、黒いカードを思い出す。
さっき今日の日時とセントラルビルと
書いてあった。
(もしかしたら……)
ポケットからカードを出す。
そこには、はっきりと文字が浮かび上がっている。
11月7日 22:00
「……昨日、か」
(このカードの力って……)
「シルバー、行くつもり?」
ログチーの声が、少しだけ低くなる。
「……ああ、ヒントはこれしかない」
「やるしかねぇだろ」
ログチーを見て、口角を上げる。
「でもさー」
ログチーが言葉を濁す。
「力がなんかバグってるっていうか、シルバーに変に影響する可能性あるよ?」
「……」
カードを見つめる。
「ねぇ?無視しないでよー」
紫音は、ふっと息を吐く。
「上等だ」
「何とかなるさ!俺には、心強い相棒もいるしな」
紫音が、照れくさそうに笑う。
ログチーは耳をピクっとさせながら、ニヤっとする。
「ほんと、そういうとこだよね」
紫音は、カードを強く握りしめた。
「——行くぞ」
昨日の22時……
頭の中で強くイメージする。
段々と目の前の視界が、歪む。
足元の感覚が消え、
世界が、引き裂かれるように崩れていく。
「……っ!」
時間が、巻き戻る。
音が逆流し、
光の中に吸い込まれる。
目をそっと開けると、宙を浮いている。
そのままなすがまま落ちる。
紫音の体が、床に叩きつけられた。
「……っ、いってぇ……」
膝にまた痛みが走る。
痛みを我慢しながら、ゆっくりと顔を上げる。
そこは——
同じセントラルビルの屋上だった。
スマホを見る。
11月7日 21:14
「……来た、のか」
ポケットの中のカードを見る。
「……っ!!」
文字が、変わっている。
残り時間 00:45:22
カードの秒数が1秒、また1秒と減っていく。
「……時間制限付きかよ」
紫音は、カードを見つめたまま小さく笑う。
「……面白くなってきた」
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◾️おまけのページ
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次回予告
紫音です。あ、今はシルバーか。
格好つけて「相棒」なんて言った矢先に、着地を失敗して膝を打ちました。
ログチーには「そういうとこだよ」って呆れられるし、もう散々です。
さて、次回の『銀の怪盗は真夜中に覚醒する』は……
・ログチーパニック
・紫音、母に説教される
・見ては行けないオフィス裏
ログチー
次回も見てねー!
※内容は本編にはあまり関係ありません。




