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   ②

 今日は僕の久々の出勤日だ。

 この道を通るのも、約一年振り。まだ川沿いの桜並木は、花びらが残っているな。

 この期間、僕はちょっとした手術のため病院に入院し、その後は数ヵ月間、家から病院へ通ってリハビリをしていた。

 会社の様子はどうなっているかな。お見舞いに来てくれた人から聞いた話だと、僕がいない間に何人か退職したらしいし、もう少しで西山さんも寿退社するそうだ。西山さんと同期入社の塚田さんは寂しがるだろうな。


 僕の名前は北村光雄。三十二歳。二月生まれ。

 僕のことなんかに興味はないだろうが、県立大学を卒業してから、今の会社でもう十年ほど働いていることになる。我ながらよく続いている。

 A型だからなのか細かいことは気になるタイプで、何でも自分で納得してからやりたい。だから、人からあれこれ言われるのは好きではない。そういう時は、僕もついカッとなってしまう時がある。

 あ、でも、普段はおっとりしていて、怒ることは滅多にないと思う。あまり内面を表に出さないけれど。

 あとは、体格の割に恥ずかしがり屋だとか、あがり症だとか言われるかな。まあ、入院の間にだいぶん痩せてしまったけど。

 ちなみに、僕は自分のことを普段は僕と言っているが、俺という時もある。なぜかはわからない。そういう性格なのだろう。


 その日、午後一で出勤した僕は、出欠札を久々に白色にひっくり返した。

「おはようございます。入院中はご迷惑をおかけしました」

 挨拶はおはようでよかったよな。午後だけど。

「あ、北村君、リハビリは順調だった?」

「はい。ご迷惑をおかけしました」

「いやいや。体に気をつけて、無理しないようにね」

「はい」

 この人は森社長。入院中に何度かお見舞いにも来てくださり、僕の体調にも配慮してくれる、いい人だ。


「あら、北村さん、今日からでしたね」

「はい。お見舞いに来てくださり、ありがとうございました。あの、これ皆さんで分けてください」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、後で配っておきますね」

 廊下ですれ違ったこの女性は、事務とかを担当している白川さん。僕が休職する頃に入社してきた。事務だけでなく、受付や来客の対応もするし、今みたいに雑用もしてくれる。

 とても気が利く人。僕はどっちかというと、そういう女性が好みかな。

 あ……、僕の好みなんか聞きたくもないか。


 そういえば、さっき二階で出欠の札を見たけど、やっぱり何人か知らない人が増えていた。どんな人なのだろう。まあ、苦手な人じゃなければいいか。

「入院中は、お世話になりました」

 僕は、廊下の端から最初のドアを開けて、挨拶をした。

「あ。北村さーん。久しぶりー」

 西山さんだ。さっき言った寿退社する人。僕の先輩。いい人。

「もう良くなったんですか?」

「はい」

「入院する時は心配したんですよ」

「ありがとうございます。」

「でも、良くなってよかった。入院って辛いでしょ」

「ええ。何もすることが無いのが、暇で。暇で」

「そういう辛さなのね」

「はい。やっと好きなだけゲームできます」

「あははは」

「それより、ご結婚、おめでとうございます」

「ありがとうございまあす」

 その時、西山さんの後ろにいた男の人が、僕に会釈をした。僕もその人に会釈をした。


 その人は少し細身の体型で、真面目そうな顔。新人さんだ。白衣を着ているってことは、内勤担当なのだろう。西山さんの後を引き継ぐみたいだな。

「また外回りの仕事になるんですか?」

 西山さんが聞いてきた。

「いえ。今度からは、山崎さんのチームになります」

「そうなんですね」

 山崎って人は、ベテランの女性社員で、いろいろ面倒見のいい人。僕のことを、北ちゃんと呼ぶんだ。

「北ちゃん、おかえり」

 この人ね。

「ん? 何言っとんが?」

「いえ、こっちの話」

 僕もたまにでるけど、会社には結構訛りのある人もいるからね。でも、大体の意味はわかるよね? 今のは、「何を言っているの?」という意味だね。

「みんなに挨拶しとったが?」

「はい」

「新しい人もおったやろ」

「うん。新人さんが多くて、僕が新入社員みたいな気分ですよ」

「そっか。一年間おらんかったからね」

「ええ」

「沢田さんって男の人、この前来たばかりの人ね、北ちゃんと同い年らしいわ」

「へえ」

 さっきの白衣の人のことかな。

「関西の大学も出てるって。頭良さそうだわ。北ちゃん、いろいろ教えて貰われ」

「ふうん」

 うるさいなあ。僕はどうせ、馬鹿ですよ。でも、頭がいいって自慢するような人は嫌いだから、話はしないかも。

「あ、そうそう。今週末、新人さんの歓迎会と北ちゃんの退院祝いあるらしいから。休まれんなよ」

「わかってますよ」


 週末の宴会の日がやってきた。こういうのって、私服に着替えるのが面倒臭いんだよな。さて、そろそろ行くか。

 席はくじ引きだけど、主賓の僕は社長の横の席らしい。嫌だなあ、こんな目立つ席。そんで、社長の逆側が沢田さんって人。この人が同い年の人か。

「飲み物のほうは皆さん揃いましたか? それでは、まず社長から一言お願いします」

「ええ、今日は北村さんの退院祝いと沢田さんの歓迎会ということで……」

 うわあ、久しぶりのビールだ。先生にはほどほどにと言われているけど、今日くらいはいいよね。

「それじゃあ、乾杯!」

 部長が声を掛けて、皆は乾杯した。久々のビールが美味しい。

「おい、これからはもっと体調管理しないとだめだぞ」

「はい」

 なんか嬉しいなあ。嬉しくて、ジョッキの半分ほどを一気に飲んじゃった。

「おいおい、病み上がりなんだから、あまり飲みすぎるなよ」

 岩谷部長が僕を見て驚いたように言った。

「わかってますって」

 やっぱり、健康が一番だよな。わかってはいるんだけど。

 岩谷さんもいろいろ話しかけてきてくれて、僕が戻って来て嬉しそうなのがわかる。それが僕も嬉しいな。

 あれ、なんか久しぶりだから、もう酔ったかな? まだ半分しか飲んでいないのに、気持ち良くなってきた。お酒弱くなったかな?

 あ、沢田さんが立って挨拶している。真面目でおとなしそうな人なのかな。でも、何を言ってるかわからないくらいに酔ってきた……。ああ、眠い。



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