十一
彼が入院するという日になった。その日、僕は家に帰ると、気付かないうちに携帯電話にメールが二つ届いていた。北村からのメールだった。
「まんず、まんず、無事入院しますた」
彼らしい面白い言葉使いだった。僕はもう一つのメールも開いた。
「続き。見舞いは来んでも、よかよ」
僕はクスッと笑った。どこかの方言のような言葉で、僕に心配をさせないように思ってくれているのだろうか。僕は嬉しかった。
それを見た後、僕は彼にメールを送った。
「もしかしたら、ゲームばかりしてるんじゃない?」
「何? なんでばれてるんですか。はっ。まさかストーカー?」
彼の返信メールは、会社で談笑している時のように面白かった。次に、
「痛みはどう?」
と聞くと、
「右足と臀部が、内側から一揆をおこしてるぜ」
と返ってきた。痛みが治まらないときは、痛み止めの薬を飲むと教えてくれた。
北村とメールでやり取りをする日々が続いた。
ただ、会社へ行っても、いつも彼が座っていた席はぽっかりと空いており、昼休みにも、僕はいつもの部屋へはあまり行かなくなっていた。
「北ちゃん、元気にしとるかねえ?」
「どうですかね」
僕は山崎と、仕事の合間に言葉を交わした。
談笑部屋に五人が集まって他愛のない話をしていた時が、まるで遠い昔のようだった。
いつも談笑していた彼らも、北村がいないことにどこか寂しさを感じているようだった。一人欠けるだけで、こんなにも空気が変わるものだろうか。
彼の陽気なキャラクターは、それほどみんなから愛され、存在感があったのだろう。パズルのピースが欠け、僕の気持ちは漂っていた。
ただ、自分の気持ちは表に出さずに、僕は普段どおりを装って業務をこなした。その頃の僕は、チーム内の仕事の分担を振り分けたり、計画を立てたりする立場になっていたが、同僚には僕の気持ちを悟られないように振る舞っていた。
会社の女性社員達は、北村の手術の成功と回復を祈って、千羽鶴を折っていた。僕は何度かその様子を見かけたが、なぜか僕からそれに参加しようとは思わなかった。彼との親しさを表に見せたくなかったという気持ちもあったし、物ではなくて彼を想う気持ちが大事なのだと自分に言い聞かせていた。
そして、毎日、家に帰ると彼からのメールが来ていないかチェックした。見舞いは来なくてよいと彼からメールをもらっていたので、週に何度かやり取りするメールが、僕が彼を想う気持ちを繋ぐ手段になっていた。




