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   ③ー1

 昨日の飲み会は楽しかったな。久々に酔っちゃった。

「あんた、久しぶりのビール、美味しかったけ?」

「はい」

 僕が仕事していたら、いつものように山崎さんが声を掛けてきた。

「なんか、お酒弱くなったかもしれん。すぐに酔ったみたいで、あんまり覚えてないんです」

「ほんと? すごく楽しそうに喋っとったよ。岩谷さんと」

「そうですか。なら良かった」

「何が?」

「いえ、酔った勢いで粗相してないか、心配だったんです」

「意外とそういうの気にすんがだね。大丈夫だったと思うよ。私が見とった限り」

「はい」

 てことで、そろそろ昼か。仕事は一旦終了。


 僕がいつも昼飯を食べる場所は、パソコンが置いてある部屋。親が弁当を作ってくれるので、そこは感謝している。

 ここは、一応、仕事部屋なんだけど、食堂で食べるのも僕は苦手だから。ここだと、インターネットをしながら、日々の話題も収集できるしね。そして、僕が弁当を食べ終わるかどうかくらいで、だいたい人がやって来る。

「北村さーん。元気ですか」

 ほらね。

 この人は瀬名さん。背が高くて、力もあって、上司の南からも可愛がられている。普段は真面目そうな顔をしているけど、僕にいつも冗談を言ってくるんだ。

 いつものことだから、僕は瀬名の相手をすることもあれば、軽く受け流してインターネットをしてるかな。何事もそのくらいの距離感がいいでしょ。


 んで、次に部屋に入ってきた人は、坂下さん。この人は昼は上の食堂で食べていて、食べ終わったらここに来るときがある。

 彼は今年の一月頃にうちの会社に来たらしいけど、前の会社も似たような業種の会社で、一緒に仕事をする時もあった。僕もその頃から顔は知ってたし話もしてた。社会は案外狭いってことかな。

 何もすることがない時、彼はよく棚に置いてある資格の本を読んで、どの資格を取ろうかと言ってる。意外と真面目なんだね。


 あともう一人、塚田さんは僕の一つ年上だけど、もう課長なんだ。真面目で仕事熱心なんだ……と思うでしょ。僕もそこは否定しない。でも、結構冗談も好きだし、飲み会でも弾けてるし、普段は抑えてるのかな、なんて僕は思ってる。

 いつも遅くまで残業して、すごいよな。僕には絶対に無理。


 で、この人たちといつも、あーだ、こーだと雑談している。お昼休みだけじゃなく、仕事中も雑談している時もあるけど。まあ、それくらいはいいでしょ。

 みんなと話をしていると、たまに部屋の前を通り過ぎる沢田さんを見かける。坂下さんに聞くと、彼も食堂で食べてるみたいだね。その後は隣の部屋で休憩してるそうだ。

 僕は食堂で昼飯なんか食べられない。だって、男性は他に坂下さんだけで、あとはみんな女性でしょ。食事が喉を通らないよ。

 え? そうだよ。僕は案外緊張しいだし、慣れてないことは苦手。それに、南さんもいるから、仕事の話をして来られたら飯がまずくなるよ。


 という感じで、久々の会社生活が始まった。ただ、僕は自分で言うのもなんだけど、そんなに真面目社員じゃない。

 いかに楽をして稼ぐか。これが僕のモットーかな。なんてね。

 でも、久しぶりに仕事をしても、ブランクはそれほどないな。主に内勤を担当にしてもらったのもあるから、重い物を持つこともないし。そうだ、何かあったら瀬名さんに持ってもらおう。

 そう、僕の場合、腰がやばいから、あんまり負担をかけないようにとは思ってる。歩くのもゆっくり歩いてるし、車も買い替えずに古いままでいいかな、なんて。慣れてる座席の方が、腰にはいいでしょ。たぶん。


 僕がいるチームは、四名かな? 五名かな? 幾つかのチームを兼任している人もいるので、正式にはよくわかんない。でも、僕の作業場の傍にいるのが瀬名さんと山崎さんだから、この二人とは仕事中もよく喋ってる。

 あ。まずい。禁断症状が。

 カラオケ行きたくなってきた。僕、カラオケが好きなんですよ。他にも好きなものはあるけど。もう一年以上行ってないからなあ。

「瀬名さん、カラオケ行きません?」

 僕は作業の手を止めて聞いてみた。

「カラオケですか」

「うん」

「別にいいっすけど」

 オッケー。これで二人。他に誰が行くかなあ? 前に一緒に行ってた人は退職しちゃったし。

「あんたら、仕事中にカラオケの話け」

 山崎さんがいつものように話に入ってきた。

「カラオケ行きたいんですよ」

「ずっと行けんかったもんね」

 山崎さんなら知ってるかな?

「他に、誰か行きたそうな人いませんかね?」

「あれ、坂下さんは?」

「ああ。そうですね」

「塚田さんも」

「塚田さんは行くんだっけ?」

 僕は瀬名さんに聞いてみた。

「どうですかね? 俺は塚田さんとは行ったことないです」

 後で聞いてみるか。

「あと、ほら、沢田さんは? カラオケ好きらしいよ」

「そうなんですか」

「聞いてみたら?」

「えー? 僕が聞くんですか」

 沢田さんとは、まだ喋ったことないんだよな。どんな人かもわかんないしなあ。

「嫌なら、私から聞いとこうか?」

 あ。ラッキー。

「じゃあ、お願いします」

 よかった。初対面の人って苦手なんだよな。

 僕は止めていた手を動かして作業を再開した。



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