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   ⑩ー1

 僕が復帰してから、なんだかんだ、もう一年経っちゃったのか。早いな。

 仕事は、たまに南さんから分析のやり直しを食らうけど、大きなミスもなく、ぼちぼちってとこかな。人生って、浮き沈みのない、それくらいが丁度いいよね。

 カラオケも、いつものメンバーで数ヵ月に一度のペースで行っているし、今年の初めには慰安旅行も行った。

 ずっと入院とリハビリの生活だったから、なんか、しみじみとした感慨が湧いてくる。

 仕事のブランクが不安だったけど、新人の人とも、ある程度お互いに慣れたと思う。

 その中でも沢田さんとは特に仲がいいね。今でも僕の肩とか腰を揉んでくる時がある。僕らの間のコミュニケーションになっているような。


 ただ、ひとつ気がかりがあるとしたら、やっぱり僕の体のことかな。

 うん。前もちょっと言ったけど、たまに鈍痛や痺れがあるんだ。手術の後遺症なのかな?

 ある日、僕は作業場で、山崎さんとその話をしていたんだ。山崎さんは年配で話しやすい母親みたいな人で、たまに僕の愚痴や悩みを聞いてくれる。

「右足の感覚がなくなる時があるんですよ」

 僕は、薬さじを持って電子天秤で試薬を量りとりながら、隣の山崎さんに言った。

「あんた、一回、病院行ってこられま」

 山崎さんは心配そうな顔で、僕に病院で診てもらうように勧めた。

 試薬を量りとりに来た沢田さんも、僕らの会話が聞こえたらしい。

「どうしたんですか?」

「北ちゃん、足の感覚がなくなる時があるんだって」

「そうなんですか」

「うん」

 僕はそう答え、椅子に座りながら、右足をさすった。心配してくれるのは有難いけど、心配され過ぎるのも相手に気を遣わせて悪いというか。

「血流が悪くなってるんじゃないのかな? 病院行って来たら?」

 沢田さんが言った。

「そうやろ。私も病院に行けって言っとったとこながやぜ」

「うん……」

 自分では、それほど大したことじゃないと思ってるんだけどね。まだ日常生活も不自由なくできるくらいだし。


 あ、そうそう。僕が沢田さんにネズミを見せて驚かせたり、広告を見せたりしていろいろとちょっかいを出したからなのか、沢田さんも僕の体を激しく揉む時があって。

 まあ、別に嫌でもないし、なんというか、僕も沢田さんに揉まれるのがちょっとだけ嬉しかったりするんだけどね。

 それで、ある昼休み、僕がインターネットをしていると、僕の脇の下から沢田さんが両手を入れてきて、僕の背後から胸を揉んできたんですよ。そんなことが二、三度あったかなあ。

 当然、僕は驚いたよ。だって、肩や腰はいいとしても、沢田さんが胸を揉むなんて大胆なことを、しかも男の人にするなんて、想像してなかったからね。胸を揉まれたことなんて僕も初めてでさ。

「ぎゃあ。何するんですかあ」

 僕はおどけて言った。でも、その手つきがなんというか、ちょっとエッチで。僕も少しドキッとしたんだ。

 沢田さんって、おとなしくて、誠実キャラで、今では南さんから報告書のチェックもお願いされているような人で。あまりエッチなイメージはなかったんですよね。みんなで談笑している時にも下ネタは言わないし。

 という僕も、エッチなところは他の人には見せないけど。あ、動画が見られたから、もう会社の人にはばれてるか。あはは。

 いや、それでね、そんな沢田さんが、僕の肩を揉んだり、僕の胸を揉んだりして。


 今まで何とも思ってなかったけど、何でだろうなと考えたんだ。

 僕がいじられキャラだというのは認めるけど、僕が見る限り、沢田さんは他の人にそんなことはしていない。もちろん、女性社員にしたらセクハラになっちゃうけどね。

 この前は、僕に腕を絡めてきたかと思えば、なぜかよそよそしい態度の時もある。僕のこと嫌いじゃないと思うけど、時々、僕もわからなくなって。

 うーん、僕は他人にはほとんど興味がなくて、人の気持ちは今まで気にしたこともなかったから、そういうのを考えるのは苦手なんだよなあ。



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