二十六話 蹴鞠通りの裏路地の噂
蹴鞠通りの裏路地には、夜になると何かが出る
………
……
…
下校時刻の蹴鞠通りは、ランドセルを揺らした小学生たちで賑わっていた。まだ日は高いが、二月の陽射しは弱く気温は低い。
小学生の一人が、声をひそめて言った。
「ねぇ、蹴鞠通りの裏路地の噂って知ってる?」
それを聞いて取り囲む数人が、顔を寄せ合う。
「夜に一人で蹴鞠通りの裏路地を歩いていると、後ろから足音がついてくるんだって。振り返っても何もいない。でも、また歩き出すと、またついてくる…。それでも気に留めないでいると、今度は目の前で足音が………」
「やだー、怖い!」
「本当かな……」
そのまま固まって、笑い半分怖がり半分で走っていった。ランドセルがばたばたと揺れ、やがて角を曲がって見えなくなる。
残された路地に、静けさが戻った。
♢♢♢♢♢
クロはそのやり取りを、路地の入り口に寄りかかって聞いていた。
視線を落とすと、足元に一匹の犬がいる。中型犬ほどの大きさで、毛並みは白に茶が混じっている。尻尾を緩やかに振りながら、クロの方を見上げていた。半透明で、日の光をわずかに透かしている以外は、ごく普通の犬に見えた。
「……だってよ」
クロが声をかけると、犬は首をかしげた。噂の張本人だという自覚は、どこにもなさそうだ。むしろ尻尾を振る速度が少し速くなった。
(まったく)
この犬がここに居ると気づいたのは、一ヶ月ほど前のことだ。怪異と呼べば怪異だが、実害は特にない。ただ夜な夜な裏路地を歩き回り、その足音を聞いた人が勝手に驚いているだけだ。それが噂になり、蹴鞠通りの裏路地は怪異が出ると言われるようになった。
実態はこれだが、と思う。
犬はクロの足に鼻先を押しつけ、くんくんと匂いを嗅いだ。体温はない。実体もない。それでも、その仕草はどこまでも犬らしかった。
「はやく成仏しろよ」
言葉は届いているのかいないのか。犬は尻尾を振り続けている。
しゃがんで、犬の頭のあたりに手をかざした。触れることはできないが、かざした手を犬が鼻で追いかけてくる。じゃれているつもりらしい。
(こいつ、何が楽しくてまだここにいるんだろうな)
生きている間に満足しきれなかった何かが、この場所にこの子を残らせている。飼い主に会いたいのか、ただ遊び足りなかったのか。犬には聞けないし、犬も答えられない。
ただ、尻尾だけが振れていた。
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蹴鞠通りの裏路地の怪異
元は人に飼われていた犬。
寿命で死んでしまったが、まだまだ遊び足りず、怪異と化して現世に留まっている。
Wright/__です。
本作品を読んでいただきありがとうございます。
こんな怪異も居たりします。




