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会社を休んでいる間、僕は痛みが出ていない時は部屋でゴロゴロしたり、漫画を読んだりゲームをしたり、ごく普通の生活を送っていた。
一日のわずかな時間以外は、健康な人と全く変わらないんだけどな。
でも、腰に手をやると、左側が少し膨らんで、ポコッとしているのがわかった。腫瘍が大きくなってきているって先生は言ってたけど、これのことかなあ。
入院の日、僕は母親に付き添われて、また病院へ向かった。
どうせ暇になることはわかっていたんで、僕は携帯のゲーム機をいくつか持っていった。
あーあ、またこの生活か。
病棟の六階にエレベーターで上がり、四人部屋に入ってベッドの上に腰かけると、しばらく忘れていた、あの病院の薬品臭が鼻にツンとした。
看護師さんからいろいろと説明を受け、僕は渡された患者用の服に着替えた。
「みんな、今頃どうしてるかな」
僕はベッドに寝転がりながら思った。
同室の人のテレビの音が隣から小さく聞こえた。また、廊下を歩くスリッパや台車の音が聞こえてきた。
「やりかけになっていた仕事、瀬名さんがやってくれたかなあ」
「僕が担当していた分析、たぶん山崎さんに回るだろうな。悪いことしたな」
「昼休み、みんな何を話してるだろうな」
「結局、沢田さんには聞けなかったな」
イテテ。たまに痛みが出る。
この部屋は他にベッドが三つあるけど、僕はあまり他の人と話す気分でもなかった。
僕はカーテンを引いてベッドの周りを囲むと、外の景色をボーッと眺めたりゲームをしたりした。ゲームに飽きると、携帯電話でネットを見ていた。
「そうだ。メールを送ろう」
誰にと言われても、彼女もいない僕は、沢田さんしかいないけどね。
「まんず、まんず、無事入院しますた」
こんな感じでいいかな。あまり真面目に書くと心配するだろうし。
あ、しまった。見舞いには来なくてもいいって送っておこうかな。僕のために、わざわざこんな所まで来てもらう必要はないよ。
「続き。見舞いは来んでも、よかよ」
これで、よしと。
枕元に携帯電話を置いた僕は、ちょっと疲れたので目を閉じた。
気付くと、何時間か眠っていたみたいだ。
携帯電話を見たけど、返信はなかった。
丁度、夕食が運ばれてきたところだった。
僕はテーブルを近付け、ベッドに腰かけてテレビでニュースを見ながら、一人で食べる味気のない食事を口へと運んだ。
殺人事件のニュースとか、東京に新名所が出来たとか、何か別世界ってかんじ。ここにいると、外の音もほとんど聞こえないし。
すると、枕元の携帯電話の着信ランプが緑色に点灯し、音が鳴った。
「来た!」
僕は思った。やった! 思った通り沢田さんからのメールだ。何て書いてきたかなあ?
「もしかしたら、ゲームばかりしてるんじゃない?」
あはは。ご明察。僕がゲーム機を持ってきていることを、まるで見てたみたいだね。
「何? なんでばれてるんですか。はっ。まさかストーカー?」
僕はすぐに返事を書いた。本当は、僕が沢田さんの実生活をストーキングしたいくらいなんだけど。
沢田さんって、会社が終わってから白川さんを誘ってどこかに行ったりするのかな?
休日は遊びに行ったり、映画を見に行ったりしてるのかなあ? 二人の時はどんな顔してるんだろう? もしかして、一緒にホテルに行ってエッチなこともしてるの? まさかね。あ、変な想像をしたら股間が反応しだしちゃった。僕のバカ。
プルルル、プルルル。
またメールが来た。
「痛みはどう?」
沢田さんが、僕を心配して送ってきてくれた。もう隠してもしょうがないしなあ。
「右足と臀部が、内側から一揆をおこしてるぜ」
「今も痛いの?」
「今はだいじょぶ。さっき薬を飲んだから」
少しは心配してくれているのが嬉しいね。痛み止めの薬を飲むと、数時間は痛みも和らぐんだ。食欲はなくなっちゃうけど。
その後も、僕と沢田さんはメールでやり取りをしていたんだ。週に二、三回ってところかな。
「手術はいつなの?」
「まだ決まってないよ」
「塚田さんが部長に昇進したよ」
へー、そうなんだ。今までもチームの人を仕切ってたからね。
「それはそれは、おめでとうございます」
「北村さんも、カラオケ部部長に昇進したよ」
沢田さん、たまに面白いメールを送ってくるね。
「僕はカラオケ部引退します」
カラオケかあ。入院する前に行っておきたかったな。次行けるのは、いつになるんだろう。
「時間があるからって、あまりエッチなDVDばかり見ないようにね」
がーん。おい、僕はこんな所でそんなもの見ませんよ。僕ってそんなキャラだと思われてるの? というか、沢田さんもこんなメールを送るんだね。意外とエッチな話好きだったりして?
「お主も好きよのう」
「今日は上物が入りましたよ」
「お代官様、何を。あーれー。お助けー」
「よいではないか。よいではないか」
こんなメールを披露するのは恥ずかしいね。ほんと、馬鹿な二人だ。でも、何だろう。普段顔を合わせると出来ない馬鹿な話も、メールだと出来たりして。




