⑩ー2
そんなことがあってから、また別の時、部屋で僕と沢田さんが談笑していると、
「どこかに旅行でも行かない?」
と沢田さんが誘ってきたんだ。
旅行かあ。行きたい気持ちはあるんだけど、最近の僕の足の調子もあるし、即答はできなくて。だから僕は、
「うーん」
と答えを濁していたんだ。足のことを言って心配させるのも悪い気がしてさ。
でも、誘うなら、普通は女性だよね。しかも、沢田さんは白川さんと行きたいんじゃないの?
山崎さんから聞いた後も、二人が楽しそうに喋っているのを何度か見たよ。僕がそういう意識で見ているからなのか、白川さんが沢田さんを見る目も、他の人と話す時とは違って見えたし。
だから、いつものように彼が僕の肩や腰を揉んでいる時、ひとつ聞こうと思ったんだ。
「沢田さんって、白川さんが好きなんですよね?」
という自然なかんじで。別に変じゃないよね?
でも、どれだけ聞こうと思っても、聞けなかったんだ。
友達と恋バナすらしたこともない僕だから、そんな簡単そうなことが聞けなくて。僕って、デジカメとかゲームの話なら、口を閉じていても出てくるような人なのに。
嘘だろって思ってるでしょ? だけど、本当なんだ。恥ずかしいというか、純情というか。それに、そんなことを聞いたとしたら、僕が白川さんに気があることを知られちゃうとも思ったし。丸くて田舎くさい顔に似合わず、僕はそういうタイプなんですよ。
そしてある日、午後の業務が始まる直前、僕は勇気を出して振り向いて、仕事場へ行こうとした沢田さんに、ついに聞こうと思ったんだ。
さっきのセリフが、何度も僕の頭の中で練習したセリフが、喉まで出かかっていたんだけど……。
やっぱり恥ずかしくて言えなかった。だけど、その聞きたい気持ちと、それとは反する照れ隠しの気持ちで、とっさに僕の手は沢田さんの腰のあたりを触ってしまって。
僕自身びっくりしちゃって、すぐに向き直ってパソコンの画面を見たんだ。なぜか、僕はドキドキしていた。
沢田さん、僕が触ったの、気付いたかな? 何か変なふうに思われなかったかな? でも、僕は前を向いていたから、それを確認することはできなくて。
モヤモヤとした気持ちのまま、僕は以前と同じように彼と接していたんだ。沢田さんも、お昼休みには僕のところに来て、いつものように肩や腰を揉んで。僕も冗談を言って。
「沢田さんは、この会社で誰か好きな人がいるんですか?」
なんて。うう。聞いてみたい。けど……。僕って、本当にだらしがないよね。
でも、その時、僕、なんか変な感じがしたんだ。誰か好きな人がいるのか聞いた時に、沢田さんの答えが、「僕」だったらいいなって……。
わかってますよ。男の人が男の人を好きになるのは変だって。でも。
でも、僕はいつの頃からか、沢田さんと一緒の空間にいることが、なにか安心できる気持ちになっていて。
慰安旅行の夜、二人でテレビを見ていた時もそうだったし、体を揉まれても別に嫌じゃないし、腕を絡めたときも、実は少しドキドキしていたんだ。
僕って、沢田さんが好きなのかな?
好きって、どういうこと?
僕は沢田さんと一緒に話をしていて楽しいし、癒されるというか安心できるというか。彼のおとなしいけど照れ屋なところとか、しっかりしてるところとか、たまに、僕に素の表情を見せてくれるところも、なんかいいなって。
ただ、この感覚が、僕が白川さんを好きと思っている感覚と同じなのか違うのかが、今の僕にもよくわかんない。
もちろん、彼のことを友達と思っているけど、他の同僚とは違う気持ちなのは自分でも何となく感じてる。
僕は、次に沢田さんが僕の胸を揉んできたら、脇を閉じて彼の腕を掴み、
「何するんですか。もしかして、僕のことが好きなんですか?」
なんて言って、彼を問い詰めようと思って待ってはいたけど、あれ以来、沢田さんは胸を揉んでこない。
何回もシミュレーションしてるんだけどなあ。
僕のどうでもいい話に付き合ってくれている、この笑顔にもっと近づいてみたい。彼の手を握ってみたい。
人の気持ちを考えて僕がドキドキするのって、初めての経験だよ。




