⑨ー1
「結構、飲んでましたよね」
旅行の帰り、僕は疲れてバスの中でずっと寝てた。
そして、休み明けの月曜日、僕は仕事をしながら、山崎さんと旅行の話をしていた。
「そうなが。飲み過ぎて、宴会の後半に気持ち悪くなって、先に部屋に行って寝とったがよ」
「え。そうだったんですか」
たしかに、ペース速そうだったもんなあ。
「でも、北ちゃんのことは聞いたよ」
「え?」
「エッチなやつ、見たって。岩谷さんが」
「うわあ」
ちょっと待ってよ。一昨日のことが、もう広まってるよ。しかも山崎さんに教えたら、会社中に広まっちゃうじゃないですか。女性陣も、すでに全員知ってるんだろうか。
やだなあ、もう。当分、僕から女性陣には声を掛けたくもないや。
「もうね。その話はいいです」
「どうしたん?」
「白川さんにも見られたし」
「白川さん?」
「え? ええ。」
口が滑っちゃったかな。でも、もう嫌われてるだろうし、どうでもいいや。
「もしかして、あんた、白川さんを狙っとんが?」
「狙うというか……」
「好きながけ?」
あのお、僕にそんな照れること言わせないでくださいよ。
僕が黙っていると、山崎さんが僕に驚きの言葉を浴びせた。
「でも、白川さんは、沢田さんが気になっとんがじゃない?」
「え。そうなんですか?」
「この前の二次会も、白川さんが沢田さんを誘っとったねか」
たしかに声掛けてたよな。スナックの席も隣だったし。もしかして白川さんが歌ったカラオケもその流れ?
まさか、二人は既にそんな関係に? そんな素振りは見せてなかったけど、沢田さんって、意外と手が早い?
そっかー。沢田さんかー。でも、わかるなあ。見た感じ、沢田さんは優しそうだし、気も利きそうだし。他人から嫌われそうにない人って、いるよね。沢田さんには勝てないや。降参です。
数日後の昼休み、僕が保存している動画のことで、今度は坂下さんと瀬名さんにいじられていたんだ。
「北村さんって、結構エッチですね。今度、DVD貸しましょうか?」
「またあの動画、見せてくださいよ」
二人はニヤニヤして僕に言ってくる。シャイな僕は、そんなことを言われたらリアクションに困るじゃないですか。
いつもは饒舌な僕も、そういう話題には無口になっちゃう。
だから、僕はインターネットに集中している振りをしていたら、瀬名さんがいつもよりも長く僕の腰を揉み始めて、坂下さんもふざけて僕の腕とかをつまんできた。
「やめてちょー」
僕は振りほどこうとしたけどやめてくれなくて、そのうち、もう一人が僕の肩を優しい手つきでつまんだ。見上げると、それは塚田さんだった。
脂肪があるから、くすぐったいわけじゃないんだけど、みんなして何なのさ?
視線の先に、沢田さんがいた。よかった。
「沢田さん、助けてくださいー」
僕がそう言うと、笑いながら少し立ち止まっていた沢田さんは、こっちに来てくれた。
でも、驚いたことに、沢田さんも僕の腰をつまんだんだ。
がーん。まさか、いつもおとなしい沢田さんにまでやられるとは。
「沢田さんにもやられたー。僕、悪いことしてないのにー」
いや、僕も本気で嫌がっていたら、みんなを力づくで振りほどきますよ。でも、そんなことをするのも大人気ないし。別に、いいかなと。
それがあってからしばらくは、僕は四人に揉まれる日が続いた。僕が抵抗していなければ、そのうちみんな飽きるだろうと思ってたし、自分が愛されキャラと思えたら悪い気はしなかったんだ。
そして僕の予想通り、何週間かしたら、みんな僕を揉まなくなった。ただし、予想に反して、沢田さんだけを除いて。
それは、僕も意外だった。沢田さんは一番おとなしくて、内向的に見えた人だったし。
僕がパソコンをしていると、
「北村さん」
と言って僕の後ろに立って、遠慮がちに僕を揉む沢田さん。僕が冗談を言うと、僕の頭の上から、彼が応じてくれる。
沢田さんは、僕の話をいつも聞いてくれて、僕がさぼっていたら、たまに注意してくれる。
彼が理由なく怒っているところも、イライラしているところも見たことがない。だから、僕もなぜか安心できるんですよね。癒しフェロモンが出ているんだろうかってね。僕も欲しいよ。




