世界の終わり?
「きみの名前は?」
フィリ先生に聞かれたキーアは、跳びあがる。
「た、大変な失礼をいたしました!
キピア家次期当主、キーア・キピアでございます」
うやうやしく敬礼した。
「ネィト・トリアーデです」
となりでネィトもちょこんとお辞儀してる。かわいい。
「マェラ・マガーテです♡ たぶんマガーテ家次期当主です♡」
ちゃんと、たぶんをつけてる。えらい。勝手に自称すると大変だからね。いくらゆるいロデア大公国でもね!
「ルゥイ・トゥナ・ロデアです」
きらきらのはちみつの笑顔で、ルゥイまで自己紹介してる!
「きみは知ってる」
もっともなフィリ先生の返しに、ルゥイは微笑んだ。
「ありがとうございます。名前をお忘れかと思ったので、復習に」
にこにこしてるルゥイが、いやみじゃなくて、ふつうに善意っぽいよ!
「……ありがとう」
ぽそぽそつぶやくフィリのまなじりが、ほんのり赤い。
忘れてたんだね! なるほど!
こほんと咳払いしたフィリは、先生の顔になった。
ちらっと特別講義の講師を見たフィリに、講師がどうぞどうぞと敬礼してる。
「光魔法と闇魔法は解りかねますので、ご教授たまわれれば、生徒も私どもも大変ためになります!」
一緒に勉強できて、うれしいみたいだよ。よかった。
フィリ先生も満足そうに、うなずいた。
「じゃあ、光魔法を教えるよ。闇の子もおいで。魔法の原理は皆いっしょで、魔法陣と詠唱が異なるんだ。精霊語を使うのは知ってるよね。とりあえず丸暗記でだいじょうぶ。光魔法の初級の魔法陣はこれ。詠唱は魔法書を見てね。発声すると──」
フィリが歌う。
ふしぎな精霊語の音が、清かに世界に溶けてゆく。
「僕に光魔法の適性はないから、何にも起こらない。だから気軽に唱えられるけど、間違った魔法陣を描いたり、間違った詠唱をしたりすると、魔法が暴発したりして危険になることがあるから、気をつけて」
「はい!」
よい子のお返事をしたキーアは、フィリ先生が描いてくれた魔法陣を魔法書と見比べる。
「あの、フィリ先生、さっきのは光魔法の上級魔法のようなんですが……」
「基礎の基礎だよ」
はい、上級魔法が、基礎中の基礎だそうです。おかしい。
「せ、先生! 精霊語の発音に自信がありません……!」
涙目なマェラが、きゅるきゅるしてる。かわいい。
「気持ちをこめたら大丈夫! だって、誰も精霊さんと会話したことないでしょ? 人間が精霊語って言ってるだけだし、なんていうのかな、起爆装置? 『これから魔法を使うんだ、やってやるぜ!』って気持ちになることが一番大事なんだよ」
「気持ちなんですか!」
それはキーアの得意な分野だよ!
精霊語と魔法陣のややこしさにめげそうだったキーアが、ちょこっと元気になりました。
ちいさく笑ったフィリが、うなずいてくれる。
「ふだん使わない精霊語で魔法を使う気持ちを高めて、特定の魔法に特定の言葉をあてることで、その魔法を安定的に行使することができるようになる」
「へえ!」
「人間の便宜上の問題もあるけど、精霊さんとの相性の問題でもある。ハゥザは精霊さんに愛されてるから、魔法陣を一瞬で構築して無詠唱で即座に魔法発動なんていう技を繰りだしてくるけど、人間業じゃないから。化け物の技だから」
「ひどいな、フィリ。ならきみも化け物仲間だぞ」
フィリの肩を抱いたハゥザ学園長が、によによしてる。
ハゥザの顔にも接触にも、フィリがものすごくふつうそうで、仰け反った。
この顔面きらきらの芸術を超える男に対抗できるフィリ先生が、すごすぎる──!
さすが大魔法使い!
仲良しみたいだし、隠しキャラだから、抵抗力があるのかな?
きらっきらのハゥザをくっつけたまま、フィリは続けた。
「初心者は、魔法書をよく見て魔法陣を描いて、詠唱を間違わずにするのが大切だよ。やってみて」
「はい!」
あこがれの魔法だよ──!
わーい!
きゃっきゃしながら、魔法陣を描こうとしたキーアは、魔法書にえがかれた闇魔法の魔法陣の複雑怪奇さに点目になった。
……1週間で詰めこんだ魔法科の試験の魔法陣は、初級の初級! ほんとの基礎の、炎、水、風、地、だったので、あんまりややこしくな……いや、ややこしかったけど! 涙目だったけど! あれが可愛らしく思えるほど、意味わからんだよ!?
泣きそうなキーアの隣で、ネィトが、しゃしゃっと魔法陣を描いてる!
キーアには完璧にしか思えない精霊語で、ネィトが歌う。
グォァオアァオオ──!
あふれる闇に、大公立学園が、真っ暗になりました。
「ぎゃあぁあ──!」
「何事!?」
「日蝕!?」
「こんな突然!?」
「世界の終わり!?」
大公立学園が悲鳴でいっぱいになりました。
「わー、すごいすごい、上手上手」
フィリが拍手してくれて、ネィトが赤い頬でふわふわ笑う。
「あ、ありがとうございます!」
褒められたネィトを隣に、マェラの目がメラメラしてる。
「ぼ、僕だって、やってやるんだから!」
マェラが、しゅばばばっと光の魔法陣をえがき、透きとおる声で精霊語を歌う。
パァアァアア──!
あふれる光に大公立学園が包まれた。
「おぉお!」
「明るくなった!」
「何があった?」
「何をやってる!?」
歓声と驚愕が飛び交ってる。




