誤作動?
いつも完璧にかっこいールゥイとレォが涙目だよ!
なんて輝かしい……!
とか拝んでる場合じゃなくて、見てるだけで、キーアまで泣いちゃいそうだ!
大公立学園の馬車止めで突然始まったしゅらば? に生徒たちも鈴なりだよ!
あわあわキーアは、駆けよった。
「あ、あの、ネィト、トリアーデ家でひどい扱いを受けてて、ちょっとでも圧になったらいいなって。
だいじょうぶだって伝えるためにも、毎日お迎えに行こうかと」
「ああ、じゃあ僕の馬車でキーアを迎えに行ったあとに寄ればいいよ。この上ない威圧でしょう」
いつもあまいルゥイの微笑みが、こわいです。
「俺の馬車でもキーアの後に寄ろう。よい圧になる」
切れあがるレォの目も、こわいです。
「あ、ありがとうございます!」
赤い頬でお辞儀するネィトが、かわいいです。
「……え、俺の仕事は……?」
トマが切ない目になってる!
「いっぱい鍛錬につきあってもらうから!」
「おまかせください!」
胸を叩いて、笑ってくれた。
キーアの今日の予定は、午前が魔法科の特別講義、午後が騎士科の特別講義だよ。
ついてゆけるのか、不安しかない。
「キーア、一緒に講義を受けようね」
「僕も、きーちゃんと一緒がいー!」
ルゥイとネィトが右手と左手を繋いでくれるんだけど、攻略対象と悪役令息が誤作動しすぎじゃない?
ネィトはルゥイ殿下と手を繋ぎたくないのかな?
BLゲームがはじまったから、悪役令息の任務として、ルゥイやレォに『きゃー♡ きゃー♡』がはじまるのかと思ったけど……
「ネィト、ルゥイ殿下とレォさまに『きゃー♡ きゃー♡』は?」
「きーちゃん、かっこいー♡」
ぎゅうっと手を握ってくれる。かわいい。
じゃなかった。
顔も名前も声もないモブ、悪役令息の伴侶(予定)ですよ?
攻略対象が馬車で朝、登校のお迎えにきてくれるのって、その攻略対象のルートに進んで親密度がMaxになって、ハッピーエンド確定になったことが分かるイベントで、BLゲームの最終盤だったよ?
ルゥイとレォが迎えにきてくれるとか、根本的にありえないよね?
しかも大公立学園の授業が始まる初日だよ?
ありえなさすぎない?
BLゲームが、おかしくなってる……!?
あばばばするキーアの隣で
「……キーア、あんまりいちゃいちゃしないように」
レォがぶっすりしてる!
「午後からは騎士科でしょ。思いきり、いちゃいちゃするつもりのくせに」
唇をとがらせるルゥイに
「当たり前だ!」
レォのひとつに束ねられた青磁の髪が逆立ちそうだよ。
大公立学園の馬車止めには次々と生徒たちの馬車がやってくる。
朝のラッシュみたいだよ。
「あ、キーアだ! ひさしぶりー! 合格したんだねー!」
にこにこ手を振って駆けてくるのは、ぴんくの髪の主人公マェラだ!
「……誰? 入学式の、かっこいーきーちゃんを見なかったなんて、節穴なの?」
ネィトの声が低くなってる!
「……え、もしかして、入学式であいさつしたの、キーアなの? 服がすっごくかわいーなって、服しか見てなかった! 紹介して!」
きらきらのぴんくの目で、ほんのちょこっと見あげてくれるマェラに、キーアは両手をあげた。
「よろこんで──!」
ヤエさま、顧客が増えましたよ!
しゃしゃっと周りを確認したらしいマェラが、とろける笑顔になる。
「わあ、ルゥイ殿下、おはようございますー!
入学試験でもご一緒した、マェラ・マガーテです♡ どうぞよろしくお願いしますー♡」
ふわふわのぴんくの髪が揺れて、きゅるきゅるな♡でいっぱいだよ!
さすが主人公!
1巡目だと、魔法科の最初の授業でスチルは出ないんだけど、2巡目以降で引き継ぎパラメータの芸術、もしくは可愛さが高かった場合は、ルゥイ殿下の『はじめまして』スチルが出るんだな!
でも3次元は、常に生スチルなのです。
主人公とルゥイ殿下のからみ、尊い──!
これぞ、リアルな3次元──!
いー匂いするよ!
もちろん、拝んだ。
「ど、どうしたの、突然」
さすがの主人公もびっくりしてる。
「マェラとルゥイ殿下が、あんまりお似合いで、輝いてて、つい!」
「えー♡ キーア、ほんとに、いー子! そういえば入学試験のときもそんなだったねー♡」
マェラが頭を、なでなでしてくれました。
ちょっとうれしくて、ぽわぽわするキーアの隣が、ひんやりする。
「…………はぁア……? どーいうこと……?」
………………え…………?
いつもとろけるはちみつ王子ポジなルゥイ殿下の、至高のかんばせが、お、おそろしい感じに──!?
だ、だいじょぶですか、ルゥイ殿下!
誤作動?
も、もしかして、俺がなんか、やなこと言っちゃった!?
あわあわしていたら、鐘が鳴る。
もうすぐ講義を始めますの予鈴みたいだ。
「レォ、また後で!」
……あ。呼びすてちゃった。
脳内がレォだから、つい呼び捨てちゃう!
あわあわするキーアに、朱くなった耳で、ふうわりレォが笑う。
『呼びすててくれて、うれしい』
言ってくれるみたいに、いつもそんなに笑わないレォが、笑ってくれる。
「待ってる」
手をあげたレォが騎士科へと背を向けた。
「むかちゅく」
ぎゅむぎゅむ抱っこしてくれるルゥイが、かわいいです。




