二十三話 二人の心配事
会議があった翌日、玖壱はクロの事務所へ向かった。
昨日は報告書の作成や別任務の事後処理で夜遅くまで仕事だった為、クロへの情報共有は今日へと持ち越しになった。
だが、一晩置いて整理できた分、話しやすくはなったかもしれない。
路地裏の細い道を進んで行くと、見慣れた古びた扉が見えた。玖壱は白い息を一つ吐いてから、ドアをノックした
………
……
…
「……来たか」
クロは大きなあくびを一つしてから、扉を大きく開けた。
「お邪魔します。朝早くにすまんな」
玖壱はコートを脱ぎ、ソファに腰を下ろす。
クロは机に戻りながら、玖壱を一瞥した。
「それで、話ってなんだ。また依頼か?」
「いや、例の『空亡』についてや」
その言葉を聞くなりクロが向き直る。
「聞かせろ」
玖壱は、昨日の会議で明らかになった情報を話し始める。
百鬼夜行は、悪行を為す怪異たちの大行列のこと。
その始まりを司る怪異は存在していたが、終わりを司るものはいなかったこと。
そこで、行列を終わらせる怪異を意図的に創り出そうとした者たちがいたこと。
人間と怪異、両方の力を合わせて生み出された存在、それが空亡だということ。
「完全に復活すれば、人の力では止められんらしい」
「……それほどのものが、今まで表に出てこなかったのはなぜだ」
「公安が長年、その存在を隠してきたからや。知られることで悪用される危険がある、とかいうんがその理由らしいけど……実際、怪異が多発する時期に空亡の復活を企む連中がこうして居るわけやし。今回もそういうことなんやろ」
「周期的に誰かが動いている、ということか」
「個人ではなく組織である可能性が高いな。ただ、例の老人に逃げられた以上、今のところ手掛かりは無しや」
クロは腕を組み、少し考えてから口を開いた。
「なるほど……。でも、いいのか。部外者の俺にそんなことを話して」
「隊長から許可は得とるから問題あらへん。それに、クロもあの場に居た以上、部外者とは呼べへんからな」
「……そうか」
「あと、このことに関してなんやけど……」
「わかってる。あの二人には話すな、だろ」
玖壱の言葉の続きをクロが口にする。
「察しが良くて助かるわ。あの二人は一般人で、怪異の被害者。極力巻き込まず、普通の日常を送ってほしい」
「ああ、そうだな」
二人が空亡のことを知れば、クロと玖壱のことを心配するだろう。特に、紫苑に関しては要らぬ責任を感じてしまうかも知れない。ならば最初から伝えない方がいいだろう。
「…話は大体理解した。俺の方でも調べられることは調べよう」
「ありがとう。ただ、無茶はせんといてな」
それだけ伝えると、玖壱は立ち上がりコートを羽織った。
「ほな、うちはこれで」
「随分と忙しそうだな」
「こう見えて副隊長やし、やる事が多いんよ」
そう言って扉に手をかける。
路地に出ると、寒風が強く吹き付けてくる。
玖壱はコートの襟を立てながら、次にやるべきことを頭の中で並べ始めるのだった。
Wright/__です。
本作品を読んでいただきありがとうございます。
8月は投稿頻度高めでいきます。




