忘れてた!
「……まあ、魔王がやって来たとしても、闇の魔力という意味でも、顔でも、おしりでも、キーアを選びそうだけど──」
ぽそぽそ呟いているルゥイの声が、あんまり聞こえないんだけど、不穏な気がする──!
振りかえるキーアに、ルゥイが、鉄壁の微笑みを浮かべた。
「キーアは、僕が、守るから」
「きーちゃんの伴侶は、僕です! 僕がきーちゃんを守るんたから!」
ぎゅむ。
抱きしめてくれるネィトが、かわいい。
「(予定)だろう? 詐称はよくない」
ふんと鼻を鳴らしたレォが、ぺいとネィトを引き剥がした。
「キーアは、俺が守ります」
断言してくれるレォが、かっこよすぎる──!
「目を覆っていようが、いまいが、魔王には関係なさそうですし、魔王が来たらすべてが終了するので、髪をあげてもよいのではないでしょうか」
ロデア大公国の防衛を担うレザイ家の次期当主だろうレォが言ってくれると、説得力が違う!
キピア家、没落中で、平民まで秒読みだからね。
『守ります!』って言っても、信頼性0だよね。知ってる。
「ぼ、僕、きーちゃんが守ってくれるなら……髪を、あげたい、です」
ちっちゃな胸を張るネィトが、かわいー!
「俺が、ネィトさまをお守りします。だからどうか、過去にあったことを、ねじまげて、今を生きるネィトを、虐げないでください。お願いします!」
大公殿下に、大公宮に、居並ぶ皆に、膝を折る。
敬礼をとくよう、かるく手を挙げた大公殿下は、微笑んだ。
「ネィトに、やさしい気持ちを、ありがとう」
さっと玉座から立ちあがった大公は、ネィトの頭をやさしく撫でる。
「よかったな、ネィト。……今まで、すまなかった」
「はい、おじうえ」
ふわふわ紅い頬で微笑むネィトの、紫の瞳を見つめた大公は告げる。
「今現在、ロデア大公国に生きる紫の瞳を持つ者はネィトだけだが、これから生まれくる紫の瞳の者が虐げられたりせぬよう、法を制定することとする。以降、『紫の瞳は、魔物の目』吹聴することを、禁止する」
天に誓うように手を挙げる大公殿下に、皆が一斉にこうべを垂れた。
あわててキーアも頭をさげる。
「キーアのおかげだ。ありがとう」
微笑んでくれる大公に、キーアは首を振った。
「ルゥイ殿下や、レォさまが後押ししてくださり、大公殿下がお認めくださったからです。ありがとうございます」
やわらかに最敬礼するキーアに、大公の笑みが深くなる。
「御礼に一曲、踊ろう」
微笑んで腰を抱こうとする大公殿下の腕を、さっとルゥイが阻んだ。
「……母上? それは全く微塵も御礼になっていないと思います」
「いやほら、いちおう顔面、ロデア大公国で第2位だから」
にこにこする大公殿下に
「………………殿下………………?」
大公配な、ルゥイのお父さんの声が、大地をえぐってる。
ネィトとキーアのごあいさつが、とっても長くなってしまったけど、貴族では最高位のネィトには誰も何も言えなかったよね、ごめんなさい! というわけで、皆のごあいさつが豪速で進んでゆく。
大公殿下が微笑んで『よき夜を』を言うロボみたいになってる。
そんなになってても、かっこいーよ!
さすがロデア大公国で第2位の顔面!
思わず拝んだ。
反射だよ。
となりのネィトが、ぷっくりしてる。かわいい。
「反射だから。拝ませて? かっこいー人は讃えないと!」
「……キーアは、ああいう顔が、このみなの?」
拗ねたみたいに唇をとがらせるルゥイが、めちゃくちゃかわいーです!
「僕も成長したら、あんな感じになると思うから、伴侶には最適だと思う」
微笑むルゥイの腕がキーアの腰へと伸びるのに、ネィトのちいさな身体が割りこんだ。
「きーちゃんは、僕の伴侶なんだから!」
ぎゅむ。
抱きついてくるネィトが、かわいー♡
「(予定)を抜かすな」
ぷっくり膨れるレォが、かわいー!
ごあいさつ攻撃を受けている大公殿下に見とれていたけど、主人公マェラのぴんくの髪が見当たらない。
「今日は下位貴族の人たちはいないのかな?」
首を傾げるキーアに、ルゥイが頷く。
「ああ、人数が多いから、明日にすると母上が」
「ごちゃごちゃしちゃって、踊れないもんね」
ネィトが大公宮に詰めかける貴族たちを見渡した。
たしかに、既にもういっぱいいっぱいだ。
なるほど、BLゲームが始まっていないから、攻略対象との出会いやダンスは制限されているのかもしれない。
ゲームが始まった瞬間から親密度100! とかにならないようにね。
悪役令息と攻略対象の親密度が100! とかになってたら、それも卑怯だと思ったけど、氷の目がネィトを刺してて、ネィトもぷっくりしてるので、親密度は0かもしれん……公平になるように強制力が働いてるのかな……?
うむうむするキーアの腕に、ネィトの腕がからまった。
「きーちゃん、僕と、踊ってね」
「そうだよ、練習したんだよ! 今まで踊ろうともしなくて、ほんとにごめんなさい」
深々と頭をさげるキーアに、ネィトが首を振る。
「ううん。僕も、別人みたいなキーアとは一緒に踊りたくなかったから。……ごめんなさい」
ふたりで頭をさげて、ふたりでおでこをくっつけて、ふたりで笑う。
「ちょっと、近いよ」
「大公宮舞踏会に、ふさわしくない近さだ」
ぐいい、とルゥイとレォに引き離されました。
ルゥイもレォもネィトの頬も、ぷっくりしてる。かわいい。
衣の裾が引っ張られて、キーアは振り返る。
渾身の装束をつくってくれたヤエが、拳を握った。
「キーアが可愛すぎて、俺の服を誰も見てくれてないけど、踊る時くらいは見てくれると思う! から、頑張って魔力を流して! お願いだから!」
ぴょこんとキーアは跳びあがる。
忘れてた!
「わ、わかりました、ヤエさま! がんばります!」
そうでした、ヤエさまの服を宣伝するために、舞踏会に来たのでした!
大公殿下へのごあいさつが終わったのだろう、竪琴が、ゆるやかに楽を奏でる。
皆が、伴侶の、恋人の手をとりはじめた。
最初のダンスは、最愛の人と。
伴侶(予定)がいるなら、もちろん、その人をお誘いするのが礼儀だ。……断られた時点で(予定)じゃなくなるよね。スリリングだ!
キーアは、うやうやしく膝を折る。
「俺と踊ってくれますか」
紫の瞳を見あげる。
「よろこんで」
ふわふわ赤い頬で、笑ってくれた。




