表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました  作者:   *  ゆるゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/153

かんぺき!




 竪琴が歌う。

 夜が香る。

 魔道具の明かりが輝いて、あでやかに闇を染めあげる。


 ネィトの手をとったキーアは、舞踏場へと踏みだした。


 ヤエの宣伝になるよう、やわらかに魔力を流す。


 魔法の糸に、光が走る。

 やわらかに色を変え、ほのかな魔力にきらめいた。


「わあ……!」


 ほっぺを真っ赤にして、ネィトが喜んでくれました。


「おお……!」


 魔法糸を使った刺繍をしている人は、少ないらしい。

 感嘆の声がさざなみのように、広やかなホールを伝ってゆく。


 ちょこっとヤエさまの宣伝になったみたいです。

 よかった。


 キーアが身をひるがえすたび衣の刺繍が輝いて、魔力の光が、ふわふわ揺れて、踊るキーアとネィトをきらめかせた。


 手を繋いで、やさしく腰を抱いて、踊る。


 踏みだす足に、ネィトが足を引く。

 ネィトが踏みだしたら、やわらかに足を引く。


 ロデア大公国では、踊りも形式ばったり奇抜だったりしない。



 一緒に踊る人と、指を重ね、ぬくもりを重ね、心を重ねられるように。


 やわらかに抱きよせて、踊る。


 ほんのり見あげてくれるネィトの星の瞳に、キーアの笑顔が映ってる。



 トマとヨニが一緒に叩きこんでくれたステップは、もうキーアの身体に染みこんで、やさしくネィトをリードした。


「きーちゃん……♡」


 キーアの腕に身をあずけ、うっとり見あげてくれたネィトは、一瞬、踊っていることを忘れたのかもしれない、足が、もつれる。

 間違ってキーアの足を踏みそうになったのをこらえるように、華奢な身体が、つんのめる。


「……あ、ごめ──!」


 よろけたネィトを、やさしく胸と肩で支えたキーアは、ネィトの細い腰を抱く腕に力をこめた。


 崩れたネィトの体勢が踊りの一部だったかのように、やわらかにステップに戻る。


 まるで、気持ちが高まって、すこしだけ距離が近くなってしまっただけのように。




 スーパー従僕トマが、踊るときの身体の使い方を叩きこんでくれた。


『かんぺきです、キーアおぼっちゃま!』


 拍手してくれたトマの隣で、ヨニが首を振る。


『いいですか、キーアおぼっちゃま。舞踏会で踊るときには、相手がいらっしゃいます。いちおう相手は伴侶(予定)、しかも高位貴族トリアーデ家のネィトさまです。

 ロデア大公国の舞踏会で踊るときに、最も大切なのは、何だと思いますか?』


『間違いなく踊ること? わかった、相手の足を踏まないこと!』


 えへんと胸を張ったキーアに、微笑んだヨニは首を振る。


『相手の方に、恥をかかせないことです』


『……恥?』


 首を傾げるキーアに、ヨニは深くうなずいた。


『足を踏まれたとしましょう。キーアおぼっちゃまが『痛い!』悲鳴をあげたら『ああ、ネィトさまがキーアおぼっちゃまの足を踏んだんだ』舞踏会にいる皆に伝わります。『大公宮舞踏会で、伴侶(予定)の足を踏む』高位貴族としては、ありえない失態です』


 いくら、平民に毛がぴよんとしてるロデア大公国の貴族とはいえ、高位貴族となると、求められる水準がかなり高まるらしい。


 厳しい。

 ネィト、大変だ!


『な、なるほど……?』


『ですから、キーアおぼっちゃまにとって最も重要なのは『足を踏まれても、全く痛くない顔』なのです』


『な、なるほど──! 足を鍛えるんだ!』


 踏まれても痛くなくなるように!


 理解したキーアに、微笑んだヨニは首を振った。


『舞踏会で最も心がけるべきなのは『鉄壁の笑顔と、平常心』です』


 今度こそ、わかった!


『ルゥイ殿下だ!』


『そのとおりです、キーアおぼっちゃま』


 深く深くヨニがうなずいてくれる。


『なるほど。じゃあ、足を踏まれそうになった時や、相手の方がよろけた時に、さりげなく支えて、何の問題もなく踊っているように見えるのを目標としましょう!』


 ふんすと鼻を鳴らしたトマが、相手役で思いきり足を踏みにきてくれたり、思いきり体勢を崩してくれたり、誰かにぶつかられたり突きとばされたときみたいに飛んできてくれたりするのを、難なく支えて踊り続けられるように、鍛えてくれました!


 ネィトがちょこっとよろけるのを支えるくらい、簡単だよ!


 やさしく抱きよせて、抱きあげて、やわらかにステップに戻る。


「…………え……?」


 びっくりしたみたいに見開かれた星の瞳に、ちいさく笑う。



「だいじょうぶ。上手だよ、ネィト」


 他の人に聞こえないように耳元でささやいたら、耳まで真っ赤になったネィトが、かわいい唇を開いた。



「きーちゃんが、かっこよすぎる──! きゃ──♡」


 もだもだしてる!

 踊ってる最中なのに!




『悶える相手を、何事もなかったかのように、抱きよせて踊り続ける』も


『…………それは、さすがに、いらないんじゃないかな……?』


 うろんな目になるキーアをよそに


『とっても必要だと思うので、会得しましょう!』


 トマが、かんぺきに叩きこんでくれました!


 全く協力してくれない相手を抱きあげて踊るんだよ?

 腹筋と背筋が割れるよね。バッキバキだよ。


 その成果を、今、ここに──!



「え、うそ、きーちゃん、かっこいー! きゃー♡ すごい、僕、浮いてる!」


『きゃー♡ きゃー♡』してるよ。

 踊ってる相手は、いちおう伴侶(予定)だけど、顔も名前も声もないモブだよ?


 だいじょぶか、ネィト!

 悪役令息が、誤作動してるよ!



「はいはい、ネィト、足を出してね。まだ曲が鳴ってるからね。踊ろうね」


 もだもだするネィトのほっそい腰を抱きあげて、踊ってるように見せる。


 これもトマが叩きこんでくれたよ、かんぺき!



「きゃ──♡ きーちゃん、かっこい──♡」


 抱きついてくるネィトを抱っこして、くるりと回って踊りました。


 衣のすそがひるがえり、やわらかに魔力の光をふりまいて、踊るキーアとネィトを染めあげる。



「わあ……!」


 ヤエさまの素晴らしい服の宣伝も、ちゃんとできたみたいだよ。


 かんぺき!


 のはずなんだけど。



 ルゥイ殿下と、レォさまと、大公殿下からも、凍気があふれてる。


 ……おかしい。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ