表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

#17 初詣

「ほな行こか」


 世界が新年を迎えた数時間後、クロは玖壱(くいち)に連れ出されていた。


 約束通り、ということだ。昨夜のメッセージのやり取りを思い返しながら、クロはアウターを引っ掴んで事務所を出た。


 迎えに来た玖壱はいつものお面は着けておらず、黒いコートを羽織っている。その隣に並んで歩き出すと、元日の朝の空気が刺すように冷たかった。吐く息が白く流れ、参道(さんどう)へ続く道には同じように初詣へ向かう人の流れが続いている。家族連れ、カップル、友人同士。晴れ着姿の人間もちらほら見えた。



「初詣なんていつぶりだろうな」


「えぇ…。神様とは仲良うしといた方がええよ?」


「んなもん、学校では習わなかったな」


「信仰心の問題や」



 玖壱はそう言って笑った。


 参拝客の列は鳥居の外まで伸びており、クロは思わず眉を寄せた。



「……これに並ぶのか」


「初詣やからな。毎年こんな感じやで」



 覚悟を決めて列に加わる。玖壱はのんびりした足取りで隣に並んだ。


 参道に入ると、両脇に並ぶ屋台から美味しそうな匂いが漂ってくる。焼き鳥の煙、砂糖を焦がしたような匂い、熱い汁物の湯気。人の熱気と冬の冷気が混じって、独特の空気が漂っていた。


 列はゆっくりと進む。参拝客の話し声や子どもの笑い声が周囲に満ちており、普段は路地裏で過ごしているクロには慣れない場所のため、窮屈(きゅうくつ)に感じられた。



「クロ、去年はどんな年やった?」


「……特に何もなかったな」


「ほんまに? 色々あったやろ」


「ぱっとしない一年だったよ」



 玖壱はふうん、と言って前を向いた。それ以上は聞いてこない。このあたりの間合いは、付き合いが長くなるにつれて玖壱も掴んできたのだろう。


♢♢♢♢♢


 参拝を終えて拝殿(はいでん)の前から離れると、玖壱(くいち)が「おみくじ引かへん?」と言い出した。


 クロが特に異論を唱えないでいると、おみくじの台へ向かう途中で見知った顔が目にはいる。

 人の流れの中、少し離れたところにいたのは琥珀(こはく)紫苑(しおん)だ。二人ともおみくじを引こうとしているところだった。



「おっ、奇遇やな」



 玖壱が先に声をかけた。

 琥珀が顔を上げて、ぱっと表情を明るくする。



「玖壱さん! クロさんも!」


「お久しぶりです」



 紫苑も頭を下げた。



「二人で来たんか?」


「はい!紫苑と来るのは毎年の恒例なので」


「こはくと来るのが一番落ち着くから」



 紫苑がさらりと言う。琥珀は「もう、急にそういうこと言わないでよ」と照れて顔をそらした。

 クロはそんなことお構いなしに会話を続ける。



「参拝はもう済んだのか」


「はい、さっき。クロさんたちは?」


「終わったところだ」


「じゃあ一緒におみくじ引きましょう!」



 琥珀が弾んだ声で言った。断る理由もなく、四人でおみくじの台を囲む。



「大吉! やった!」


「小吉、ちょっと微妙だなぁ」



 琥珀が紙を広げて声を上げた。紫苑は少しがっかりしたような素振りを見せる。



「中吉や。まあまあやな」



 玖壱が満足げに頷いてから、隣のクロのおみくじをちらりと覗いた。



「おっ、クロ大吉やん」


「勝手に見るな」


「ええやないか、素直に喜びや」


「別に喜んでない」


「顔に出とるで」


「出てない」



 琥珀と紫苑が顔を見合わせて、こっそり笑った。クロはおみくじを折りたたんで懐に収め、二人から視線をそらした。


♢♢♢♢♢


 参道を抜ける頃には、空はすっかり明るくなっていた。正月の街は賑やかで、いつも以上に活気があった。



「甘酒でも飲んで行かへん? 冷えたやろ」


 玖壱(くいち)がお店の前で立ち止まる。琥珀(こはく)が「飲みます!」と即答した。


 四人でお店に並んで、温かい甘酒を受け取る。クロは一口飲んで、ほんのり甘い熱が喉を伝うのを感じた。昨夜のそばとは違う温かさが、じんわりと体の芯に届く。



「美味しい……! 体が温まりますね」


「ほんまやな。たまには甘酒もええな」



 そのまましばらく、四人は他愛のない話をした。琥珀は玖壱に今年の抱負を話し、紫苑(しおん)はそれを聞きながら時折相槌をうちつつ甘酒を飲んでいた。クロも特に話に加わらなかったが、耳は傾けていた。


 去年の年明けは一人で事務所にいた。何をしていたかなんて、微塵(みじん)も記憶に残っていない。

 だが、今年は違う。

 それがどういうことなのか、うまく言葉にはできないが、悪い気はしなかった。


 甘酒を飲み終えた四人はお店を離れ、しばらく進むと分岐点に差し掛かった。



「私たちはここで」



 紫苑が言った。二人の帰り道は別方向だ。



「今年もよろしくお願いします、クロさん、玖壱さん」


「こちらこそ、よろしくな。また元気な顔見せてや」



 玖壱が笑って手を振った。クロは軽く頷く。



「気をつけて帰れ」


「はい! 良い一年になるといいですね」



 琥珀が笑った。紫苑も丁寧に頭を下げる。



「お互い良い一年にしていこうや」



 互いに挨拶を交わし、二人組に分かれてそれぞれの帰路についた。


♢♢♢♢♢


 朝来た道を二人で戻るクロと玖壱(くいち)。どの場所もどこか浮き立った空気が漂っていた。



「ええ初詣やったな」


「そうだな」


「来年も行こか」


「お前が誘ってくればな」



 素直に答えたクロに玖壱は少し不意をつかれた顔をして、それから笑った。



「ほな、来年も誘うわ」


「ああ」



 来年の約束を決めた二人は、それ以上は何も言葉にせず、ただ歩調を合わせて進んでいく。

 そこには探偵と公安ではなく、二人の友人の姿があった。

Wright/__です。

本作品を読んでいただき、ありがとうございます。


クロ玖壱琥珀紫苑の4人はそれなりに遊びに行ってる(主に琥珀がクロの事務所に入り浸っている)し、なんなら4人のグループチャットがあったりします。


仲良しですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ