嘘と、母と、ログチーと
「8日……?」
カードの文字を見つめる。
「……8日って、今日じゃないか」
小さく呟く。
「ログチー、今何時だ?」
「今の時刻は18時だよー」
「……あと3時間か」
「何があるんだ……?」
静かな部屋に、時計の音だけが響く。
「行くの?シルバー?」
少しだけ、不安そうな声。
「やめといた方がいいよ。なんかバグってるし」
ログチーは腕を組みながら、首を傾げている。
「昨日、雨に濡れたからかなー」
「何が起きるかわかんないよ?」
「……そうだよな」
自分に言い聞かせるように呟く。
「行ったところで、何が起きるかわからない」
沈黙。
けれど——
ふと、脳裏に浮かぶ。
さっき見た、あの光景。
冷たい風。
誰かの気配。
「……でも」
小さく、言葉が漏れる。
「あの映像……」
息を吐く。
「……なんか、助けを求めてた気がする」
――
時刻は18:30
階下から、母の声が響く。
「紫音ー?帰ってるのー?夕飯にするから降りてらっしゃい」
「……っ」
ハッと我に返る。
鏡に映る、自分の姿を見る。
白いジャケット。
黒いインナー。
銀のチェーン。
「……今は無理だろ……」
小さく呟く。
視線を足元のログチーに向ける。
「ログチー、この格好どうにかならないのか?」
「んー……」
少し考えるような間。
「少しなら、いけるかも」
「少しってなんだよ……」
「いっくよー!」
「おい、ちょ——」
次の瞬間。
体の感覚が、わずかに揺らいだ。
光が弾けるように消え、
鏡の中の姿が、ゆっくりと変わっていく。
「……」
紫音は、恐る恐る鏡を見る。
白いパーカーに、黒いパンツ。
腰には、銀のチェーン。
一瞬——普通に見えた。
「……お?」
銀髪。
青い瞳。
そして、黒い仮面。
「ただ、着替えただけじゃん!」
「えー!?そう言ったじゃん!」
「言ってねぇよ!」
下から母の声が響く。
「紫音ー?いるのー?」
「……っ」
「あ!リバートで戻れば……?」
「無理じゃない?今バグってるし……」
「最悪だ……」
ため息をつく。
「……もういい、行くぞ」
「え!?いいの!?」
「仕方ないだろ!ここにいても母さん来そうだし……」
――
階段を降りる。
一段、一段。
足音がやけに響く。
「シルバー、なんかいい匂いするねぇ」
空気を読まずにログチーが呟く。
「黙ってポケットに入ってろ」
無造作にパーカーのポケットにログチーを押し込む。
リビングの扉の前で立ち止まる。
深呼吸。
母さん以外の気配はない。
「……よし」
ガチャ
扉を開ける。
「遅いわよ——」
母の声が止まる。
「……あら?」
一瞬、沈黙。
紫音の心臓が、ドクンと鳴る。
「なんか今日……雰囲気違くない?」
「……そうか?」
平然を装って返す。
母がじっと見ている。
(終わったな、これ)
「髪、染めたの?」
「ん……まぁ、ちょっとイメチェン?」
「へぇ、いいじゃない」
(……いけたのか……?)
「でも、その仮面は何?」
「……」
固まる。
「えっと、文化祭のイベントのやつ……」
「へぇ〜そんなのあったのね」
(納得するのかよ!)
視線を下に逸らし、小さく呟く。
「あら?」
「今度は何?」
「そのポケットから出てるのはなぁに?」
「……っ!?」
思わずパーカーのポケットを見る。
ログチーが鼻をピクピクさせながら、テーブルに
並べられた唐揚げを見ている。
(終わった……完全に終わった……)
「えっと……その……今流行りの動くパケモン……」
苦し紛れに言う。
「そうなんだぁ……最近のはリアルに出来てるわねー」
感心しながら母がうなづく。
(信じるのかよ!!思わずツッコミそうになる)
ポケットの中でもぞもぞするログチーを押さえつけながら、自分の母親が、天然で良かったと感じた。
「ほら、早く食べなさい」
「ああ」
心臓がまだバクバクしている。
ふと窓の外を見る。
空は、暗くなり始めていた。
リビングの時計を見る。
19時15分。
「……あと、1時間45分」
視線が、わずかに鋭くなる。
夕飯をかき込むように済ませて
「ごちそうさま!母さん、今からちょっと出かけてくるから」
「あっ」
母が、思いついたように言う。
「さては、デートね?」
口に手をやりながら、ニヤニヤしている。
「…………ははは」
(もうどうにでもしてくれ…)
適当に話を切り上げて、玄関で靴を履く。
「……行くか」
小さく呟く。
カードの影響なのか、それとも自分の意思なのか
理由はわからない。
けど——
もう、止まれなかった。
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◾️おまけ(すきまページ)
ログチー
「シルバー、今のキミ、シリアス成分30%、パケモン成分70%だよー!」
紫音
「うるせぇ、全部お前のせいだろ!……でも、行かずにはいられないんだよ!」
決意を秘めて扉を開けるが、パーカーの紐がドアノブに引っかかる……
ログチー
「………ふぅ」
次回も見てねー!
紫音
「スルーかよ!」
※内容は本編には関係ありません。




